ご近所さんと遭遇してみる? 2
緩やかなスロープが出来て以来なかなかお庭で遊ぼうとしなかった玄さんと朱華が元気いっぱいにお庭に向かって駆け出すようになった。
玄さんは相変わらず亀の歩みだけど。
お家に帰れない、野生動物に追いかけまわされる恐怖を知っているのでそれなりに外遊びは危険だと身をもって知っているようだ。
それに大家さんの家で見た烏骨鶏たちの…… 以下略。
十分に納得できるし、それでも外に行こうとするのはやっぱりお外で遊びたいお年頃。
飛行能力のある緑青を羨ましそうに見る飛べないひよこの朱華の羨ましげな視線は確実に飛べるはずの鳥なのに飛べないと言う劣等感があるのだろう。
そして玄さんは半身(?)ともいうべき岩さんが縁側のわずかな隙間にちょうどいい隙間があってそこから出入り自由なのを良い事に昇り降りをしているのを羨ましく眺めながら日向ぼっこをしていると言ういじらしさが涙をそそる。
真白については丁度良い植木鉢がさかさまに置いてあってそこを踏み台にして昇り降りをすると言うおてんばさんだ。
もっとも踏み台がなければ昇り降りできないのだがなんとかして移動させて自由を得たのだから誰も文句は言わない。
残念な事にその小さな背に玄さんや朱華を乗せて移動すると言う発想はないらしく、ただいま暴走しがちな真白を落ち着かせるためにトレーニングとして背中や頭におはじきを乗せてうまく運べるかと言う遊びと言う名のトレーニングで鍛えてみたりしている。
いつか玄さんを乗せてと言う発想に繋がればとなんでも俺が教えるなんて言う事は教育ではないので幼いながらも考える事を期待する事にしている。
なにせちび達だけに構っていられるほど俺も暇じゃない。
仕事を貰っているので納期にまでに仕上げなくてはいけない仕事が続々とやってくるのだから、ありがたい。
今は元居た会社から今までしていた仕事のうち個人で出来るものを回してもらっている。会社とて一人で出来る仕事を抱えて人材を潰すような真似はしない。
一応会社も俺みたいに独立する人材を応援する制度があり、こうやって仕事を回して以後俺とのやり取りに繋げる、まあ、下請けと思えばいいだろうか。
会社と言う組織なので個人で出来る程度の仕事はノーセンキュー。
そういうのは個人でやってくれと言う所だけど付き合いと言うものも大切で。
よってそういった仕事を俺みたいな独立した下請けに回ってくる。
もちろん会社にお願いするより安くなるのは仕方がないものの、独立したのならそうやって仕事をこなして信頼を勝ち取り、次回より会社に仕事を回さずに直接取引に繋がるようにと誠実に仕事をするかつて独立した先輩の姿勢を祐樹先輩の紹介で見せてもらって決断した俺のこの独立。
決して会社勤めのような安定はないけど老いたご両親の介護と生活が両立できるのだからこの選択もなしじゃないとすがすがしい顔で言い切った独立した先輩の言葉が踏み切る勇気になった。
ただ想像は常に超えてくるのが現実だけど。
まさかフルリフォームした一軒家が十万で借りれるなんて夢のような話の裏が想像の斜め上を行った内容に対応できなかった俺の限界なのだろうが。
だって誰が想像する?
もれなく付喪神五点セットが付いてきますなんて。
まあ、引き受けたお礼に家賃が一万円になったのはいいけど、容赦なく障子を破き、襖に落書きをしていくちみっこ達のいたずらに差額の九万は補修代だと思う事にすればトントンかとなんか涙が出てきそうになった。
ともあれここでの生活は正直俺のペースにもあっているし、仕事も祐樹先輩がちょうど目途がついた頃紹介してくれているので緊張がゆるむ事なく続いている。
もっとも俺に仕事を教えてくれたのが祐樹先輩とは言えまるでどこかで見ているような采配にドキッとしてしまう事もたびたびあるが、会社勤めの時のデスマーチから解放されて順調な生活が確保できているので先輩様様だとありがたく思う。
もっとも会社勤めの時のデスマーチも先輩の指示だったけど、おかげで同期よりもかなり早く仕事を覚えることが出来、お金も貯めることが出来たのでありがたかったが……
ひょっとして彼女と別れる原因は先輩にもあるとか?
ちょっと悩んだものの自分に投資をしなかった俺が最大の原因だし、生活の向上に目を向けなかったのも一因だ。
ましてや今となれば不思議な事に……
あれだけ別れた後ぽっかりと胸に空いた穴が開いたような無気力な日々は今となればどこにもなく、むしろこの賑やかなちみっこ達に振り回される日常を楽しんでいる事が嫌じゃないと思っている。
とはいえだ。
「真ー!真白がまた滑り台壊したー!」
「真ー!ごーめーんーなーさーいー!」
「真ー!ゴロゴロに乗った玄がどっか行っちゃったー!」
「真ー!玄が道路に出てっちゃったー!」
「はあ?!」
庭に飛び出してサンダルに足を突っ込んで道路に飛び出せば坂道の道路をものすごいスピードで駆けていく車輪のついたおもちゃを入れるカゴが……
「あ、はねた」
俺の髪を掴んで引っ付いてきた緑青がありえない景色を冷静に実況してくれた。
多分石にあたって跳ねたんだけど……
とにかくと言うように坂を下りて遥か先でひっくり返ったおもちゃを入れるカゴを確かめれば
「玄いないねー?」
冷静な緑青の声がまるで聞こえないと言うように頭の中が真っ白になって、周囲を確認するもののその小さな姿はどこにもなく、ましてや両側は道路を侵食する植物の世界。
「お、大家さんからお預かりしている子なのに……」
頭が真っ白になりながらも周囲を見回して雑草の中に手を突っ込んで玄さんを探す。
もし俺も兄貴のように家の事を手伝いながら親父と兄貴で時々出かける修行とか言うやつを一緒に体験して居たら玄さんの探し方を少しは知ることが出来たのかなと、ifの仮定ばかりしながら今となっては全く意味がない事を悔やみながらも草をかき分けて手伝ってくれる人がいても目に映ることのない世界の小さな子亀をどう言って助けを求めればいいかわからず途方に暮れていれば
「あれー?ええと、九条さんだっけ?
そんな所で何してるんですか?」
「遠藤さん……」
振り向けば白い雲がぽっかりと浮かぶ青空の下には先日と同じく大きなつばの麦わら帽子にクーラーボックスと草刈り機を携えた遠藤さんが心配げに俺に声をかけてくれた。
「うちの子みませんでした?
手のひらサイズの子亀なのですが……」
藁にもすがる思いで見えないとわかっていても聞いてしまえば俺がかき分けている草むらを何とも言えない顔で眺めながら
「また難しい問題っすね……」
まるで二度と会えないような言葉に俺はなんて返事をすればいいかわからず日が暮れるまで虫に刺されながらも草むらをかき分けてどこか間延びした声が俺を癒す玄さんを探すのだった。




