ケツと誤解乱れて
「こ、このクソ孫!なぜ出てきた。地下室にでも隠れておけば」
「クソジジイ?!ときめいたってジジイ…いい趣味してんな」
チラッと、大男の方を見やる。ガタイのいい筋肉。磨きあげられた頭。ロープに繋がれるじーさんの姿。
「な、なるほど、お幸せに」
「あたしは認めないぞ!ばーちゃんがなんて言うか」
「まて、何を誤解しておる!ガキども」
アンさんの肩にそっと手を置き、俺は首を横に振る。
「認めてやろう…家族、なんだろ?」
「くっ…」
「いや、まて!アホンダラ!変に納得すんじゃねぇ!」
「ジジイ、気持ちは嬉しいが、俺は」
大男はぽっと、頬を赤らめる。
「やめんか!!愛想つかせて、工房を出ていくと思ったんじゃ!こやつらに連行されるのは、わかっとったが!下手に書き置きのこすと、処分されかねんからな!」
「照れ隠しかな?」
「事実じゃ!アホンダラ!」
「んなもん、分かるか、クソジジイ!」
この小童、話をややこしくしおってからに!釜茹でにしてやろうか!じゃが、なんじゃこいつ。見慣れない服装。黒い布地に金のボタン。こんな客はいない。なにより、この声の量。杖を何本持っておるんじゃ?金持ちなのか?大金持ちなのか?
「いいか!クソジジイ!あたしは杖職人だ。あんたの後を継ぐのはな!あたしだ!!てめぇがくたばったあとの仕事場なくなると困るんだよ」
「おいおい言い過ぎだろ。さっきまで、工房やじーさんへの熱い思いを語りながらわんわん泣いてただろ」
「おぃいいい!今それをいうな!てめぇ!」
耳まで真っ赤になった彼女をウンウンとうなづきながら笑いかける。
「良かったな!じーさんが無事で」
「ま、まぁな」
「さて、帰るか」
「ちょっと待て、てめぇ、さっきの魔法なんだ?見たことも聞いたこともねぇ。」
「…だろうね。あたしも使ったのは、ついさっきがはじめてだ」
「それにガキ、てめぇの面知ってるぜ?杖職人だな。ようやく会えたぜ。つうことはよう、その杖はよぅ。」
「俺が出した杖だ」
「くっくっく!はーはっは!!今日のオレは最高についてるぜ。2本目が手に入るんだからよ!」
グイッと縄を引っ張る。
「こっちには人質のジジイがいるんだ。おとなしくその杖をよこしな」
「…ばーか!誰がやっかよ」
じじいの声が声色が突然変化した。するとつないでいたロープが、するりと地面に落ちた。
「オラァ!!」
「?!誰だ貴様!!」
切り上げた鎌がきらりと光る。
駅の中でガッツポーズをカリンは決めた。
「もうあんたの思いどおりにならないからな!」
「カリンの見た目を変える呪文でカマちゃんを繋がれたじーさんの姿に変える。あいつらがもちゃもちゃやってるすきに、更に変身魔法の上に迷彩魔法をかけて、近づき入れ替わる。んで」
「わしが区長の伝達魔法であの鎌の嬢ちゃんに声をあてる。か、よく考えたな、あんたら」
「あとは頼んだよ」
窓の外の少年を見つめる。きっと、あんたなら、やってくれるでしょ?
「はっどうやら運がいいのは、あたしらの方だな」
「うぉおおお!鎌女!!」
突如現れた女に、黒い杖を構える。
「あー、安心しろ。今は味方だ。かりんから色々聞いたから、安心しな。あと、かりんから伝言だ。あとで殺す」
「えっ」
「だから、ちょっとでもあたしを見捨てた罰を、刑を軽くしたいなら、そいつをぶっ飛ばしてこい。だとよ」
「ひっ!が、頑張らせていただきます」
「…おい、お前ら。こんだけいて、誰1人気づかなかったのか?」
彼らは知る由もなかったが、姉と修行したカリンは見た目を変える魔法を応用したこの迷彩魔法は、導きの杖の力もあり、1級クラスの魔法のレベルに達していた。見た目に加え、気配や質量さえも誤認させれるほどに成長していたのだ。
「なぁ、おい!」
杖で1人に撃ち込み、男は吠えた。
「あいつらぶっ殺して、杖を持ってこい!じゃなきゃ、こいつをぶち込む。」