蒼と赫4
コロシアム内にいる氷豹のメンバーに蒼豹の氷が握らされる。ひと握りの濃い蒼色の氷。魔力が込められており、薄く光っている。
『蒼豹』は共鳴魔法をかけ、コロシアムにいる氷豹のメンバーに意志を伝える。
君たち氷豹の皆に伝える
今からあの白仮面を止めるために
君たちのありったけの魔力をその魔氷に流し込んでくれ
3分後その魔氷は自動で私の元に還る。
力を貸してくれ
「さて…」
共鳴魔法は魔力感知されづらく盗聴の可能性もすくない。邪魔はされないだろう。呪法を早く組まねば。
彼女はローブから皮袋をとりだした。中には魔石が入っており、様々な色を発していた。魔力を帯びた魔石は指輪などに加工され使われている。普段は素質ある子どもたちに渡して共鳴魔法の中継地としてつかっているのだが。
「石よ砕きて我が身に宿れ」
彼女はそう言いながら、魔石を杖の先を使って砕いていく。砕くたびに魔力が身体に少しずつ溜まっていく。
魔力を込めながらチョークで足元に魔法陣を描いていく。いまからやる事は賭けだ。理論だけは組んでいた。実行に移さなかったのは、リスクが大きすぎるからだ。多段呪法。魔王によってかけられた呪いを利用し、さらに自分に呪いをかける。下手すると呪いの進行が加速してしまう。
「我が身に宿りし呪いよ。喰らいて爆ぜろ駆け抜けろ。我が身を焦がし呪いをもって、更なる呪いを我が身に宿さん」
杖で魔法陣を突くとコロシアムにいた魔氷が静かに反応する。彼女らの魔力を集める。同時に彼女らにかかった呪いも可能な限り吸い出して。
私にかけられた人間を魔氷に変えていく呪いによる魔力の増幅と、わたしの生徒たちにかけられている魔力の徴収。魔王が初期にかけたじっくり育てて回収つもりだった前者の呪いと、魔王が追い詰められて身のふり構わず撒き散らした後者の呪い。根幹の術式は似ているので、操れる部分も少なからずある。全部は無理でも、ある程度肩代わりすることができる。せめてものちいさな償いだ。
わざと呪いを暴走させて魔力を絞り出し、魔力を削る呪いで形を整えていく。一か八か。魔氷になるか、魔力がゼロになるか。もしくは、魔王を倒す一手になるか。
「多段呪法、一の段。雪達磨」
心臓が痛む。呪いの暴走がはじまった。
「ぐぅううううう!」
私の苦しみは今まで苦しめてしまった人達に比べたら、この程度の痛みなど。
「今更魔力の回復か?」
「おいおいこんな美女を相手によそ見とは妬けるじゃねーか」
「……焼けてるよな」
さちよはさきほどまでの荒々しい様子とは打って変わった姿をしていた。花嫁が着るようなウェディングドレスを着ている。但し、色は燃えるような赫色。裾は魔炎が灯っており、その手には炎のバラで出来たブーケが握られていた。
「魔装・赫炎戦乙女帝装。あたしもなかなか可愛いじゃないか。なぁ、おい!」
「ここで、魔装を遣うとは、手札の切り方を間違えたんじゃないか?一日に何度も魔装をするリスクを分かってないのか?」
「いいんだよ。任された時間は5分!!!そこを精一杯戦うためだ!」
静かに花束を向ける
「?!うぉぉぉぉ?!!」
ブーケから飛び出した『赫蛇』の炎のムチで足を絡め取り、思いっきり引っ張りあげる。魔装と赫によって彼女のパワーは相当なものになっている。宙に浮いた体を地面に叩きつける。
「赫薔薇蛇!!」
「……ぐっ!!」
「ぐぅ、ニの段雪化粧う、う、つ、貫き砕け蒼の牙、か、硬く堅固に蒼の骨、か、駆けよ跳ねよ蒼の脚、蒼の、、、はぁ、はぁ、」
全身から脂汗が出る。さちよが奮戦してくれている間に整えなければ
「掴めよ撫でよ蒼の指、な、眺めよ見透かせ、あ、蒼の瞳」
コロシアムの内外から、蒼い光が『蒼豹』に集まっていく。
蛍のような輝きが1つまた、1つと彼女に取り込まれていく。
1つ取り込まれるごとに彼女から白い冷気が強く漏れ出てくる
「……からの、赫!『独身奪取』!!」
足のブーツが輝き、目にも止まらぬ速さで『壱』に近づく。そう結婚式のブーケトスで全力をかける独身がごとく。
「がっ!!早っ?!」
「こんな事やってっから、婚期が遅れるんだ。血涙乱打ぁ!!オラオラオラァオラオラオラァ!!」
