殴り込みレッドホーク
「…やったっすね」
「あぁ」
『氷鬼』は動かない鬼の鎧から恨めしげにこちらを見ていた。頬が赤く染まっていた。
「約束通り、ガブコは氷豹を抜けさせてもらうぞ」
「……わたしにはその権限はない」
「はぁ?!」
「ははっ。まぁ、そうだろうなとは思っていたっすけど」
力なくガブコは笑った。
「『氷鬼』」
底冷えのする冷たい声。美しい白髪は雪のよう、長身の片眼鏡を掛けた女性。誇りひとつついてない黒いローブには、金刺繍がされていた。
「『蒼豹』さんっ!!こ、これは」
「更新試験が退屈だったから見に来たが。君は少し行動も思考も雑すぎる。なぜ、考えない。彼らが水のドームで何をしているのか。なぜ考えない。雪兎の動きの意味を。何故考えない。わたしが君の名前に体の部位を入れないのか」
「それは、わたしが強いから」
「君が相応しくないからだよ。お眠り」
「ひっ」
彼女が手をかざすと『氷鬼』の全身が一気に凍る。
「杖を、使わずに」
「やぁ、『氷爪』元気にしてたかい。君の魔法は素晴らしかった。恐らく君の魔法は時間の凍結。時間を切り取っているようだね。とても、興味深い。どうだろう。わたしとともに」
彼女がガブコに手を伸ばす。
「あ、あ、あ…」
ガブコは青ざめ、恐怖で声にならない声が漏れていた。
「おい!!」
『蒼豹』の伸ばした手を掴む。痛いくらい冷たい手。
「離したまえ」
「何、するつもりだ」
「持ち帰るんだよ。少年。持ち帰って研究するんだよ。天上の杖の所有者に会えることは稀だからね。それに、まだ未熟なうちに手元に置いておくほうがよいだろう。」
「『氷鬼』は彼女を解放すると言ってたのだぞ」
「わたしは知らない」
さも、興味無さそうに言い捨てる。こいつ、さっきから目が合わない。まるで、おれには視線を向ける価値などないとでもいうように。
いま、ガブコにしろ、おれにしろ、戦う気力なんてない。何かないか。何か。
「し、知らないとしても、試験官が不当な約束をしたことをしてたとなると、魔法の教育機関として、信用はどうなるだろうな」
「ふむ。たしかに、それは一考の余地がありそうな提言だな、感謝しよう」
彼女は意外にも思案する様子を見せた。いける。まだ、終わりじゃない。
「だったら」
「ふむ。では、お前から消すか」
彼女の空を見ているかの様な顔が一気にこちらに迫る。
「っぐあ!手が!」
「大丈夫っすか!!」
「目撃者がいなくなれば、問題あるまい。」
彼女を掴んでいた手が凍りつく。また、杖なし。これじゃあ、攻撃を予想することが難しい。感情の起伏が少なく、魔力も揺らぎがない。厄介すぎる。なんなんだ、この人は。
「そこで見ていろ。『氷爪』。貴様に手を貸したばかりに氷漬けにされ、砕かれる友をな。そして、わたしの研究の贄となれ」