殴り込みレッドホーク2
「くぅっ!らぁ!」
彼女の手のひらを避けるように後ろに飛ぶ。腕がズキズキ痛む。水瓶座の魔力が残っているうちに使いたくはなかったが。ケツから黒い杖を引き抜き、腕にあてる。凍った部分から魔力が抜けていくのを感じる。だが、火傷を受けたようなヒリヒリとした痛みは腕に残った。
「ぐぅぅ!」
「ほぅ。黒い杖…。なるほど。君が杖職人。勇者が言ってた『器』か。となると、『氷爪』。君はいまさっき所有者になったばかりか。これは最高のタイミングで、わたしはここへ来たと言う訳か」
ズシンと杖が重くなり、力の入らない腕から落ち、地面に突き刺さる。氷の魔力を吸い取るが、水瓶座で纏っていた魔力も一緒に持ってかれてしまった。これでおれは魔力のないただのガキでしかない。勝ち筋は当然、逃げ筋も見えない。
おれは、弱い。
「に、逃げるっす!!」
ガブコの必死な声が耳に入ったが、動く力はもうない。
「おいおい。それが出来ないのは君の方が理解してるだろ?」
『蒼豹』は地面に手をつける。
「白き狩人、大地を駆けよ。全てを狩り取り、宴となせ。」
何かやばい。こぼれ落ちた黒い杖へ手を伸ばす。
「『蒼き氷原』」
彼女の呟きを残して、辺りは静寂に包まれる。
「……」
「……」
杖職人の少年もガブコも動きを止める。
彼らだけでは無い。
その区域全体を氷が覆っていた。草も木も地面につらなる全てが凍っていた。
「ふぅ……」
彼女が歩くとパキパキと氷が砕ける音がする。
「……やはり黒い杖を封じることはできないか。」
少年の伸ばした手はわずかに黒い杖には届かなかった。地面に突き刺さる鈍く光る黒い杖。その辺のみが元の地面のままだった。『蒼豹』は杖には触れずに、見下ろして誰に向けてか呟く。
「この様子じゃ、君の計画もここで終わりだな、さて」
彼女はゆっくりと懐に手を入れる。指先に触れた彼女の杖に手をかける。そして、勢いよく後ろを振り向き、魔法をかける。
「『蒼き飛刃』」
「うぉ!!危な!!」
体を仰け反る形で、飛んできた巨大な刃を避ける。
「ガッハッハッ!!元気そうじゃねーか!なぁ!『蒼豹』」
苦々しく声の主に言葉を返す。
「さちよ……」
「おうよ!天高く飛ぶ紅き翼!!『紅蓮の赤鷲』たぁ!このあたし、さちよさんのことさ!ガッハッハッ!!!赤く!紅く!赫く!!あたしの後光は真っ赤に染まってんのさ!!」
腰に手を当て、大空に向かって高らかに名乗る。蒼白く凍らされた大地の上で仁王立ちして、紅いマントを翻す。
「何回赤を言うのだ。くっ、このバカを相手にしてる感じ。久々に自分の知能指数が低くなりそうだ」
「お?!あたし、褒められてる?!ありがとな!ガッハッハッ!」
「君、馬鹿だろ」
「んだとっ!やーい!やーい!白髪ババア!!老けるんが早いんだよら!ガッハッハッ!!」
「っ!これは、魔装の、いや、辞めておこう。君とは相性が悪い」
「おいおいつれねーな。数年ぶりに会ったんだ。女子会しよーぜ。王都のパフェでも食ってよー?なぁ?」
「じゃあ、その足のホルスターの魔瓶は要らないだろ」
杖をかざし、足を指し示す。さちよの足のホルスターには、色鮮やかな魔法の炎が詰められた魔瓶が何本も刺さっていた。
「あたしはか弱い女の子だからな!防犯用だよ。ほら、あたしかわいいじゃん。王都は物騒らしいからな。妖怪白バンバが出るってな」
表情が伝わりにくい彼女だが、額に青筋がはいる。片眼鏡の位置を指でずらし、上目遣いで静かに言った。
「あー君は、二度とぴよぴよとさえづえれないように氷漬けにしないとわからないようだな」
「やってみな?そんときゃてめぇは黒焦げだぜ」