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家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!  作者: 雪那 由多


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それぞれの結末 4

 紙面に書かれたその金額って……

「か、火災は台所だけと聞いたが……」

 驚いたように紫と呼ばれた爺さんの隣に座るお兄さんは目をひん剥いてその金額は何だと紙と大家さんを何度も見比べていた。

「当然の金額ですよ。

 被害は台所の上部にあるロフトにも広がっていたのですし、あの地域は断熱材必須ですからね。

 台所、居間、二階の壁と天井、そして床を引っぺがして入れ換えをしないといけませんし、台所側の外壁、屋根も一部破損しましたのでその工事も入ります。台所も総入れ替えになりますし……」

「だとしてもこんな、二千万なんて金額にならないだろう!家が一軒建つぞ!」

 父さんもその金額にありえないというようにぽかんと口を開けていた。

「ごみ処分代も入る事をお忘れなく。

 それにあの家はうちの山から切りだした樹齢五十年以上の木を加工した純国産の杉と檜をふんだんに使用した自慢の家です。製材所の料金表から算出した金額なのでこれぐらいは妥当ですし、国家資格を持った職人の方々に手を入れてもらったこだわりの一軒家です」

 さすがにビビった。

 確かに良い家だとは思ってたけどこんなにもいい物を使っていたなんて……

 絶対墨を落とさないように注意しよう。

 物の価値と言うものを知らない残念な俺が精一杯できる事はそれぐらいだろうか。

「だからと言って、こんな金額!」 

 あり得ないと言いたいのだろうがそこは沢村さんが口をはさむ。

「近年材木も高騰していますし、これだけの樹齢の材木も早々手に入りません。それに樹齢十年や二十年の物を使っているわけではないのです。当然の相場かと思います。いや、むしろそれだけの木材を用意できたことこそ奇跡ですよね」

 それなのに簡単に火を着けるなんてと咎める沢村さんに相応な金額だといってもらえれば納得もするだろう。

「こちらの希望としては一括で支払っていただければと思います。なにせ家をお貸ししている方もいますし、その方の代わりのお家の代金も料金内に含まれています。火災保険には加入してますが、家族の故意による放火ですので火災保険の免責事項に当てはまり補償金は出ないので全額のお支払いを要求します」

 ちゃんと家賃と同額のアパートを何件か探してきてくれて俺に提示をしてくれた。仮の住まいにどうぞという事なのだろう。そして万が一の場合の火災保険なのに免責事項に当てはまるなんて、父さん一体何考えているんだよと実の親でありながらも大丈夫かと呆れを通り越してあまりに短絡過ぎる行動に心配になってしまう。

 朱華の事も心配だから離れたくはないのだが、そこの所は大家さんと決めようと思いながらもアパートのチラシを見ながら単身なのにこんな何部屋もある様なアパート必要ないんだけどと心の中でぼやきながら父さん達を焦らすためにもゆっくりと見比べていた。

「そこで京都に住む友人の弁護士に協力してもらい簡単に九条さん。ご自宅の査定をさせていただきました」

 え?というように顔をあげる父さんに沢村さんは笑い

「ご安心ください。建物は古いのでお値段の方は少々難しいようですが土地代だけでも十分お支払いできます。残った金額で中古マンションの頭金ぐらいになりますから」

 実家がなくなるという事にどこに安心すればいいのでしょう?と沢村さんに問いたかったが鞄からさらに一枚の紙を取り出し

「あとこちら。奥様からお預かりいたしました」

 広げられたのは記入済みのいわゆる緑の紙。

 正直俺からしたらやっとかと思ったけど皆さんはっと息をのんで父さんを気遣うように視線を向けていた。

 いや、憐れむようにと言うのが正しいのだろう。

「奥様からの託です。

 すでに夫婦として家族として崩壊していたのは言うまでもありません。

 この状態で犯罪に手を染めた孝さんを支える心はどこにもないので子供達も無事一人立ちした事もあり私達もそろそろお互いの道を進みましょう、と」

 暁さんからもお前はそれでいいのかというような気遣う視線を向けられたので

「母さんやっと決断したか……」 

 これが子供たちの反応だと披露すれば誰もが子供にも見捨てられたかとそっと視線を反らせたのだった。

「当然だよな。

 ずっとやって来た書道の塾もここで急に終わりになった事だしずっと続けて来た事が人の手で終わらされるなんて許せるわけないよな」

 ただでさえ母さんの人生ともいうべき書道家の道を閉ざしたのに書道塾まで終わらせた相手を気遣う理由なんてどこにあるのかと本当に思う。

「奥様はすでに家を出る準備をされてまして、後ほど奥様が雇われた知人の弁護士をご紹介します。今後はそちらの方を通して離婚の手続きをしましょうという事になりました」

 我が親ながら事後報告とはすごいなと両親の離婚だというのに何にも感情を揺さぶられない俺に父さんは

「真……」

 すがるような視線と蚊の鳴くような声をやっと俺に向けたが俺はスマホを取り出して

「お前は何をやってる……」

 隣に座る大家さんの質問に

「えーと、兄貴に母さんが父さんと離婚するって決めたって連絡?

 一応父さんが大家さんの家に放火した事も説明しておかないとって思い出して」

 それをここでやるかと言う視線を暁さんから頂いたが

「まあ、報連相は大切だよな」

「一応俺母さんについて行くって言うのに決めてるから」

 無難だなと言う大家さんの賛同にちらりとだけ見える父親の顔は絶望を浮かべていた。

「真は、父を見捨てるのか?」

 そんなすがる視線。家を失ってきっと職も失う事になるだろう。爺ちゃん婆ちゃん達の生活も俺に背負わせてまた九条の奴らめ、とか言う想像にたやすい未来を思い浮かべれば

「ちゃんと大学まで卒業させてくれたことは感謝するよ。

 だけどそこは親の義務だと俺は思ってる。

 兄貴と同じように愛情を貰う事はなかったけど、それでも子供の義務として万が一があった時は葬式ぐらいは出してあげるよ」

 すんなりと出た言葉にああ、そうか。俺は父さん達からも愛情を欲しがっていた時があって、今はもう義理でしか関係を必要ないと判断していた事に自分でもびっくりしていた。









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