ご近所さんと遭遇してみる? 3
夕暮れの田舎道を独りとぼとぼと歩く。
いや、肩には緑青がずっと一緒に居てくれたから独りではないけど。
割と急な坂道のせいか力ない足取りは何もない場所で何度も躓くほどの力ない足取り。
あれから仕事を終えた遠藤さんにもう暗いからと草の汁と切り傷で汚れた手を掴まれて無理やり道路まで連れてこられて過ぎた時間に初めて気が付いた始末。
「心配なのはわかりますが今日はもう暗いのでまた明日にしましょう」
そういわれて遠藤さんは手にしていた草刈り機とクーラーボックスを道路脇に置いて俺を家まで引っ張って送り届けてくれた。
電気のついてない真っ暗の家に入ればトトトトトト…… と軽い足音がお迎えに来てくれた。
「真ー、おかえりー」
「真ー、ごめんなさい……」
「真ー、玄は?」
小さな手のひらサイズの小さな付喪神達が不安げに俺を見上げていた。
そしてもう一度
「玄は?」
岩さんの今にも泣きだしそうな顔に俺は何も言えなくって、だけど小さくてもそれですべてを察してくれた。
岩さんはそのままくるりと背中を向けてまっすぐ床の間に飾られている玄武岩で出来た本体へと向かい、その姿が融けるように消えてしまった。
「岩さん?」
追いかけて声をかけるも返事はなくただただ静かな鳴き声が聞こえてきた。
岩さんには玄さんがいない事がそれくらいショックな出来事なのだ。
亀と蛇の合わさった姿とされる玄武なだけにこの亀と蛇が絡み合う姿の彫刻から想像できるような超仲良しなのだ。
普段玄さんは一人のんびりしているけど、岩さんはそれを邪魔しないように、でもいつも玄さんをちらちらと見ている当たりこの幼さでしっかりとストーカーとしての素養を持ち合わせていた。
まあ、ともに寄り添い、後に番となる…… なんて言われるくらいだから半身の喪失は本体に引きこもるくらいのショックを抱えているのだろう。
「岩さん、また明日明るくなったら探しに行くから待っててね」
何も返事のない様子に俺は力なくともご飯の準備をする。
いつもより少ないごはんの準備に寂しさを覚え、そしてみんな一口二口食べて早々に鍋の中で蹲ってしまった。
あまりにその寂しい様子にスマホを手にすぐにつっきーへと電話をかける。
『はい、この世にあらざるお悩み相談所のつっきーです』
定番の挨拶に俺はすぐに声をかけることが出来なくて
『真、どうした?なんかいつもと違うとこっちが調子狂うぞ』
そんな指摘に
「つっきー、どうしよう。俺預かっていた玄さんを行方不明にしてしまいました……」
そういえば
『あいつに連絡は?』
「まだ。今日一日探したけど見つからなくて、どういってお詫びすればいいか……」
せっかく授かった命。
それを安全確保をしなかった不手際でこんなことになるなんてとどうやってお詫びの言葉を紡げばいいのかと思うも
『まあ、あれだ。最悪の事態を期待するしかない……』
頭の中が真っ白になった。
最悪と言うとあの烏骨鶏事件のその先の事となる。
「あのちみっこに一人であんな思いさせるなんて……」
『落ち着け。本体が無事ならあいつらは大丈夫だ。
それにちみっこと言ってもお前の何倍も年月を過ごした付喪神だ』
わかっているとはいてもあのたどたどしい言葉と一生懸命語りかけてくる声が耳の奥から剥がれない。
そしてこの真っ暗な世界で一人ぼっちで過ごしている事を思うと涙が出てきた……
『とりあえず俺から言えるのは何かあれば本体に戻ってくる。何かなくても本体に帰る事は出来るんだ。
もっとも何かあれば人間同様怪我をして動けないように何日か出てこれないかもしれないが、玄は付喪神だ。本体が無事であれば玄も無事だから、戻ってきた時温かく出迎えてあげれるように準備をしておけ』
そんな俺を励ますかのようなアドバイスに確かにそうかもしれないと思うも今日は相談料はいいから早く寝ろと言われてシャワーだけを浴びてベッドの上に横たわるのだった。
玄さんが、そしてちみっこ達が俺の中でこんなにも大きな存在になっているとは思わなかった。
普段は自由気ままなちみっこに面倒臭いと思いもした日もあったけど、こうやって一体が欠如しただけで不安になり、それがみんなの心に影を落とす事になった様子を見ればもう声もかけられない状況だ。
寝るには早い時間だけど俺は無理やり寝る事に集中して朝いちばん玄さんが戻ってないか確認する事に決めた。
そして……
戻っていなければまた玄さんが飛ばされた方向を探す事を決めるのだった。
一人寂しく草むらをさまよいながら玄さんがお家に帰りたいと泣きながら訴えている玄さんの夢を見た。
野鼠に追いかけられて、しっぽをかじられて泣いている玄さんの助けを呼ぶ声が聞こえたような気がした。
そんな寝れたのかどうかわからない夜を過ごせばみんな元気のない顔で起きてきて……
やっぱり岩さんは顔を見せてくれなかった。
「ごめんね。今日は玄さん探しに行くからみんなはお家から出ないでね」
心配げな視線を受けながらも昨日玄さんが吹っ飛ばされた方の草むらを探しに足を運んだ。
その前に、原因となったスロープを……
玄さんと朱華の念願とも言えるべきものを縁側から外すのだった。




