静かな庭を臨む部屋 9
飯田さんはちらりと綺麗に食べ終えた食器を見ればほっとしたような顔をして
「すぐに下げますね」
部屋の隅に寄せていたお櫃を手に取った所で
「悪いけどお父さんとちょっと話がしたいけど今来てもらう事は出来るかな?」
そんなお呼びたて。
飯田さんは少し不思議そうな顔をして
「今なら下準備の段階なので大丈夫だとおもいます」
そう言って持てるだけ持ってすぐに下がってくれたと思えば飯田家の家長であり、この料亭の主人でもある飯田稔がすぐに姿を現した。大家さんの度胸すげーと感心してしまった。
「綾人よ、何か用事とか?」
「忙しいところすみません。ちょっとご相談がありまして、実は……」
俺も暁さんも雑過ぎるだろと視線で訴えるものの最後まで気付いてくれない。それどころか隣に座る暁さんの
「お前ってそう奴だよな」
なんてつぶやきが妙に納得してしまい、俺はただこの時間が過ぎるのを待つことにするのだった。
少し長く、かなり理解を得るのに難しいだろう話を切り出してから数分。
「つまるところ、我が家に付喪神が住んで居て、その世話をしてほしいと……」
「簡単に言えばそうですね」
あまりにも端的にまとめすぎて料理長もどううまく言おうとしてもそう言うしかなかった、というかそう言わされるしかない説明にこうやって大家さんに言いくるめられるのかとなんか家賃交渉している時の俺を見ているようだった。
「うむ……」
腕を組んで考え込んでいた料理長にこれは無理かななんて暁さんに目で訴えればやはり同じ用に思っていたらしくこの後の事を考えているようだった。
「もし何だったら俺が責任もって本体ごと買い取らせていただきますが……」
「いや、綾人よ。そういう事じゃないんだ」
そう言って障子を開けて
「おい!」
そんな声を廊下の奥に向かって声を掛ければ
「はいはい、何のごようですか?」
ぱたぱたと軽やかなスリッパの音を立てながら女将さんがやってきて
「蔵の兎の絵の風鈴、狛犬の置物、三毛猫の掛け軸を持って来てくれ」
「まあまあ、ずいぶん古いものですよね」
「あと薫も呼んで来い」
「あらあら、薫は蔵にはいないのよ?忙しいわ」
なんて言いながらすぐにまたぱたぱたと駆けて行った足音に
「飯田さんにも言うのですか?」
「綾人の付喪神だったな。だったら世話はあれに任せるのがちょうどいい」
「ちょうどいいのですか?」
なにがと聞けば
「綾人の担当は薫だからな。
綾人の物の面倒なら薫に任せるのが筋だ」
物扱いに内心ちょっとムカついてしまうものの
「飯田様、彼ら付喪神も意思があり、、心のある命ある者達です。
今のこの会話も聞いていますし、悲しいと感じる感情もあります。
もう少し言葉の配慮をお願いします」
丁寧に両手をついて頭を下げる様子に料理長は少し渋面となるが
「綾人よ、すまなかったな。
縁あって我が家に来た品だというのに、そして綾人が保護してくれていたのに酷い言い方だったな」
「いえ、視えないお父さんからしたら物も何も理解しがたい事でしょうから」
珍しい事にフォローをする大家さん。俺にもたまには心配りが欲しいと思ってしまうも
「俺だって名前を付けておいて数年ほど構いもせず酷くかわいそうな事をしてしまったのであまり人の事を言えませんが……」
そんな反省会。
ちょっとしんみりとした所で古い家なのでどれだけ静かに歩いても響いてしまう足音は
「父さん、なんか呼ばれたとか?」
お仕事中だったのかお仕事着の飯田さんがやって来た。
真っ白の作務衣の様な調理服はこの古い家にもマッチしていて違和感ないな、いかにも美味しい料理を提供しますって言う雰囲気しかないんだけどとなんだかかっこいいーなんて思うのは当然だろう。
そして飯田さんにしっかり餌付けされたちみっこ達もテンション急上昇だ。
「神がお仕事着を着てらっしゃる!」
「神から美味しい匂いがします!」
「神がすぐそばにお座りになりました!」
何か大家さんが遊びに来た時よりもテンション高くね?なんて思いながらもそういや先輩達もそうだったなとちみっこ達と先輩が同レベルの様な気がして少し残念な気持ちになったが……今さらか?
「とりあえず少し話を聞きなさい」
このメンツに困惑気味な様子で大家さんに説明を求めていたけど、大家さんの説明下手……不足に納得してもらえるだろうかと思えば
「おまたせー。
あら、薫もうこれたの?
それより頼まれていたものはこれで良かったかしら」
明るい声がこのなんとも言えない雰囲気を吹き飛ばしてくれて俺達が囲む机の上に並べてくれるのだった。




