おれのケツともう1人の杖職人3
「は?!ちょ、待ってくれ。くっつかないのか?」
「くっつく?杖を融合するようなことは、クソジジイならできたかもしれないが、生憎今居なくてな」
アンはやれやれと肩を竦めた。
「じゃ、じゃあそのおじいさんに頼んでくれよ」
「今なにしてるかわからんのさ。これ見てみ」
彼女がテーブルの爪やら、小瓶やらを押しのけると
ワシ、ときめいた!旅に出る!またな!クソ孫!
と、墨字で書かれていた。ときめいたって。じいさん幾つだよ。まてまて、旅に出る?!
「なっ…」
「腹立つだろ?ばあちゃんが見たらなんて言うか。くっ、ばあちゃん…」
憂いを帯びた瞳で遠くを見つめる。目線の先には写真が置いてある。
「あ、おばあさんはもう他界されて…」
「クソジジイを八つ裂きにするときは、わたしもやるからね」
「あ、あの、おばあさん、生きてるからね」
ご存命なのか。
「じゃ、じゃあ、俺の杖は」
「まぁ、形を整えてやるよ。てか、無理やりくっつけようとしてるみたいだが、それが本来の形だぜ。こいつは元々2本の杖だぞ。杖の色がここから違うだろ」
彼女はそういうと杖の柄をなぞる。
たしかにうっすらと色がちがう。
「杖がいきなり剥がれたから杖もおどろいて、気絶してんだよ。きちんと起こしてやれば使えるはずだぜ」
「まるで、杖が意志を持ってるみたいないいかただな」
「何言ってやがる。杖の成り立ちを知ってれば、当然わかるだろ?」
「この子、異世界人」
「あぁなるほどな。じゃあ、知らないわな」
「なんだよ。教えてくれよ」
杖のことは知りたい。もしかしたら、自分のしりについても何か分かるかもしれない。
「黒い杖は果てしない絶望を呼び、白き杖は終わりのない希望を魅せる。人の力を超えし杖は災いをもたらした。異界の星の12の魔法の少女たちは、12の杖に姿を変える。2つの杖を封じる鍵となる。2つの杖は神の手に。杖の守り手は巫女の四肢に。使うな。探すな。2つの杖を。道標なき人の子よ闇と光の狭間を彷徨える。もはや秩序は失われた。うんぬんかんぬん。まぁ、地域で伝承やら解釈は違うみたいだが。杖ってのは元々おまえら異世界人の成れの果てだ。」
「なっ……」
「こ、この世界の子どもならみんな知ってる」
「まぁ、あくまでそれはおとぎ話で、いまは魔力で育てた木に魔術文字を刻んで使うのが一般的だから、安心しな。それでも、意思は宿る。大事に使ってりゃな。あたしはその声が聞こえるのさ」
彼女はそういうとにかっと笑った。
「そ、そっかぁ」
安心?できねーよ。
自分のしりに12人の人間がいるのか?
いや、いま、いったいおれは12本の杖のうち何本杖を持ってるんだ。
「な、なぁ。その12本の杖っていまは?」
「さてな。うちが持ってたのは、射手座だったぜ。あのチンピラどもの親玉に奪われてしまったが…」
「天上の杖がここに?おれの水瓶座がまともな状態ならな」
「ん?なんだ?お前持ってんじゃねぇか。まともな杖。そいつは飾りか?」
「え?」
「その黒い杖だよっ」
ひょいと杖を取り上げる。職人魂が騒ぐのか。まじまじと杖を観察し始めた。
「へ~珍しいな。あたしが元の素材が分からねぇなんて。木材は木材でできてるんだろうが。魔術文字がねーとこ見ると、かなり古いつえだな。ジジイの杖なら、印があるだろうし。誰かから譲られたもんか?」
「あぁ、神様に引き抜かれ勇者に返されたから、どうゆうもんかは分からないんだ」
アンは訝しんだ。当然だろうな。神様だの勇者だの。
「勇者、ねぇ。誰だよ。あの女たらしを真似てるやつは」
意外な反応だった。
「勇者を知ってんのか?」
「あぁ。勇者が戦って魔王と相討ち。数年前のはなしだろうが」
じゃあ、おれは幽霊にでも会ったのだろうか。
「この杖はどんな魔法が使えるんだ?結構重いな。試していいか?」
言うが早いが、魔力を込め始め、天井にかざす。煌びやかな光がアンから放たれ、杖に触れる。
「あ、ちょ」
「減るもんじゃねーんだからいいだろ?んぉ?!」
「あぶないっ!」
かざしていた杖が急に重くなり、バランスを崩したアンが倒れる。
「んだ?おっっも!」
やっぱり。杖を手にして、自分には重みを感じない。この杖は魔力を吸って重くなる。だから、異世界人のおれは持つことができるのか。
「なぁ、重力操る杖なんか12の杖中にあるのか?」
「いてて、聞いた事ねーな。てか、こっちの人間は大なり小なり魔力を帯びてるからな。使いこなせる人間なんかいないっ!?!」
突如、衝撃が作業場を揺らす。
天井からパラパラと木くずが落ちてくる。
「なっ!」
抉られたような穴が開けられていた。
再び衝撃があり、魔法弾と思われる光が屋根をつらぬく。
「…クソジジイの工房を…!さっきのやつらか?」
アンは怒りながら、外へ出る。
「どこのどいつだ!くそやろう!」
だが、周囲には人影は見えない。
「ん?」
その原因は直ぐに明らかになった。はるか遠方より魔法弾が飛んできて、再度工房に直撃したのだ
「なぁ、アンさん。あんたのやってた魔法で、あの攻撃止めれないのか?」
「無理だな。わたしの声が聞こえる範囲じゃないと。ココネ、あんたはどうだい?」
「む、無理。『声』も聞こえない」
「間違いないな、この距離で魔弾撃てるなんざ、射手座の杖だ。なんだか最近話題の杖職人捕まえるかなんかで、王都の外に出てたはずだろ。なんで、ウチを」
あ、おれのせいなんかな。これ。やば。