おれのケツともう1人の杖職人
22区、区をまたぐには特別な許可がいるようで、門番に何やら手形を見せていた。
門をくぐると、24区とはまた違った趣で、どこか日本の城下町のような雰囲気が漂っていた。一軒一軒が職人の工房になっており、金属同士がぶつかり合う音がリズムよく響く、職人たちの喧騒の中を進んでいく。
「よぅ、あんちゃん、見ねぇ顔だな」
小柄な老人が話しかけてきた。小柄とはいえ、腕はたくましく筋肉に包まれて太い血管が浮き出ていた。
「あ、はい、直してほしいもんがあって」
「ほぅ!だったらうちに来な!間もなく三ツ星間違いなしのガンド工房へ」
豪快に笑いながら、ばしばしと背中を叩く。
「あ、いや」
「安くしとくぞ」
「お、ありがたい提案だな!どうする?ここで頼むか?」
「い、いえ」
「なんだい、なんだい、つれねぇな。ねーちゃん。ちなみに何を直すんだ?剣か?斧か?」
「あ、いえ、魔法のつえで」
その瞬間、俺を叩く手が止まり、その爺さんは冷たく言い放った。
「ち、冷やかしならとっとと帰れ、帰れ」
そういうと職人たちはそれぞれの工房へ足早に去っていき、ドアをしめた。
「えっとここの職人さんたちは魔法の杖をみんなが使うようになって、剣や斧で稼げなかったりした人が多いから、、」
「ああ、そう、、」
早く言ってほしかったな。
「あ、あそこ」
彼女が指を指したのは賑わっていた職人街から少し離れた場所にぽつんと建てられたみすぼらしい掘っ建て小屋。かろうじて看板に「ぐらんぱの工房」と墨で殴り書かれていた。
「えぇ…」
声が引き気味なのは、そのみすぼらしい姿からではない。その小屋をぐるりと魔道士が取り囲み、いま、まさに、火を放とうとしているところだった。
「ちょ、あそこに行くのか?」
「あ、はい」
「まさに店が潰れそうなんだけど色々な意味で」
魔道士たちは何やら叫んでいる。
「さっさと、他の天上の杖を持ってこい」
「射手座は本物だった。杖職人のお前よりも俺たちが上手く使ってやるよ」
杖職人が出てきたら狙い撃ちするつもりだ。
「なんて、卑怯な。じーさん相手にあんな人数で」
ぶん殴ろうとする俺を召喚士の少女は腕を掴んで制止する。
「だ…大丈夫」
その時、工房の扉が開く。
「ガタガタガタガタうっせーよ!こちとら、仕事が溜まってんだよ!ボケがっ!作業に集中できねーだろ!」
ガラの悪い言葉を耳を小指で栓をしながら、ラフな格好の女が出てきた。ラフというか…下着?!
「はっ!出てきやがったな!馬鹿が!炎弾」
「あ?『固定』!!」
彼女が短く叫ぶと、魔道士たちの魔法は不発に終わった。
「え?」
「な、なんで?」
驚く魔道士たちに向けて、言い放つ。
「あ~嫌だ!嫌だ!クソジジイめ!だから、区長会の依頼なんてやめときゃ良かったのに!大事な杖を奪われて!挙句命狙われたら、たまんねーな!『クビ(フャイヤネック)』!!!」
彼女が再度言い放つと、杖はボロボロと崩れ始めた。
「ひ、ひぃ」
杖を失ったとたん情けない顔になる魔道士たちをその女は豪快に笑い飛ばす。
「ギャッハッハ!!誰がお前らの杖を作ったと思ってんだ!お前らみたいなチンピラに予防策なしに武器をわたすわけないだろうが!あ?」
ガラわっる。