空の旅2
若いふたりのツッコミの声が空に響いた。聞くものは竜一匹と魔女三人。
「なんだなんだ?アイツら仲良いな」
「ハモってたっすね」
「なんだいアイツら恋仲かい?詳しく教えな」
空の旅の合間に聞こえた声を肴に話しをしている年長組。安定気流を目指し、龍も羽ばたきながらも風を掴む。大陸上空には安定気流または龍道と呼ばれる大きな風の流れがあり、大陸を渡る際に利用されている。
龍やホウキはこの風の流れを捉えることで長距離の移動を可能としている。
だが、ここへ到達するまでが難しく、腕利きの用心棒や魔道士を護衛につけることが必須となる。その原因のひとつが彼女らに牙を剥く。
「なに、呑気に談笑してやがる!お前ら置かれてる状況がわかってんのか?」
空賊である。積荷を狙った盗賊で、男たちは3人龍を取り囲むように併走している。彼らの背中には悪魔のような翼が生えており、魔族であることが伺える。それぞれ手には大砲や銃器をもっている。数は3人。所々に縫い跡があるボロボロのマントをはおっている。
「ん?」
「ん?じゃねーよ!」
「バカにしやがって俺たち『荒野の三羽烏ブラザーズ』を知らねーのか!」
「うっせーよ!何が、荒野の三バカだ!あたしたちは帝都に急いでんだよ。芸をするなら他所をあたれ!」
「ダーレが三バカじゃい!!はっ!知ってんだぜ。なんだか、珍しい杖を持ってるらしいじゃねーか?」
「おう!おう!おう!兄貴が言ってんだろ?」
「大兄ぃが言ってんだろ?」
リーダー格の男がにやりと笑う。確信を得た話し方に違和感を感じた。さちよはガブコとアンに目配せをし、静かに聞いた。
「……どこでそれを?」
「はん!あのふざけた女どもだよ。チンチロのカモになった女とアジトの飯を根こそぎくらいやがった大食らいの女さ。言ってたぜ。恨み言なら、あとからやってくる龍車に乗ってるやつに言いなってな。そいつらのほうが高値のもん持ってるってよ。2人を連れてきた女薬師が言ってたんだよ」
「あんの、タヌキばばあ!!」
「あいつらのせいで、俺たちのいた盗賊団『飛蝗』は壊滅しちまった。大兄ぃと一緒に買い出しに行って帰ってきたら、我が家がねぇ。んな、話が信じられるかおまえら!あん?」
ガチャりと撃鉄を起こす。
「『飛蝗』のやつらには手を焼いてたんだい。ありがたい話だね。これで安全に陸路を使えるわけさ」
アンは笑いながら言った。
「この女ぁ!」
「なんで、壊滅させたそいつらに復讐しようと思わないっすか」
「んなもん決まってんだろ。やつらふざけたヤツらだったが強かった。勝てる気がしない。ワンチャンにかけた。俺たちは運がいい。あんたらの方が弱そうだ|」
ぴき
3人の少女に青筋が浮かび上がる。
「ガッハッハッ。あたしがアイツらより弱いだと。最強の魔法少女たるあたしが?」
「やれやれ。『氷豹』の赤爪の名前をしらねっすか?」
「名工グランパの美人職人をしらねーと?ジジイの杖は最強だよ」
にこやかな笑顔を覆い被さる殺気が包んだ。勢い付いた盗賊の煽りは止まらない。
「はっ!二十歳近くのババアが魔法少女名乗ってんじゃねーよ」
長兄が大砲を構えて言った。
「はっ!『氷豹』はどいつもこいつもよわっちいんだろ?」
次男が銃を構えて言った。
「んな杖知るかよ。どうせ老いぼれの作ったくそみてぇな杖だろ?」
三男が大鎌を振り回して言った。
「ガッハッハッ!」
「っす」
「はぁ……」
「ガッハッハッ!あたしたちは大人だぜ?んな低レベルな挑発にのるほど安い女じゃねーよ」
「「「ぶちころす!!!」」」




