【エレンの推理④(Ellen's reasoning)】
食堂から女子寮に帰る途中、廊下でCCSの副指令であるラインバック少佐と、その下でNo3の地位に居るフリッツ大尉がなにかコソコソと話をしていた。
なんか2人とも深刻そうな顔をして話していたが、私たちに気付くと直ぐに話を止めて何もなかったように歩き出した。
私の部屋に入り2人で一緒に考えて、エレンがピックアップした裏切り者予想リストを発表した。
1位がラインバック副指令。
理由は30代前半で少佐に昇進したのは良いものの、ビアンキ中佐が入って来てからは目立った活躍もなく次の昇進も見ない状態にあるから。
2位がフリッツ大尉。
29歳の大尉にとって、自分よりも3歳も年下のビアンキ中佐が上司であることは気に入らないはず。
またフリッツ大尉は陸軍士官学校時代はアメフトの人気選手だった過去もあり、今の目立たない状況を良く思っていないに違いない。
「でも、なんとなく主婦の井戸端会議的な感じもするよね」
「そうね。実は私もそう思っていたの。ノリで推理するまでは良かったけれど、やっぱり人を疑うのは推理とはまた違った能力が必要になるみたいね」
「うん」
「まっ、おいおい敵が尻尾を出すのを待ってみるか!?」
「そうね、とにかく私たちは今できることに全力を尽くす方が重要みたいね」
裏切り者の捜査は、いきなり発案後数時間も立たないうちに頓挫してしまった。
探偵並みの名推理を披露したエレンでも、裏切り者を探すのは難しい。
裏切り者を探す作戦を立てるはずの私たちは、いつの間にかお菓子を食べながらスイーツショップの話に盛り上がっていた。
数日後、ビアンキ中佐の執務室に呼ばれたシーナとコーエンは、JFK事件実行犯の尋問により得られた情報を教えてもらった。
死んだ両手両足を切断して強化パーツを移植した犯人は、難病を患っている子供の手術費を稼ぐためにニューヨークで派遣社員として働いていたが、派遣社員は日本と同じように正規雇用の社員に比べて収入が極端に低いが故郷であるバーモンド州の木こりとして働くより少しはマシだった。
アルバートはあるとき若い男の運転する車と軽く接触してしまいそれが原因で相手を殴って大怪我を負わせてしまい刑務所に送られた。
刑務所でカッシーノ一味に通じる同じ受刑者からアルバートがまとまったお金が必要で困っていることを知った一味は、10万ドルの報酬でJFK空港の犯行を持ち掛けてきて彼は自分の一生を棒に振る覚悟で請け負ったと言うことだった。
そして捕らえた2人も、似た事情があったところに、カッシーノ一味の手の者が話を持ち掛けてきたそうだ。
「人の弱みに付け込むなんて、酷い」
「きたねえ奴等だな」
「だからと言って罪を犯すのは間違っている、もしあの犯行が実行されれば飛行機の乗客だけでなく、搭載していた燃料の爆発により何百人もの命と甚大な損害が出ていたのだからな」
相変わらずクールなビアンキ中佐だったが、固く口を閉ざしていた犯人から事情聴取が出来たと言うことは、彼女の持つ優しさが彼らの心を動かしたと言うことなのだろうとシーナは思った。
「ところでソシェルがCCS内部に裏切り者が居ると言っていましたが……」
「ソシェルが言ったのは軍内部だ。勝手に話を飛躍させるのは止めなさい」
「すみません。 ですが、その人物を探さないとまたあのようなことが繰り返されます」
「裏切り者を特定できたとしても、新たな裏切り者が現れれば、捜査は振出しに戻ってしまいイタチごっこになるだけで時間の浪費だ」
「では、裏切り者は探さないのですか?」
「探さない」
「個人的興味ででも駄目ですか?」
「駄目だ、既にさっきエレンには注意をしておいた。シーナも、この件には首を突っ込むな。任務に戻ってヨシ!」
ビアンキ中佐はピシャリと、開いた窓を閉めるように話を打ち切った。
よほど硬い意志があるのだろう。
けれども、困ったことになった。
折角リリアンに期待を込めていたと言うのに、その本人に興味が無いのでは仕方がない。
エレンはパソコンの通信履歴から犯人を捜すと言っていたから、動き回るしか能のない私と違って他の者から見て怪しまれるはずがないのに、何故ビアンキ中佐はそのことに気が付いたのだろう?
時間の浪費だと言われたが、仲間を売るような情報を流す卑怯な裏切り者に好きなようにさせたくはない。




