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家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!  作者: 雪那 由多


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静かな庭を臨む部屋 8

大家さんは柴犬サイズのしいさんとこまさんにもう一個ずつおにぎりをたべさせ、残りのご飯を全部食べるという異次元ぶりを披露してくれた。

 びっくりするぐらい食べたけど暁さんはしっかり食べろというようにお漬物を贈呈していた。

 胡瓜の濃い緑と鮮やかな茄子紺が目にも美しい浅漬けはほとんど塩加減を感じないほどで

「鈴、玄さんも食べるか?」

 草食系の二体に聞けば喜んで食べる玄さんと畏れ多いと言いながらもしっかりと食べた鈴さんは嬉しそうな顔をしていた。ちなみにちゃっかり緑青も混ざって胡瓜を食べ、岩さんも参戦してもらった分を玄さんに渡していた。

 他の三体は大家さんからご飯を頂けたことも併せて満足そうに前足をぺろぺろしたり毛づくろいを始めたりと幸せそうにエアコンの効いた部屋の隅でまったりとしている。

 部屋の隅っこに固まっているあたり意識が低いよなと心配になるが……

 みんなの分を取り分けた約一升のお櫃のご飯を食べきった大家さんは少し物足りなさそうな顔をしていたがまあいいかというように箸をおいて

「で、あの付喪神をどうするんだ?頂いて帰るのか?」

 ゆっくりとお茶を飲んで食べ終わるのを待っていた暁さんがどうするんだと言うように聞けばまったりしていた四体の強張った顔がこちらへと向いたのが嫌でも分ってしまう。

 大家さんはゆっくりとお茶を口に含んだのち

「もちろん今まで通りここでこの家を守ってもらうつもりだ」

「連れて帰らないのですか?」

 思わず口を挟めば大家さんはお茶の水面に視線を落としたまま

「こいつらの本体は飯田さんの家の持ち物だ。付喪神に変じるくらいだからとても価値のある物なのだろう。

 俺が無知だったから勝手に名前を付けて適当に命令していたから今までずっと番犬をしてくれていたが……」

 しいさん達のしっぽや鈴さんの耳が垂れさがるのを見て何とかできないかと考える中、大家さんはすでに結論を決めていたようだった。

「お父さんに話してお世話を頼もうかと思ってる」

「いや、飯田のご主人は視えないだろ!」

 速攻で世話は無理だと暁さんは言うも大家さんはにやりと笑い

「悪いが飯田さん一家ほど義理堅い人滅多にいないぞ?」

 いえ、それは相手が大家さんだからじゃないですか?

 そう突っ込みたかったがそこまで言えるのはそれだけの信頼関係を既に築いているという証拠からなのだろう。

「ただ、俺がこんな体質なの今まで誰にも言った事無いからとりあえず暁フォロー頼むな」

「お前な……」

 相変わらず人使い荒いなとぼやくも

「しいさん達も悪いがそれでもいいか?」

 聞けば

「主様の命令なら」

 少しだけしゅんとした寂しげな顔。

 やっと会えてお側に連れてってもらえると思っていた所でのこの命令。

 期待を持ってしまっただけに砕けた希望は残酷なまでに痛々しい。

「ですが主様、あの小さな亀達はお側に置いているのにどうして次郎達はお側には置いて下さらないのですか?!」

 出会いから気の強い次郎さんが全員の代弁と言うように連れていってくれと言うものの


「緑青達も主と離れ離れで暮らしてるよ?」


 きょとんと小首を傾げるように言えば次郎さんの目が驚きに目いっぱい開く。

 さらに玄さんも

「玄たちはね、今は真のお家で真を幸せにする為に頑張ってるんだよ~」

 えへんというように胸を張りながら主の命令を遂行している事を誇らしげに言う。まあ、俺も子育ては大変だけど癒されまくりだしとニヤニヤしてしまえばそれが意外だったらしく

