王女強襲1
その女性はゆっくりと立ち上がった。姿勢よく胸を張り、堂々と歩み寄る。ギザギザとした歯をニヤリと見せる。宝石の様な瞳は淡く炎を宿していた。
身長は高く、八頭身?いや、九等身?モデル顔負けのスタイルの良さである。肌は褐色で健康的な日焼けのあとが眩しい。
「綺麗な人でござるな。歩く姿が美しいでござる」
「あぁそうだな」
「歩くたびにあんなに揺れて」
「ぶっ」
ばっくり開いた胸部はこぼれんばかりにでかい。もう、たゆんたゆん。である。危険だ。このまま直視し続けると俺の理性がもたない。
「ぐああああ。誰か!誰かいないか!ハッ!」
ちょうど良いところにカリンがやってきた。
「ん?な、なに、なに、え?ちょ、そんな真剣な顔で近づかれちゃ、ったらって、……どこ見てんのよ」
俺はカリンの胸部を凝視した。
「いや、あんまりにも現実離れしてるから、安心感が得たくて。チョモランマや富士山なんかより、見慣れた砂場のお山に安心感を得るあれだよ。ふぅ。ナイス絶壁。にぎゃあああ!!目が、俺の目があああ」
カリンの指が目をえぐらんと突き出される。
「何言ってんのかわからないけど、抉り出すわよ!!!」
腕まくりするカレンの指は的確に俺の眼球を潰しにかかる。そんなおれたちのやり取りを見ていた謎の美女はやれやれと嘆息した。
「まったく男どもはこんな駄肉の何がいいんだか。鎧も着れずに邪魔なだけだぞ」
彼女は両手で乱暴に鷲掴み、ふよふよと自身の乳を揉む。
「ちょっとまちなさいよ!こぼれちゃう!」
「な、何が起きてるんだ。涙で見えない。今目を開かないと一生俺は後悔する気がする。お、おぉ!開け!開けぇ!!あ、左目が、左目が微妙に見え、見える気があああああ!!」
「あんたは見んな!!」
グサリ
「ぎんやああああ。スプーンが!スプーンがああああ」
真っ暗だ。何も見えないいいい。
「ガッハッハッ!今日は来客が多いな。誰だ誰だ?」
シャワーを浴びたさちよが濡れた髪から雫を落として現れる
「……は?」
「……ん?」
全員が首をかしげた。
「カッカッカッ!冗談だろ!さすが、下々のものは冗談も低俗だ。さちよ。我ぞ。」
「あの人ってだれですか?」
「ま、まさか」
「嘘っすよね」
「我の名はレオ=アルニタクだ!カッカッカッ!久しいな?赤鷲ぃ!」
あわあわしてるのは、ガブコとアンだが、驚きすぎて声が出てこないようだった。手に持つスプーンがカタカタ音を立ててふるえる。
「アルニタク?アルニタクっつったか?」
「……おい、そこの下男。ほんとに私のことを知らないのか?」
「…下男?…えぇ。」
ガブコとアンは抱き合ってウンウンうなづいてる。
あ、肯定しろってことか
「はい!」
「!!!!」
「!!!!」
アンとガブコが泡を吹いて倒れた。
「あのさぁ!お姉さん!いま!わたしたち、食事の準備中なの!後にして!」
トテトテとカリンがやってきた。テーブルのうえにドカっと鍋を置く。
「な、無礼な!」
「無礼?夕飯時のクソ忙しい時にやってきて、どんちゃんどんちゃんうっさいわよ!料理に集中できないじゃない!箒に乗って来たなら、お腹すいてるでしょ?食べていく?スープと簡単なものしかないけど」
カリンが勢いよく差し出した器から漂う香りが第一王女の鼻をくすぐる。
「む…うむ」
彼女は意外にも大人しく席についた。
「ガッハッハッ!!とりあえずいただきますだ!」
全員で席を囲む。龍の背で小さな夜食会が開かれた。
「ガッハッハッ!思い出した!思い出した!勇者のヤローがお前に鼻を伸ばしてやがったから、キンタマ蹴り潰したんだっけな!」
