兄貴、ちょっと話を聞いてよ 4
とりあえずは朝飯を食べてないので兄貴を迎えた足で近くのスーパーへと向かう。
時々このスーパーは魚介類が消滅する謎の品切れが発生すると噂に聞くけどとりあえず今日はちゃんとあるようなのでうちで宿泊するらしい兄貴の為に刺身の盛り合わせとかを用意した。
もちろん適当に肉とお酒も。あ、あと果物も忘れないようにしなくちゃ。そういえば玄さんにイチゴを買ってやるって約束したっけ。他にもリンゴとかバナナも買っておく。野菜は…… 大家さんが大量にくれたから問題はない。むしろあの量を一人で食べないといけないと言う問題が発生した。
買い物をしている間兄貴はきょろきょろと周囲を見回していたが
「あまり実家の方と品ぞろえが変わらないな」
「そこは全国展開の強みだね」
もちろんご当地色はあるが基本の品ぞろえはありがたい事にたいして変わらない。
そんな荷物をもって車で街をゆっくりと走りながら
「のどかな街だな」
「穏やかでいい所だよ」
町に流れる川のせせらぎに耳を傾けながら山に向かう道へと向かう。
だけど深い所に行く手前、この歴史ある街を抜けて街を見下ろす高台が俺の家賃一万円の家。
築二百年近くある古民家だけど新築同様の一軒家。駐車場も庭も完備している挙句に果樹園もある。木の実が生ったらちみっこ達に食べさせてあげたいなと花の季節が終わったのを少しだけ寂しく思う。
そんな家の駐車場に車を止めれば兄貴が驚いたように家を見上げ
「おいおい、ずいぶんいい家じゃないか。家賃は高いんじゃないのか?」
俺も初めてこの家を見た時こんなにもいい家が家賃十万円だなんてありえないだろうと思ったものの付喪神付きなのならまあ、納得と言う所だろうか。
むしろ家賃一万円にして五体の付喪神のシッターを押し付けられたと言う割が会わないと思うのだが大家が言ったではないがそれが自分につけた値段。少なくとも大家は最初俺の事を五万円の価値はあると提案してくれたのに自分で自分の価値を引き下げたのだ。
家賃一万円につられたとはいえ情けない。
「まあ、仕事はどこででもできるから家賃十万で一軒屋だったのが決め手かな。
職場の人達とは帰りに飲む事はあっても遊びに行く事はまずないから、それならどこでも一緒かなって思ってね」
「真、お前寂しい生活してるな……」
生まれた時から友人のいる地元で暮らす兄貴のかわいそうな子を見る視線に俺はそっと視線をそらせてしまうが
「おかげで付喪神のちみっこと賑やかにやってるよ」
まだ片手程度だけど。
言いながらカギを開けて
「ただいまー」
「お邪魔します」
なんて家の中に入れば
「「「「真おかえりー!!!」」」」
「真お土産ー!」
「出た?!付喪神か?!」
「かくれんぼはどうしたんだよ!!!」
突っ込まずにはいられなかった。
兄貴もまっすぐ駆け寄ってきて俺に向かって飛び込んでくる付喪神に唖然としているし、真白はチャッカリとお土産を期待してるし。
うなだれるように脱力しながら買い物袋を持ち上げて
「お土産あるから台所に行こうな」
「「「「「わーい!」」」」」
やったーと全力で台所に向かう様子を見送ってから
「な?大丈夫だろ?」
「いや、まだ大丈夫とは言えないが……」
「が?」
すでに脂下がってる目元に言いたい事はもう判ってる。
「あの付喪神可愛いなあ!」
予想通り過ぎて涙が出る。
「ああ、かわいい」
そして無邪気と言う悪魔だという事は言わない。
夢は壊しちゃいけない。
現実を見て砕くのが一番効果的、じゃなくって現実的だと思うから。
だって見て見ろ。
台所に行けば大家さんが持ってきた朝どれ野菜が……
「こら、一口齧って違うのに手を出すのは禁止だ!」
「真が怒ったー!」
「味見したのは朱華だよー!」
「みんな美味しそうに見えたんだもん!」
「主のミニトマトは全部美味しいよ?」
「全部食べたくなっちゃうからね!」
「「「「ねー!」」」」
大家が追い出した理由の一つだと理解した。
ほんと性質が悪いなと思うもその五体の面倒を見る事になったのだ。
どっと疲れが押し寄せるが
「それは仕方がないな」
「兄貴……」
あっさり仕方がないと言ったダメ兄貴に頭を抱えてしまう。
「真、父さんたちはこの付喪神を使役して連れて来いって言ったけど使役するなんて無理だなあ」
買い物袋から取り出したバナナをさっそく切り分けて食べさせる始末。
もう瞬殺されすぎだろ……
の前に聞いておきたい。
「それより智兄さん。付喪神を使役ってどういう事だよ」
思わず何を企んでいると聞けば、ちみっこ達にでれでれの顔は鳴りを潜めて
「言葉通りだよ。
だけど見てわかったけどこの子たちじゃ戦力にならない。
父さんたちの悲願知ってるだろ?」
思わず無言になってしまう。
「見る、聞く、そんな能力があるのに戦う事に対しての力がない。
それをこの付喪神で補おうとしているんだよ」
思いっきり息を吸い込んで怒りでふざけんなと言いそうになったが
「この子たちはすでに契約者が付いている。
俺程度じゃ契約者との契約を書き換えれる相手ではないみたいだから父さん達でも無理だ」
言って少しだけ寂しそうに笑う。
「どういう事だよ」
警戒しながら聞けば
「まあ、おやじの野心。知らないわけじゃないだろ?
むしろ本家を凌ぐほどの力が欲しいっておとぎ話のような野心」
「あー、古い血を分けた兄弟だからとか言うあれ?
本家は強い能力者との婚姻で力を保っているけど、とっくに親戚家系図から消え去ってる赤の他人の血筋がどうやって本家を凌ぐって言う夢、本気で言ってたの?」
「残念な事に本気みたいだ。
お前が生まれる前に死んだひいじいちゃんがそういう思想の持ち主でな、親父はすっかり毒されてるんだよ」
「実の親ながら情けなすぎ」
両手で顔を覆って泣きたくなるものの
「だけど実際見てみてわかったけど付喪神にもピンキリがあるって事だ」
「ちみっこ達最強にかわいいって?」
真剣に言えば
「ばーか。
たぶん契約者の力の関係なんだろうな。
下手に神社に持ち込まれる厄介なものよりもっと厄介なものがあるなんて。
こういうのは見て見ぬふりをして凌ぐことこそ触らぬ神に祟りなしってやつだ」
バナナを食べておなか一杯になった緑青が俺の肩の上ではち切れんばかりにぷっくらとしたおなかを上にして満足げなげっぷをする姿にどこにそんな言葉へと繋がるのかと思うも
「まあ、覚えておくよ」
そして振り向けばまだ食べかけのバナナがあるのにもう一つ皮をむこうとしている朱華と玄さんを見て
「こらー!お残しは禁止でーす!」
言えば盛大に不満を垂れ流す二体と玄さんを擁護する岩さんにきっちり食べてからおかわりはするという事を教えとくのだった。