「使役は主様のお側で主様が何不自由なく過ごすようにお世話をする事かと思っていましたが……」

 しいさんが不思議そうに小首を傾げていれば

「まあ、一般的な使役ならそうだろう」

 暁さんが口をはさむ。

「ただ、こいつの場合付喪神と暮らす知識がマンガぐらいしかないから。下手をしたら命に係わるから付喪神とは一緒に暮らす事が出来ない」

 そこまで言われてやっと気が付いた。

 三体の付喪神を封じて倒れた大家さん。

 五体の付喪神を封じて意識不明になった大家さん。

 昨日みたいに人の目がある所ならまだしもあの山奥の中で独りそんな事になったら、ましてや斜面やがけの多い土地柄。万が一の事があればぞっとすると気付けば全身に鳥肌が立った。

「それにお前たちの一番の喜びは主に名前を呼んでもらい話しかけられる事だろう?」

 主に声を頂いた名前を呼んでもらうこと、それこそが喜びだと言えば恥ずかしそうに頷く鈴さんの愛らしさにきゅんとなる物の

「しかしお前らのこの軟弱な主はこのちびーずの名前を呼ぶと今朝みたいに何をしても目が覚めない状況になる」

 最悪の想像通りで眩暈を覚える中大家さんを知らない付喪神も愕然とした顔で主の顔を見上げていた。

「こいつはそれなりにこのちびーずをかわいがっている。だがうっかり名前を呼んで封印を解き、その後封印するたびに霊力を過剰使用する事になる。一度や二度だったら構わないが、頻繁になる、もしくはうっかり同時に何体もしなくてはいけない羽目になった時、霊力だけではなく生命力も使って封印する事になる」

 まさかの条件に俺も愕然としてしまえば


「こいつにできる事はうっかり名前を呼ばないようにちびーず達と距離を取る事しかできなく、少し離れた家にこいつらの面倒を見れそうな人を住まわせ面倒を見てもらう事がせいぜいだ」


 あの家に緑青達がいる訳と、俺が選ばれた理由だった。


 庭付き駐車場付きであんなにも良い家にありえない格安物件はそう言った事情も含めての物。無理なら俺が住む前の人達みたいに出て行くだろうし無事共同生活が可能ならありえないほどの言い値でも大家さんがあっさり了承したわけがそこにあった。

 そう言えば前に先輩にそう言うのたまに見えちゃったりするんですよねーなんて冗談交じりに言った事があったがまさか覚えていたのだろうかと今さら聞けない酒の席の話しをぼんやりと思い出していれば

「でもねー、玄たちは寂しくないよー。

 だって主が選んでくれた人と一緒に暮らしてるもん!」

「岩も寂しくないよー。

 主はたまに来ていっぱいお土産持って来てくれるしね!」

「緑青だって寂しくないもん。

 主がいなくてもみんなと一緒だし!緑青が攫われても主はちゃんとお迎えに来てくれたし!」

 きっと自分の本当の名前を呼んでくれない大家さんに思う寂しさがあってもこうやって大切にしてくれている事をちゃんと知っているからそうやって笑顔で言える玄さん達を強いなと思いながら俺は玄さん達をそっと掬い上げ

「主がいなくても寂しくないようにしっかりお世話させてな?」

 なでなでと指先で頭を撫でれば

「真宜しくねー!」

「真しっかりねー!」

「真がんばってねー!」

 中々手痛い評価。だけどそこにはこれからの期待も含められていてくすぐったいほどの嬉しい応援。

「がんばるからな」

 そんな決意。

 そしてそんな関係が築ける事を知らないしいさん達はただ戸惑うばかりだが大家さんは本当に容赦ない人だった。

「じゃあ今から呼ぶからちゃんとしろよ」

「え、もう?」

「これが綾人だ。諦めろ」

 暁さんの助言にそんなと思いつつも大家さんは気軽にそう言ってから立ち上がって障子を開ければすぐに

「綾人さん、ご飯食べれましたか?」

 飯田さんがやって来た。

 うん。

 なんて言うか、スト……ではなく、怖いくらいにしっかり見守っててくれたのですねとちょっと困惑気味になるのは当然の顔をしている大家さんとちみっこ以外全員だろう。







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