兄貴、ちょっと話を聞いてよ 3
「誰だよー、こんな朝っぱらから……」
とりあえずうるさいと言う様にスマホに手を伸ばしてみればそこには兄貴の名前と
「マジかー……」
まさかの朝の十一時だった。
大家の朝五時過ぎの突入にも嘘だと言いたかったけど、あれから六時間が過ぎていたなんて寝すぎだろう……
さすがに自分に失望しそうになった。
東京にいた時は眠りが浅かったのに気が緩み過ぎだと切れてしまった電話から誰の履歴か見ようとしたところですでに十件近く連絡が入っていた事に冷や汗が出る。
そのうえ相手は最悪な事に
「兄貴って、何の用だよ……」
俺何かやったか?なんて思えば
「真ー、やっと起きたー!」
「真ー、うるさかったから止めておいたよ」
「真ー、主のミニトマト美味しいよ」
「真ー、キュウリも美味しいよ」
「真ー、マヨネーズがあるともっとおいしーよ!」
「朱華はマヨネーズが好きなのか?」
「うん!ちょっとすっぱくて同じキュウリなのに別の味になって楽しいよね!」
おいおい大家さんよ、このひよこマヨラーになってるんだけど?生臭禁止ってどこまでが範囲だよと聞きたいがこのちみっこはいつから起きていたのだろうと思う。
ベッドのすぐ横に置いておいたタオルを敷いた鍋に触れれば温かくはない。
まあ、こいつらに体温とかあるわけないので温かくもないのだが
「そういや俺が寝てる間いい子にしてたか?」
「してたー!」
「「「主がおもちゃを持って来てくれたからみんなで遊んだー」」」
そんな主張をするのは真白と緑青と朱華の三体。
「じゃあ、玄さんと岩さんはなにをしてたのかな?」
まさかはぶられたとか言わないよなと聞けば
「玄はねー、縁側で日向ぼっこしてたよー」
思わず座布団とお茶を用意してあげたく間延びした声だけどまだまだかわいらしい声に思わずにっこりとしてそうかそうかと聞いてしまう。
「俺は玄さんの上でお昼寝してた」
それもまた仲良しだなと微笑ましく聞いてしまえばまたスマホが騒ぎ出した。
画面には兄貴の名前。今度こそちゃんととるとつなげれば
『おま!電話何回かけたと思ってん……』
そっと通話を切った。
いや、だってそうだろ?
冷静じゃない人と何話せばいいんだよ?
いくら俺が悪いとしてもさすがにないわーと思いながらLIMEでメッセージ。
「どうしたの?何回も電話をかけていたようだけど」
ぽちっと送信。
それからすぐに
『駅まで来てるから迎えに来い!』
えー……
いきなり来ておいて迎えに来いってありえなくないー?
しかも事前連絡なしにひどく無いと思いながらも
「迎えに行くから待ってて」
とりあえず顔を洗って寝癖を直し、着替えた所で
「お客さんが来るからお迎えに行ってくるからお留守番お願いね?」
なんて多分兄貴だから大丈夫だろう。むしろいい子で待っていてくれと言うように願えば
「じゃあ、岩達みんなでかくれんぼするー!」
「主が知らない人がきたら見つかったらダメだよゲームするんだよって教えてくれたの!」
「見つかってもばれなければいいんだー!」
「これは玄も得意だからたのしいんだよー」
大家の奴こんな右も左もわからないちみっこにいいように言い含めてほんと心配になってくるものの
「だけど真が美味しいお菓子を買ってきてくれたから真白みつかっちゃったー」
なんて嬉しそうに言う。
見つけてほしかったんだなと言うのは言わずともわかったが
「じゃあ、今からお迎えに行くお客さんはみんなの事見える人だから、上手に隠れれるかたのしみだねー?」
なんてそそのかせばキャーッと歓喜の悲鳴を上げながら必死に隠れる場所を探し出した。
なんてかわいい付喪神だろうと思いながらも「行ってくるねー」と声をかけて家を出て約数分後
「遅い」
「文句あるのならうちまでくればいいだろ」
これ以上とないくらいの仏頂面の兄貴はそれでも手には蕎麦アイスを手にして食べていた。似合わねー。
プラスチックの小さなスプーンでアイスを食べながら
「タクシーで行くのは簡単だがお前の家に入る前に一度その付喪神の事を聞いておきたいからわざわざ呼び出したのに」
「だったら電話だけじゃなくメッセージも残しておいてよ。何事かと思ったよ」
この兄貴の過保護ぶりも久しぶりだなと少しだけ懐かしく、そして盛大に迷惑に感じながら言えば
「俺はお前と違ってパソコンは得意じゃないからな」
「スマホはパソコンじゃない。って言うかスマホのキー操作にいい加減慣れてくれ」
よくこの時代で生き残れたなと呆れれば
「俺は母さんに似て書道をこよなく愛する事に決めてるからいいんだよ」
「母さんスマホのビデオ通話を利用して遠方の生徒さんを教えてるよ」
お月謝もネット銀行でやり取りしているくらい十分に使いこなしていると思う。
ネットの生徒さんの作品はわざわざ俺にホームページを作らせてそこに生徒さんに写真を撮らせたものをアップしてみんなで見られるようにするぐらい活用している。
おかげで一度もあった事のない生徒さんだけど増えたと喜ぶ母さんに何よりですと言うしかないだろう。
そんな母さんの実態を教えれば兄貴は少なからずショックを受けた顔で笑っていたが
「で、お前の所の付喪神、ほんとに悪さとかしないんだろうな」
わざわざお札をちらりと見せてくれたことにムッとしながら
「知らない人が来るからってかくれんぼして遊びながら驚かせないように配慮してくれてるよ」
そういう意図じゃないだろうがどうとでも取れる大家の厚意に乗っかっておけば
「そうか……」
少しだけほっとした兄貴の顔を見ればそれだけ心配されていたことを理解するしかない。
なんせ兄貴が務めている神社に持ち込まれるものといたら、手元に置けないくらいヤバめのモノに決まっているので兄貴のその偏見は致し方がないと無理やり納得をしてみた。
兄貴参上!




