勇者の旅立ち3
「……勇者様。そして黒錨魔法団の皆様。世界の危機を救うのです!」
王都にて、俺たちの出発式が行われた。広場で若い女王様が述べてお終い。復興作業もあるため、拍子抜けするほど簡素に簡潔に行われた。女王様ってはじめてみたな。絹のような金髪に碧眼。綺麗な人だった。だが、はじめて会った気がしないのはなんでだ?
「ねぇ女王様に見蕩れてんじゃないわよ。黒錨魔法団って?」
カリンがムスッとした顔で尋ねてきた。
「ん。あぁ日本のカシオペアって星座があるんだよ。別名錨座。その星座で北斗七星と同じく北極星を探せるんだ。奴らに対抗する意味で、カシオペア。戦いを止める錨になればなってな。あと、5つの星からなる星座なんだ。俺、かりん、さちよさん、ガブコ、あんさん。の、5人だし。ちょうどいいかなって」
「カシオペアかぁ」
彼女はニッコリそう言った。
「わたしもちゃんと、仲間として思ってくれてるんだ」
「ん?なんか言った?」
「ううん!なんでもない!」
勇者たちを見送ったあと。
「No.2さん。いますか」
「ここに。王よ」
「あの者達で大丈夫なの?」
式典後彼らが出発して、おもむろにはなしかける。若い女王は心配そうにはなしかける。
「安心してください。バックアップのチームは既に出発しておりますし。赤鷲もいます。」
「女王!こんなところに居られましたか!ささっ!1区に帰りましょうぞ!!……何を見てる!さっさと仕事をせぬか!この魔女が!!」
「そんな言い方は!」
「いいんですよ。王よ。私は仕事に戻ります。」
会釈する魔法少女を不愉快そうに見て、男は女王を連れていく。その姿を静かに見送る。彼女の横に黒装束の魔道士が現れる。
「……『千手』様。」
「どうした。緊急時以外は来るなと言ったはずだぞ」
彼女は唇を動かさずに話す。
「面会したいと言う者がいます」
「?」
「No.更新試験に来ていたリシオ帝国の第4王女です。」
「第4王女?個室を用意しろ」
国に帰ったはずだが。彼女は姉の三姉妹とは違い魔力の少し高いだけ普通の人間だ。政治力や軍事力で特筆すべき点はない。祖国では居場所がないため、今回のNo.更新試験に参加した、との話だったが。
「おおおお初にNo.2様。お、お忙しい中ありがとうございます」
「そんなに緊張しなくても大丈夫です。」
「で、ですが、貴方様はあの、3年前の戦いの英雄で」
「…やめてください。おれは英雄などではない。…失礼した。ご要件は」
「あ、すみません。黒の杖職人様が勇者として、我が国に向かったと聞いて」
「ええ。事実です。先ほど出立しました。あなたは国に帰ったはずでは?」
「え、えぇっと、今帝国にいるのは白仮面の一味で。」
「な、」
「先日のNo.更新試験で私、『顔』を奪われていて。」
「じゃあ今帝国には、変装の使い手が紛れ込んでいる」
「そうなんです。わたしも意識を取り戻したのが、今朝のことで、早くお伝えせねばと」
「…ご進言感謝します。勇者一行には伝えます。帝国に帰られる際には護衛をつけましょう。体を休めてください」
第4王女が部屋から出たあと、No.2の魔法少女は思案する。
「…いかがなされますか。」
先程の魔道士は2人の部下とともに音もなく現れた。
「…第4王女には今動ける魔法少女で1番No.の高いメンバーを2人つけろ。伝令を飛ばせNo.5にだけ伝えろ。赤鷲には伝えるな。やつなら、全員殴り倒すといいかねん。」
「…ははっ」
「あと」
「?」
彼女が突然杖を抜き、1人の部下に向けるとその1人は捻りきれた。
「な、なにを?!」
「…今後は部下たちが魔獣が混じってないかチェックしてからこい。」
捻りきれた隊員は、狼のような魔獣の姿になり、けむりのように消えた。
「なっ」
「ここまで、潜り込ませるとは。」
苦々しく呟いた。
「姿も魔力も似せているが、魔獣ゆえ重さが軽い。厄介だが、対処できないわけてはない。おれの『影』たちのなかにも、潜り込ませるとは」
どこから情報を仕入れた。影のことを知る人物は極わずかしかいない。
「ほー!!!これがドラゴンか」
24区の外れには翼の生えたドラゴンが、荷台をつけて、草を食んでいた。朝日を受けて輝く鱗は翠色をしていた。
「竜種としては珍しく草食の大人しい種類だ。スピードはないが、沢山の荷物を長距離運べる」
「すげぇ!すげぇ!カリン。ドラゴンってこんなに身近に会えるもんなのか?」
「あたしも初めて見た。」
「ほう!竜種とは面妖でござる!しっぽの先っぽでいいから試し斬りしてもいいでござるか!」
「バカか!保険をかけたとはいえ、竜種を怪我したら、お前どころか、お前の家族、友人全て、けつ毛も残らねーほど毟り取られるぞ」
「それに竜の鱗はかなりの強度っす。魔法耐性も物理耐性も超1級っす。」
「ますます斬ってみたいでござる!」
「とりあえずホウキに乗れるあたしとガブコの2人が先導しながら、帝都を目指す。アン。」
「なんだい?」
「牡羊座の魔法で一応荷台を覆っておけ。最近野盗も多いらしいからな。カリン」
「はい!」
「お前の変身魔法で、下から見上げたら空に見えるようにしろ。ショーグン」
「なんでござる?」
「王女とのコンタクト方法の再確認だ。それによって…。」
俺は期待に満ちた目でさちよさんを見つめる。
「…なんだ?」
「いや、俺は何をはしたらいいかなって。」
「お前地図は読めるか?」
「読めません。」
「魔弾や飛び道具を狙って撃てるか?」
「撃てません」
「よし、そこの隅で座ってろ」
「はい!いや、待って。」
やだやだやだ。おれも皆みたいにかっこよく決めたいんだ。
「なんだ、くっつくな。あたしは忙しいんだ」
「やだやだ。おれも、皆みたいに役割が欲しい。」
じたばたと駄々をこねる。
「…お前、仮にも勇者だろうが。わかったわかった。竜に水と餌を与えてくれ」
「おう!!」
勇者と呼ぶべき駄々っ子にため息をつきつつ、さちよは密かに他の魔法少女たちを呼んだ。
「カリン、ガブコ、アン話がある。こっち来てくれ。」
集まった3人に告げる。
「七星仮面騎士団はあたしたちの天上の杖、そしてアイツの黒い杖も魔王復活のため狙っている。だから、気をつけろ。姿を変えれるやつも、転移を使えるやつもいるからな」
「そいつらこないだ倒しちゃったわよ」
「お前らが倒したと思ってる魔道士はあのコロシアムにはいなかったぞ」
「へ?」
「体が見つからない。おそらく回収されてる。初めから本体じゃなかったか。だが、こっからは争奪戦が本格化する。さっき、連邦で封印されていた蠍座の杖が奴らに奪われた。やつらも本気だ。祠に封印をし、警護していた連邦の魔道士の中にはNo.17『緑蛇』もいた。森の中の戦闘で負けは無いと思われていた奴がだ」
「まじっすか?!あの人めちゃくちゃに強いんすよ!」
「いずれにしても、あたしたちはやつらの目的を阻止するためにも杖は死守しないといけない。12本の杖の魔力が揃うと魔王の封印がなくなっちまうからな」
次回6月4日0時更新予定ᕕ( ᐛ )ᕗ




