No.更新試験7
「じゃあどうするんかい?今試験中、ほかの受験生は?」
「ひとつ約束しろ。」
声を張って『氷鬼』によびかける。
「なんだ」
「いまから俺がやることに対して、受験した魔道士たちが罰せられることがないようにしろ」
「ふ~ん」
何をするつもりかは分からないが、大したことはできないだろう。
「ああ、いいだろう」
それに、魔道士たちが耳をそばだてているのが感じられていた。
「よし」
魔道士たちに向き直る。敵意の目が向けられる。
この人たちの願いはなんだ考えろ。
「お、俺の杖をやろう。いま、今回の試験を降りてくれた人には俺の杖をやる。どうだ」
「どういうこと」
ざわざわと魔道士たちがざわめく。
「魔法の杖は非常に高価だ。もしこの試験を受けるのが、家族のため、村のために来ているのなら、それでもいいはずだ」
何人かは考えている。当然だ。おれがカリンと森へ飛ばされた時に、商人たちは必ず買っていた。今考えたら信じられない価格で売ってしまったが。それだけ価値のあるものだ。なかなか出会えず、少し値が張っていても、十分売り切れると判断したのだろう。
「おれは杖職人だ。杖を作ることができる人間は王都でも少ない。おれの杖は金貨ひと袋にもなったことがある。」
ズボンに手を突っ込み杖を引き抜く。
「んぐっ!ぷはっ!この一本と同等の杖をやろう。」
引き抜いた杖を振るい、杖先に魔力を流す。ぱちぱちと火花が散る。
「No.持ちになったとしても生活が保証されるとは限らない。俺のいた村には、No.50台とNo.90台の2人がいたが、村全体が豊かというわけではなかった」
さらに揺さぶる。ざわざわとした声が大きくなる。やはり、生活をよくするためという思いを持つものも多いいようだ。
「いまなら、時間さえあれば、ここにいる全員に杖を配ることはできる。」
「具体的にはいつもらえるんだ」
魔道士から声があがる。当然の質問だ。
「お、おい」
質問した魔道士に遠慮がちに声をかける。ちらちらと『氷鬼』の表情を伺っている。
「あたしは今回病気の弟の治療費を稼ぐためにきてる。それが解決するなら。何日もかかるなら困るが」
「1週間以内を約束しよう。急ぎの場合はそれも考慮しよう」
あまり早すぎても、杖の価値が下がるだけだ。このくらいが妥当だろう。
「……わかった。試験は降りる。」
一人の魔道士が試験を降りた。
「『赤鷲』や『千変』の魔法を間近に見てる。あんたらじゃまだ、あのレベルには無理だ。何より、いまの『氷鬼』、さんの魔法に1人で匹敵できるというならこのまま進めばいいさ。いま、なにも手に入れずにいつかくる重圧に耐えるか。一瞬の恥をしのんで、新しい杖を掴むか。最後のチャンスだ。」
「わ、わたしも」
「あたしも」
次々と提案を受けいれていくなか、残るものもいた。
一人眼帯をした魔道士だけがそこに立ち、俺を見ていた。
「きさま、金で私たちを買収しようというのか!」
「ああ」
「腐ってやがる!反吐が出る!私は認めない。あんたも、あんたの後ろの女も」
まぁ、仕方ないか。
「穏便に済むならそれにこしたことはないんだ。あんたはなんのためにNo.を取りたいんだ」
「……あたしの夢のためだ」
「……そうか。だったらどうする」
「あんたをぶっ倒して、後ろの女もぶっ倒す」
彼女は杖を抜く。
「どうなってもしらねーからな」
「金をチラつかせて試験を冒涜する貴様に、私が負けるはずがない!!うがて!!『硬岩弾』!!」
彼女が杖を振るった先の地面がせり上がり、巨大な砲身を作る。
「ぶっ潰れな!!」
杖の指揮にあわせて、土で出来た大きな砲弾が発射される。
「…よけるわけには」
後ろのガブコをちらりと見た。
「はぁ、はぁ、あっしは気にせずに」
「……いかねーよな」
杖を抜く。この杖はまだ未知数。だが、だからといって使わない訳にはいかない。
「豊穣の女神よ!!大地に眠りし木々の芽で!!我の敵を絡めとれ!!おとめ座!!『蔓蔓網壁』」
おとめ座の逸話は複数存在している。対象となっている女神も何体かいる。故にその能力も複数。飛んできた巨石を足元から伸びたつるが絡めとる。大地の神の伝承を引用した。
「上級魔法か……デカいのがダメなら、削れ!土塊連弾!」
小さな砲門が地面から生まれ、俺に狙いを定める。
小さな礫が撃ち込まれる。
「水流の女神よ!!そのおおらかな流れを持って、我らを守れ!水瓶座!!『水琉球』」
水が杖先から溢れ出て、俺とガブコを包む。目の前の水面が激しく揺れるが、中まで攻撃が届くことはなかった。
「わかったか。あんたじゃ、俺には敵わない。」
「舐めるな!!あたしには、ゴーレムが!!」
魔力を練り上げる彼女に向けて、それよりも早く杖を構える。
「杖を射抜け!!射手座!!『稲妻射線』」




