それぞれの結末 2
モフモフに憑りつかれた大家さんをしばらくの間何もできずにただ眺めていた飯田さんに
「大丈夫か?」
こまさんが小首傾げて心配すればはっと我を取り戻して
「彼らが付喪神、なのですか?」
しばらくして目の前の光景を理解するように口を開いた飯田さんの言葉にふむと頷くこまさん。ぼーっとしているしいさんとは違いきりっとしていて胸元をもふりたくなるくらい堂々していてかっこいいです。
「綾人のバカが適当に名前を付けたりした奴らです。
そして真はこのバカが一人で面倒見るのは限界に達したのでヘルプで雇われた奴です。ちなみにこの出会いは完全に偶然です」
それぐらいあの離れた街でこの街のご近所さんが縁をつないだのだ。偶然にしては出来過ぎだろうと思うも本当に偶然なのだから怖いものである。
「そしてお父さん、飯田さんにお願いしたいのはしいさん、こまさん、鈴に次郎を今まで通りこの家で過ごす事を許してほしいのです。基本餌を始め散歩もトイレの世話はいらないのですがたまにねぎらってご飯を食べさせてもらえるとこいつらも腹を空かせる思いをせずに済むのですが……」
「いや、飯ぐらいは食わせてやるが……
動物なんて食べるために飼った事しかないから世話の仕方なんて知らないぞ」
そっちの方が大問題だという料理長のお顔。一般的な飼育は判らんと言うが、業者でもないのにそちらの方が少数派なので俺の方もなんと言えばいいか分からない。
だけどここには最強の女将さんがいる。
「そうよ。ごはんぐらいいくらでも食べさせてあげるわよ。
ふふふ、お店をやっているから今まで動物を飼う事なんて出来なかったけどこんなにも賢そうな子だと毎日が楽しそうね」
言いながら触ってもいい?としいさんの許可を得て胸元をモフモフするお母さん。難易度の低い鈴さんや次郎さんではなくしいさんを選ぶとか凄い勇者だなと暁さんもびっくりしていたが
「綾人さん。深山に連れて行くつもりはないのですか?」
飯田さんの慎重な声。
だけど大家さんはもう決めていたように
「この地で生まれてこの地で育ったこいつらを全く思い出も知り合いも何もないただ俺がいる場所に契約をしただけで連れて行くのはさすがに傲慢だ」
そんな大家さんの心遣いだったらしい。
そしてみんなもこの地に思い出があるというように大家さんを見上げて申し訳なさそうに服従を誓うように頭を下げていた。
だけどそこで
「あら?しいさん達は?」
そこにいるのは変わらないのに不思議そうに周囲を見回しながらの残念そうな女将さんの声。
「すみません。視えない奴らを視認する術は俺苦手なもんでこれが限界です」
ぜーはーしながら疲れたというように畳に突っ伏してしまった暁さんに大家さんは鼻で笑い
「おいおい、将来の九条の当主が情けないな」
「これは奥さんの方が得意なんです」
得意分野が分かれているのかとへーなんて聞きていれば
「なに綾人よ。驚きはしたが別段世話がいらないのはちと寂しいが、見えない所で番犬してくれるのならちゃんと食べさせてやるぞ」
大家さんの周囲を目を凝らして視ようとする料理長、ひょっとして動物が好きなのかなと思って笑ってしまいそうになるものの
「まあ、綾人さんのお願いなら問題ないですし、皆さん綾人さんの付喪神という事だからか今もきちんと座っていたしいたずらなんてしそうもないですしね」
笑顔で任せてくださいという飯田さん。
その認識、間違ってますよ?
ここにすごくやんちゃな三体が、そして家に帰ればさらに二体追加してものすごいやんちゃしでかしますよ?
空気的に言えなかったけどとりあえずこまさん達を売り込む為にもそこは割愛しておいた。
「ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします」
深々と頭を下げれば飯田家の人達は満面の笑顔で任せてくれと言ってひきうけてくれた。
無事引き受けてもらえる事が決まれば大家さんは席を立ち
「じゃあ、ちょっと出かけてきます。
昨日の事で暁の爺さんに呼ばれていますので」
「なに、あいつの事は無視しておけばいいぞ」
なんて言いながら大家さんの回りをいまだにきょろきょろしている料理長。
実はかなり動物好きなのですか?と俺に度胸があったら聞いてみたいが
「さすがに無視はできませんよ」
なんて笑う大家さん。
「その場には俺の持ち家に火を着けた奴らがいるので確り賠償金を搾り取らないといけないからね」
あ、そうですか……
そうですよね……
嬉々として笑う大家さんにモフモフで癒されたはずなのに一瞬にして目が死んでしまった飯田家の皆さんはこれから何が起きるのか察しているようで、同行する俺は言いたい。
これから一体なにが起きるのですか?!
昨日の大家さんを見て以来妙に突っ込めない俺はほんと小心者だと思います。
そんな大家さんの宣言通り俺達はその足で暁さんのご実家に向かい、そのまま緑青達を連れて客間へと案内された。
その中に一人だけなんか違和感がある方がみえて
「あ。沢村さん到着してましたか。わざわざ京都までありがとうございます」
「はい。観光で来れたら楽しい所ですが今日はしっかりお仕事をさせていただきます」
「よろしく願いします」
そんなやり取り。
沢村さんて、ああ、この方か……
確か大家さんが紹介してくれた弁護士の方だなと俺も挨拶をさせてもらう。
「九条真です。お世話になってます」
「はい。沢村です。何かあればご相談ください」
改めて名刺を頂く俺は久しぶりのビジネスマナーに両手で頂戴するものの自分の名刺が手元にないことを少しだけ恥ずかしく思うのだった。
そんな感じでどこからか聞こえた咳払いに俺達は座り直し
「さて、吉野の。昨日の夜のあれを説明してもらうぞ」
「もちろん。その前に話は昨日の昼までさかのぼりますがまずは黙って最後まで聞けよ九条のじーさん」
九条の前当主になんて言葉遣いだと思うが前当主はそんな挑発なんて乗らないというような顔と言うか隣で沢村さんがポータブルテレビを準備してDVDを操作しているのを注視していた。
「あの、大家さん。なにを始めるのでしょうか……」
暁さんもそう思うように頷きながらも全員がDVDを見れるように大家さんが始まった動画を披露しながら
「プレゼンテーション以外何がある」
現場検証とか証拠とかではなく
「プレゼン、ですか……」
「そうだ。きっちり家を焼いてくれた補修代は払ってもらうからな」
そう言いながら親父と昨日の爺さんが居心地悪そうに並んでいるのをみて逃げださなかったんだな。逃げ出せないよなと爺さんの一族の方達もそろっているこの光景こそありえないだろと本当に俺ここに居ていいのかな?逃げ出したいなと思うけど俺が借りた家、俺が住んでいる家の出来事。
「大家さん、壊れた家電の請求ってできますか?」
「はい。当時のレシートとか残ってれば有効です」
そんな沢村さんの言葉に
「スマホで家計簿取ってあるのでそれでも大丈夫ですか?」
大家さんから謎の拍手を貰えば
「十分な証拠です。帰ったらプリントアウトして提出お願いします」
「判りました!」
大学時代のバイト代と心もとない就職したての頃に購入した家電用品の弔い合戦と思えばその程度いくらでもやってやると拳を握れば九条家の人達の生暖かく見守ってくれる中項垂れてじっと机を見下ろしている一角の人達、親父と爺さんだけが異常にみえた。




