【プリンストン大学事件④(Princeton University Incident)】
「サンチェス!?」
ところが呼ばれたサンチェスと言う人物が居ない。
「あのガードマンさんなら、CCSの人たちが入ってくるのと入れ替わりに、トイレに行きましたよ」
「誰か呼んで来い」と言う声が聞こえて、2人の職員が部屋を出て行くのが見えた。
「警備主任。そのサンチェスさんと言う人は、どういう人なのですか?」
「さあ、彼は最近入ったばかりで……」
最近入ったばかりのガードマンが異変に気付いて、と言うのも腑に落ちない。
まして制止を振り切ったとはいえ銃で撃つだろうか?と考えていた時、部屋の外からバタバタと慌ただしく走る音が聞こえたかと思うと、ドアが乱雑に開けられた。
“また新たな事件だ”
会議室に居る誰もが、そう思い入って来た人物に注目する。
サンチェスさんを探しに行った人は、額から流れるような汗をかいていた。
会議室からトイレまでの距離は、たとえ全力疾走したとしても時間的にいって汗をかくほどの距離ではないはず。
「サ、サンチェスさんが、トイレで死んでいた」
男の話を聞いた警官が慌てて部屋を出て行った。
犯人たちは、この大学に押し入って何かを盗んで逃走するはずだったに違いない。
ところが犯人と一緒に荷物を積んで逃げるために用意したトラックは、到着前にガードマンに撃たれて謎の爆発をする。
トラックが来ない事を知った犯人グループは、逃げる事が出来なくなり大学構内に立て籠もった。
そしてトラックを撃ったガードマンは、何者かによって殺害された。
この2つが事実として分かっていること。
分かっていないことは、何故ガードマンはトラックを撃ったのかと言うことと、犯人グループは押し入った際直ぐに凶行に及んだのかと言うこと。
特に盗みが目的である場合は、凶行に及んだとしてもそれは全て盗んだ後のはず。
最初から凶行に及ぶことは自らの犯行を難しくするだけで、逃げ道さえも失ってしまう。
サンチェスさんはおそらく口封じのために殺されたのだと思うが、難解なのは最初3人だった犯人グループがなぜ増えたのかと言うこと。
「籠城している犯人グループからの要求は何なのです?」
「特にまだ、要求は有りません」
「要求が無い!?」
普通ならヘリを寄越せとか飛行機を用意しろとか、100万ドル用意しろとかバカみないな要求を突き付けて来るはずなのに、その要求が無いなんて……。
私が考えているときに、それまで黙ってノートパソコンを見ていたビアンキ中佐が、事件の内容が分かったと言った。
「事件の内容が分かった!? 今まさに犯人が3階の工作室に人質を取って立て籠もっている。これが事件の内容と違いますか?」
心外だと言わんばかりにバーナード警視が、ビアンキ中佐を見つめる。
「それは現実ではあるが、内容を捉えているものではない。いわば“見た目”。内容が分からなければ何度アタックを繰り返しても、所詮跳ね返されてしまう」
「じゃあ中佐は事件の何が分かったと言うのですか?」
「おおよその犯人像と、犯行の目的だ」
「犯人像と、目的?」
「先ず犯人の一人は大学の関係者で、この大学で今回の犯罪に使用されているWicked Suit(ウィキッドスーツ=邪悪なスーツ)の開発が進められていて、犯人たちはそこ進入して既に出来上がった物を装着した。つまりコレが最初3人だった犯人が、その後増えた理由」
「しかし、それだと盗み出すだけで良いのではないですか? 折角手に入れた物をこんな所で使ってしまっては、元も子もないとは思わなかったのでしょうか?」
バーナード警視が、まだ犯人たちを取り囲んでいるだけで手をこまねいている状況なのに、まるでこの戦いの勝ちが決まっているような口ぶりで言った。
「ここで使うから意味があるとすれば、どうです?」
バーナード警視の問いに、ビアンキ中佐が一つの仮説を提案した。
「ここで使う意味……?」
「名門プリンストン大学で開発された“ウィキッドスーツ”今回の事件はおそらく……」
ビアンキ中佐は、そこまで言うと今まで見たこともない怖い目をして壁の向こうで見えないはずの、犯人たちがいる工学棟の方向を睨みつけてから続きを話した。
「新兵器の評価テストだろう」と。
評価テストと聞いて集まった者たちが、ざわついた。
「確かにそう考えれば、犯人が増えた訳も何故立て籠もっているのかも辻褄が合います。増えたのは既に出来上がっている製品をあらかじめ先に侵入していた共犯者たちが装着したから。そして“ウィキッドスーツ”の製造者はやはりこの大学の関係者でしょう」
バーナード警視がポンと手を打って得意そうに自分の推理を発表したが、ビアンキ中佐はそれには取り合わないで、作戦を練るために建築図面を見つめていた。




