兄貴、ちょっと話を聞いてよ 1
「あ、兄貴?真だけど父さんいる?」
「父さん?会合の飲み会に出かけて留守だよ。なにかあったか?」
電話に出たのは七歳年上の兄貴の智だった。
小さいころから身長差とかあるから兄弟喧嘩になんてならず、ただひたすら遊んでもらった覚えしかない。
そして俺の面倒ばかり見ていたせいか少しだけ過保護だけど、今となれば仲の良い兄弟の間柄。
勉強を見てもらったり、ふろにも入れてもらったけど、さすがにこの年齢になると一緒に銭湯に行く程度でしかない。
温泉?
さすがにそこまでお金がかかる事はしません。
「んー、実はちょっとあって……」
「厄介事か?」
「いや、俺が家を借りてる大家さんに家賃をおまけしてもらう代わりに生まれたての付喪神を預かる事になりまして……」
ぶふーーっっ!!
さすがの兄貴にとっても想定外だったらしい。噴き出すなんてよっぽどの事だ。
「ちょ、おま、なんでそんな事に?!」
スマホ越しとは言え慌ててる様子が目に浮かぶ。
そうだよな。
これが普通の反応だよな。
ボールを転がして遊んでやったりはともかく、ひよこにいじめられて食べられそうになる付喪神の救出なんて聞いた事ないよな。
少なからず俺の常識の反応をしてくれる兄貴の様子にほっとしながら経緯を話すのだった。
「って言うか独立して引っ越すって話までは聞いたがずいぶん田舎に引っ越したな」
「んー、まあね。先輩が勧めてくれた古民家が中身新築だし、東京でアパート借りるより景色が良くって庭付き駐車場付きで安いのならって思ったら別にいいかなって?ほら、ネットが通じてれば仕事ができるし」
「まあな。家賃高い所で狭い部屋にいるよりは良いだろうが、住み着いてるのは付喪神だけか?先住の方は残ってないか?」
「あー、そういった気配はないね」
それなら安心だと言いながらも
「何だったらお札はいるか?」
「必要だったら自分で作るよ」
大人になっても心配性な兄貴に苦笑してしまう。
「お札だけじゃ足りなかったら父さんからも神社の人に頼んで派遣をお願いするし」
「あー、そういう悪い奴いない感じ。むしろ大家さんの方が難しい気がする」
「なんだ?さっそくいびられたか?」
心配とからかいの混ざる声に
「いや、基本はいい人なんだけど気難しい人って聞いてるし、なんか俺の事を見透かしてるって言うか、やっぱり格上の人の雰囲気があってさ。
本家の人より空気が鋭い人って初めて会ったよ」
「なんだそれ。本当に大丈夫か?」
「いい人なんだろうけどね。
ただ、これだけの人なのに親父にこっちに引っ越した時挨拶に行けとかそういう話がなかったから心配になって電話したんだ」
「あー、今夜帰ってきたら俺から話をしておく」
「うん、悪いけどお願いするよ」
なんて言った所で
「ところでその付喪神ってやつはどんな感じだ?生まれたばかりってどんな風なんだ?」
俺はあまり接する事はないけど、兄貴はちょっと裏では特殊な事案をこなす神社に努めているのでそういったモノをよく見ると言う。
とは言っても職場は表向きの所に居るのでそこまで突っ込んだ話までは見聞きしないそうだが、それでも古い分家とは言え本家と同じ苗字をいまだに名乗るくらい付き合いは長い事もあり、そういったモノ達が見えたり声が聞こえたりする。
母さんは全く関係ない人だけど、父さんはもちろん兄貴も俺も見えたり聞こえたりする。
おかげで幼少期は気味悪がられたり電波系と指さされたりもしたが、それ以上に見た目がエグイ奴らに追いかけられていただけにそんな些細な嫌がらせなんてかわいいものだと思っている。
それを思えばとちみっこ達を思い出せば
「なんていうか、かわいいの一言。
会話が成り立つけど幼稚園児以下だし、無邪気だね。みんな仲良しだったり見てるとほっこりするよ」
「みんな……?」
「ええと、五体いるんだ。
この家の欄間の朱雀に亀に蛇が絡まった玄武の置物。青銅の龍の香炉。白虎の掛け軸。どれも立派ですごく年代物なんだ。
大家さん曰く四神セットだって。付喪神だけど」
「縁起がいいのかふざけてるのか判断が難しいな」
「みんな仲良しだから一纏め程度だと思う」
思わず黙り込んでしまった兄貴だけど
「今度の休みにお前のところに行くから」
相変わらず心配性なのは変わらない様だった。




