【Open Sesame!②】
「昨日はゴメン!」
「いいの、大丈夫だったから」
朝食の食堂でエレンに謝られた。
向こうのテーブルでは、同じようにルーがコーエンに謝っている様子。
嫌な用をお願いして悪い気持ちにさせたのは私の方だから、私の方からも丁寧に謝っておいた。
「それにしても、よく入れたね。どうやったの?」
「呪文を唱えたの」
「呪文!? どんな呪文なの?」
「Open Sesame」
「まさか」
「嘘よ、本当はあの2人が重要機密書類を処理業者に渡すために出てきたから、私たちはその隙に入ることが出来たの」
私が指さす方向には、目の下にクマを作ったジェフとスタントンがフラフラしながら歩いていた。
まさか本当に4.81199779678E+4114に挑戦していたの??
いや、彼らなら本気でやりそう。
パトロールに出る前にコーエンと一緒にビアンキ中佐のオフィスを尋ねた。
コンコンコン。
「入れ」
ノーアポにもかかわらず、中佐は“誰だ”とも聞かず“入れ”と言った。
既にお見通しと言うところなのか。
「士官候補生シーナ、ならびにコーエン伍長、入ります」
中に入ると、忙しいビアンキ中佐がまるで待っていたかのように机の前に両手を組んで、私を見ていた。
「何の用だ」
「昨日の事で……」
「昨日は非番だったはずだ。いちいち非番の日の活動報告をすることはない」
そう言うと中佐は、私から目を離しパソコンを操作しはじめる。
“聞く耳持たない”と言った雰囲気。
けれども私は、話を続けた。
「昨日、APG(アバディーン性能試験場)に行ってきました。目的はグラビティ弾の情報を部外者に漏らした疑いのある開発責任者のマードック氏に会うためです」
「中に入ったのか?」
APGは誰でもが気安く入れる施設ではない。
必ず将官を通したアポイントが必要になる。
そのことが分かっているから中佐が私に聞いたのは、不当な手段を使って中に侵入したのかと言うこと。
「いいえ、中には入らずにマードック氏が出てくるのを待ちました」
「会えたのか?」
「いいえ、会えませんでした。彼は車で逃走を企てました」
「まかれたのか?」
「いいえ。ソシェルたちも狙っていたようですが、彼らはバックに付いている者の指示に従って運転するマードック氏の車を追跡するのを諦めました」
「そうか」
ビアンキ中佐は、何故ソシェルたちが追跡を諦めたかと言う肝心な部分を聞かなかった。
「聞かないのですか?」
「なにを?」
「ソシェルたちが追跡を諦めた理由です」
「興味がない。続きを話すつもりがないのなら、もう出て行ってくれても構わないぞ」
「……分かりました」
ビアンキ中佐は隊員たちの間で言われている通り表情も変えずに冷たい雰囲気……つまり鉄仮面を装っている。
これはコーエンが居るからではなく、おそらく私が詮索していることに気付いて、警告の意志を現しているのだと思った。
だいいちあんな夜更けまでアパートに帰らずに残っているのもおかしいし、私たちが基地に着いたタイミングでジェフとスタントンに機密書類の廃棄を頼むのもおかしい。
つまり私たちの行動など、全てお見通しという訳なのだろう。
ならば話は早い。
私は昨日あったことを、コーエンに話したように包み隠さず話し、ビアンキ中佐は私が話し終わるまで黙ったまま聞いていてくれた。
「――話は以上です。マードックさんを拉致しているのも、高性能強化パーツを作りカッシーノに渡しているのも私の祖父でした」
「そうか……」
「全ての責任を負います。何なりと処罰を与えてください」
「おっ、おいシーナ」
私の言葉に、傍に居て支えてくれていたコーエンが慌てた。
「中佐!シーナは何も知らなかったんです。爺ちゃんはもう10年も前から失踪していて」
「わかっている!!」
ビアンキ中佐が珍しく少し大きな声をあげてコーエンの言葉を遮った。
「おそらくオマエがシーナのために既に言ったであろう言葉を私も復唱しなくてはならん」
その言葉にコーエンの表情に明かりが灯る。
「たしかに天才科学者ジョージ・クラウチは間違っている。だからと言って祖父の犯したことはシーナの罪ではない。肝心なのは、間違いは正さなくてはならないことで、問題は祖父の間違いを誰が正しい方向に導くかではないのか? 事情は分かった。よく頑張り、また良く報告してくれた。ありがとう」
“ありがとう……”
たしかにビアンキ中佐は、そう言った。
夢なの??
「あの……」
「処罰は?」
「罪を犯していない者に、なぜ処罰がいるのだ?」
「門限に遅れたのに、偶然シャッターが開いたのを良いことにして、勝手に中に入りました」
「そうか? さっき夜中に機密書類をジェフとスタントンに出すように指示したとき不審者の侵入がなかったか監視カメラをチェックしたが、凄い霧で何も映っていなかったぞ。それに2人とも寮で夕食を食べている履歴が残っているぞ。シーナはいつもよりかなり小食だったようだが、コーエンはコックに特注で100オンス(約2,8kg)のステーキを作らせたそうだな」
「アイツ……」
コーエンが小さく声をあげた。