赤い涙を流しながらの魔装➕『赫鷲』状態の乱打。
「じゃあ!なんで、そんな魔装にしたんだよ!!」
「うぉらぁ!!しるかぼけぇ!!!夢見ちゃわりぃーのかよ!あたしだって女の子なんだよ!!」
「魔装ってのは、強い思いがあるんだろ?むちゃくちゃだ!」
「むちゃくちゃ?むちゃくちゃなのはお前のほうだろ?お前の目的はしらねーが、お前がやろうとしてることはめちゃくちゃだ。」
「知ったふうな口を」
「天上の間には行けねーよ」
「!!」
「強くなるために転生したようだが、あの場所にいけるのは」
「ふははははは!!」
彼女の声を打ち消すように高笑いする。
「心配すんな。考えてるさ」
「?...!!!お前、まさか」
さちよはハッとして笑い声がとまる。
「気づくのがおせーよ。さぁ、精一杯防ぎやがれ。俺様も派手に決めるぜ。魔装!!」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
冷気のひりひりとした痛みを感じる。
「ぐぅうううう」
彼女の吐く息が白く空気中の水分と反応して、きらきらと輝く氷のつぶになる。さらに頬に手足に氷が這う。
「魔装……『蒼衣・氷猫』」
手足に氷の魔爪を付けた状態。鎧は胸のみ。不完全な魔装。荒々しい氷の猫。彼女が勇者とともに戦っていた頃の魔装。
「不格好にも、ほどがあるな、はぁ、はぁ」
まだ未熟だったころの魔装。それ故に消費魔力は少なくいまなら、効率的に魔装になれる。彼女なりに合理的な判断だ。
「こっからは、さらに賭けだ...」
素早く魔装の魔力を皆から引き抜いた呪いと反応させる。魔装による蒼い氷に黒いまだら模様が毒のように広がってゆく。
「……三の段『斑雪 重衣』。……っ!!はぁ、はぁ」
全身に広がる呪いが自分に痛みで警告をはっする。このまま呪いを広げたら、魔王の餌の魔氷となると。
「……ガッハッハッ!ガッハッハァ!!」
奴の笑い声を真似して、心を奮い立たせる。あいつの事は嫌いだが、わたしは今日はあやからせて貰おう。ピンチになろうが高らかに笑ってその逆境を跳ね返してしまう。理屈の通じない彼女の生き様に。
「……ガッハッハッ!!終の段!!滅級魔装!!『蒼鎧・白銀蒼豹』!!」
『蒼豹』の杖が砕け散る。杖が限界を超えた。あとは、魔装が解けてもやり直すことはできない。全身にまだら模様が広がりきり魔装が完成する。
「……先生何で」
傍らに横たわる彼女の教え子の涙が落ちる。残りの魔力を注ぎ、呪いを抜かれた彼女たちは動けない。
「……悪いな。みんなにも謝っておいてくれ。先を急ぐ」
静かに呟いた。彼女の口端から徐々に氷が広がって行ってるのがわかる。
白い仮面からは表情は伺えない
「散れさちよ。お前は十分よくやった」
「……ガッハッハッ!!ばかやろうが、がふ、」
彼女の吐き捨てた血が地面に赤い水溜まりをつける
「待たせすぎだ。っ!!」
横薙に振るわれた大剣を、氷の柱が止める。
「何を言ってる。はぁ、はぁ、まだ三十秒余裕があるだろう?」
美しい蒼い豹がそこにいた。血まみれのさちよに息を吹きかけ血が出る箇所を無理やり凍らせる。
対峙する『壱』も魔装を身につけており、大剣を片手で振り回し、彼女らに向ける。さちよにこれだけの傷をおわせるなんて。真っ白な鎧にはさちよのものと思われる返り血がたくさん着いていた。
「2人まとめて、おれの野望の糧となれ」
「...ガッハッハッ!!お前にあたしたちが!」
「食い尽くされるわけないだろう」
蒼と赫の魔法少女が並び立つことはもう無い。それが2人には分かっていた。
「あたしらは泣く子も黙る元勇者の一行『赫鷲』さちよさんと」
「『蒼豹』レオパルト・ブルーブッチ……だ。なんだ、泣く子も黙るって」
「ガッハッハッ!さあな!時間もねーんだろ?最後まで付き合うぜ」
「……分かってたか。……あぁ、頼むぞ。……相棒」
「……?!ガッハッハッ……照れくせーな。…後のことはまかせろ…またな」
「……あぁ、また、な」
次回4月2日0:00更新予定
今回間に合わ無かったので、時間を少しずらして日曜日0:00更新にします\( ˙▽˙ )
今後とも俺ケツをよろしくお願いします!