「カッカッカッ!あの者我の妹たちにも手を出そうとしてたから、踏み潰してやったわ!カッカッカッ!」
「巫女が嫉妬してな。あらん限りの呪詛を吐いていたなガッハッハッ!」
「やつのいちもつが、象の鼻のようにのびきったときのやつの顔傑作だった」
大人たちは愉快に酒を飲んでいる。あんなに楽しそうなさちよさんははじめて見た。邪魔しちゃ悪いし、カリンのとこでもいくか。おれはその場を後にした。そんな勇者の背中をみながら王女は尋ねる。
「さちよよ、あれが次代の勇者か?さすがに弱すぎぬか?我の殺気に気づきもせん。魔力もNo.入りすら厳しいレベルの低さ。ほとんどないじゃないか。帝都にいたら直ぐに喰われるぞ」
「あぁ、心配すんな。あいつはお飾りにすぎねーよ。それにあいつの強さはそこじゃねーよ」
「弱肉強食。弱けりゃ死ぬだけさ」
「心配いらねーよ。なんせ最強の魔法少女のあたしがパーティにいるんだからな」
「最強は我ぞ?」
「あ?」
「あん?」
「や、やめるっす!師匠!」
カリンの元に近づく。
「なぁ、あの人たちにも飯分けちゃだめかな」
「はぁ?あんたアイツらは私たちを襲った盗賊なのよ」
「なぁ」
カリンをじっと見る。
「はぁ、わかったわよ。あんたも大概、お人好しよね。」
「ありがとう」
カリンから渡された盆に野菜のスープをつぎ、パンと共に3人の男たちの元へ歩み寄る。彼らは縄で巻かれて、隅に追いやられていた。
「……なんのつもりだ」
「いや、腹減ってるかと」
「あ、あぁ」「ありがてぇ」
「おいてめぇら。三羽烏の誇りはどうした!人間のガキのほどこしはうけねぇ」
唸り声をあげる長兄に三男が恐る恐る耳打ちをする
「でもよぉ兄ぃ?おれたちまともに飯食えてねーだろ」
スープの匂いに長兄も腹がなる。
「ぐ、ぐぅ。何が狙いだ」
「意地張ってないで食べな。べつに。なんかしてもらいたいわけじゃねーよ。」
「おれたちは魔族だぞ」
「だったらどうした。生きてりゃ腹が減る。腹が減ってる奴がいて、おれは飯を持ってる。だから分けた。それだけさ」
「あんたらを襲った。」
「あぁ、当然償いはしてもらうぜ。今まで襲ってきた分もな。でも、それはアンタらが生きてなきゃ始まらないからな。おれもあんたも同じ命だろ」
「お、同じ命?」
「なんだ?おかしなこと言ったか?」
「くっくっく。人間と魔族が同じ命?くっくっく!なぁ!お前本当に!!そう、思ってんのか!!!!」
縄の隙間から長く鋭い爪を勢いよく伸ばす。頬が裂かれる傷みを感じた。
「兄ぃ?!」
彼はこちらをじっと見ていた。
赤黒い眼を見つめ返す。
「はぁ。いってぇな」
攻撃の意思があるなら仕方ないな。
腰に着けたポーチからナイフを抜く。
「あ、兄貴!!」
「騒ぐなよ。皆がこっちに来るだろ。」
「へ、殺すなら殺せ!!」
「嫌だ!兄ぃ兄ぃ!!」「兄貴!!」
おれはナイフを立ててひと思いに切り裂いた。
「は?」
長兄の縄が切り裂かれ足元に散らばる。
「ほらお前らも向こう向け。縄に縛られたままだと食いにくいだろ」
弟たちの縄も切り落としていく。
「兄貴ぃ!」「兄ぃ!!」
「なっ、馬鹿な」
「早く食え、さめちまうだろ?カリンのスープはうめーぞ」
振り返ると弟たちはスープをガツガツと食べていた。
涙を流して。
「ふへ、兄貴が死ななくて良かったよぉ。兄貴美味い、美味いよ」
そんな弟たちの姿を静かに眺めていたが、唐突に話しかけてきた。
「なぁ、あんた。名前はなんてんだ」
「あー、俺は訳ありでな。名前ないんだよ。杖職人とかは呼ばれたりするが」
「そうか。杖は嫌いだ。その名はよびたくねぇ……だったら、あんたが気を悪くしなければだが、夜空の旦那って呼ばせてくれ」
