勇者の旅立ち1
「獅子座の杖…」
天上の杖は俺の、いや、勇者の故郷の日本の12星座になぞらえている。12本あるはず。さちよさんみたく、もともと持っている人もいるわけか。
「天上の杖には、逸話が付き物だが、獅子座は何の情報もないな。そういえば黄金の巫女も獅子座をあまり使いたがらなかったな」
「ジジイが帝国に行ったときに、話を聞いたんだと。ちょうど、あんたが性悪領主を倒して、全世界に向けて放送したすぐ後だった。獅子座の杖は帝国にあると帝王が民衆につたえたんだと。だから安心しろ。我が国は安泰だ。ってな。ちかぢか王女のうち1人に継承するんだとか」
「その後にクーデターか。無関係ではなさそうやな。ま、頼むわ、勇者さま」
ぽんと叩かれた手を払う。
「……おれは、勇者なんて出来ないよ」
「な、なんでや?」
「それは…おれは弱いし、」
おれは人間じゃないから。言い淀んでしまった。だが、そんな俺にさちよさんは厳しい眼をむける。
「…お前が望もうと望まないと。魔法少女たちに目をつけられてんだ。仮面の奴らもお前を狙ってくる。逃げ場はねーぞ、おい!」
「…」
少年は部屋を飛び出した。
頭をかきながら区長は言った。
「アイツに世界の命運がたくせんのかいな」
「ガッハッハッ!なるさ!あいつはやるやつさ」
「…さちよさん、わたし様子を見てくる。」
「おう、まかせたぜ。カリン。もし、アイツがうじうじ言うようならぶん殴っちまえ!」
「あ、あっしも行くっす!」「あたしも!」
「いんや、お前らは行くな。いまからルートの確認すっからよ。なぁ、区長さんよ。別にパーティは自分たちで増やしてもいいんだよな」
「あぁ、かまへんで。きちんと報連相するならな。」
「…じゃあ、わたしも」
「心音?!、じゃ。じゃあ、うちも」
「お前は24区をどうするんだよ。心音ちゃんも山ほどやることがあるだろう。目が覚めてから、様子が変だったんだ。いまはカリンに任せておけ。1番付き合いが長いんだ。ガブコ何を話す気だ?」
「がんばれってはげますっす」
「根拠のねー応援なんざ、いらねーよ。気持ちが逃げてるやつには響かねぇ。そのあたりはカリンがうまくやるだろーよ。ガブコお前は『氷豹』として色んなところに派遣されてただろ?転移魔法が止まっちまってから、ルートを精選せねばならねーんだよ。知恵を貸せ。あとは帝国での生活拠点をどうするか。ん、どうした、お前ら」
「し、師匠って、色々考えること、できたんすね」
「どういう意味だよ!『蒼豹』の奴に後のことを託されてるんだ。考え無しのままじゃいられねーよ」
「あの猪娘が、感慨深いなぁ。せや。『氷豹』と言えば、赤鷲あんた組織の立て直しに1枚噛んだらしいやないか。凄かったらしいやないか。トップや幹部が動けない状況下で、混乱する現場をまとめあげ、規模を小さくすることで、組織としての解体を回避するなんてな。」
「へっ」
「師匠…」
王都24区。今日も活気に満ちている。人々の様子を尻目にしながら、宛もなく歩いていると首筋に冷気を感じて飛び上がった。
「ひゃうん?!」
「よっす!食べる?王都限定アイスクリムン。めちゃ甘で美味しいわよ」
「…かりん、か。」
モコモコとした綿のようなものを持ったかりんがいた。
「姉様も、連絡が取れないし。あたしたちまた、家族みんなで暮らせるかな」
「家族、みんなで、か。出来たらいいな。」
「なんで、他人事なのよ」
「は?」
「あんたも、一緒に暮らすんでしょ?」
「いや、おれは」
「ねぇって」
「いや、おれはそんな資格は」
「ねぇって」
ガシッと両頬をホールドし、カリンが顔を覗き込んできた。
「家族に資格なんて必要ない。資格なんてないのよ。だから、あんたが抱えてるもん全部吐き出しなさい!」
神様と話したことをぽつりぽつりと話した。カリンは黙って聞いていた。話終えると
「あんたが迷ったらあたしがぶん殴ってでもだから、あたしも一緒に行く」
「おれはいくつもりは」
「じゃあ黙って襲われるの?わたしの家族はだれにも傷つかせない。あんたが狙われるようになるんなら、わたしが全身全霊を持ってあんたを守るわよ」
「なんで、こんな何も無い人間でもないおれのためにそこまで言ってくれるんだよ」
「何も無いことなんてないわよ。あんたと森であって今日ここまで一緒にご飯をたべて、旅をして、戦って、色んなことがあったじゃない。それは、コピーされた誰かのもの?ちがうわ。わたしは勇者なんて知らない。わたしが知ってるのは、あんたよ。あんたが、あんたとして生きてきた人生なのよ。このあたしとの日々がなんにもないって言うなら、ぶん殴るわよ」
「……かりん」
「名前で呼ばれたいなら、自分で名前を付ければいいじゃない。わたしがつけたげてもいいわよ。てっきり事情があるのかと思ってたから。呪い対策として、本名よりも通り名使ったり、本名を省略するのがよくあるから。」
「俺の名前をつける?」
「そう!名前が無いならつければいい。誕生日が無ければ私と出会った日を誕生日にすればいい。家族が欲しければ、私や姉様があなたの家族よ。誰にも文句は言わせない!あなたは私の大切な家族よ!」
自分の中の胸のつっかえがすぅと消えていくように感じた。それと同時に涙が静かに流れた。
「へへっ。かっこいい名前にしてくれよ」
「もちろんよ!ケツカラツエタロウ!」
「やめて!!」