「夜空?」
「あぁ、おれたちは夜空に神様がいるって信じてる。満天の星空にゃ数千、数万、数億の星々があんだ。魔族も一緒だ。でけーのもちーせーのもいる。そいつをぐるっと包み込む偉大な女神がいんだよ。あんたの度量みたいにな」
「なんか照れるな」
「なぁ、旦那。おれにもスープをもらえるか」
「あぁ、もちろんさ」
彼は1口スープん飲んだ。
「へへ、うめーな」
「だろ?」
スープを飲み終えた長兄はおもむろに指のリングを抜き、こちらに放った。
「っとと。なんだよ」
「夜空の旦那の優しさと美味いスープの礼だ。もっときな。きっと役にたつ」
「兄貴!そいつぁ」
「黙ってろ!旦那。安心しな。そいつは盗品じゃねぇ。真っ当だった頃の俺が働いて金貯めて買ったもんだ。」
「んな大事なもの貰えねーよ」
手のひらにあるそれは黒いツヤツヤとした光沢のあるリングだった。リングの中には文字の様なものが蠢いていた。
「『烏の嘴』つう、指輪でな。この指輪はつけてる間どんな道具でも扱えるようになる。魔力がなくてもな。魔族に伝わる旧い遺物さ。まぁ、魔族の連中にはよく知られてるもんだが。今俺の持ってるものの中で1番価値がある」
「だから、そんな大事なもんは」
長兄は首を横にふる。
「あんたがしてくれたことはそんだけ価値があることだったんだよ。旦那あんたは気づいてないだけでな。大人しくもらってくれや」
「ったく。いつの間に酒を積み込んだんだか」
「ガッハッハッ!倉庫にあったみたいだぜ」
「っす。師匠。酒なんて飲まないで下さいっす。酔うと大変なんだから」
「カッカッカッ!愉快愉快。のう、貴様ら何故に我が国に向かっている?」
「あ、そうだ。これで私たちの目的達成じゃない?王女に会って、呪いの話聞くのって?」
「カッカッカッ!残念だったな。我も呪いを持つが詳しくは無い。我の妹たちの方は研究してるみたいだがな。」
「あはははのは、カリン殿!なーにをしてるんでござるかー。これは美味いでござる。この帝都産の精米酒とよくあうでござる」
ショーグンが会話の間に入ってきた。アンは杖を眺めていた。
「ふーん帝都製の杖は素材から違うのな。祖父は土地が違えば杖の使い方が違うって。」
「カッカッカッ!あぁ、魔王城が近いせいで空気中の魔力が少ないからな。体内の魔力を使ったり、呪いをあやつったり。お前たち王都の杖とは勝手が違う」
「ガッハッハッ!あたしは関係ないがな。むしろ魔王の地みたいな場所ならこの大陸に溢れる余計な魔力の干渉がないから、のびのびと自分、を、ん、の、魔法を、、、はにゃ?」
「カッカッカッ!そうだな。だから」
ごとん
「酒を積ませた」
さちよさんの頭がテーブルに落ちる。
「師匠?!」
「おっと全員動くなよ。」
彼女の瞳の炎が燃え上がる。すでにアンさんとガブ子は杖を抜いていた。戻ってきたおれは目の前の状況に追いつけず、惚けた面をさらしていた。そんなおれを王女はちらりと見た。
「へっ?」
「この世は弱肉強食!そこの腑抜けは酒飲んで潰れただけだ。この程度のことで怒るな。そして」
杖を抜いた2人に牽制のつもりか、手のひらをむける。杖を持たない丸腰。危険は無いのか。なんだ?なんかゾワゾワする。
2人も判断に迷っているようだった。
「杖を抜いたらためらうな。」
「?!」
「!!」
突如突風が吹きアンとガブコが吹っ飛ばされた。まずい。外に。左右両サイドに2人の身体が飛んでいく。2人の杖が宙を舞う。
「カッカッカッ!さぁ、どちらを救う?なぁ、えせ勇者殿?」
俺の方をまっすぐに見て問いかける。
投稿日間違えましたΣ\(゜Д゜;)




