黒犬
「…伝えたぜ」
「……ありがとう、黒犬」
「……まったく、カラスウリ、わざわざなんで、赤鷲と名乗って伝えた」
黒犬が根城にしている、廃虚と化したBARの一室、包帯を巻かれたたまずさがソファを使ってこしらえたベットで身体を休めていた。
「…さちよは、連絡とかしないで、ふらっていなくなっちゃうから。でも、大丈夫でしょう。彼女なら」
「それこそ、妹に声でも聞かせてやれば、いいだろ?」
「あの子心配して、こっちにきちゃうでしょ?」
苦笑いをした。
「……優しい子なんだな」
「…そうね。わたしにはもったいないくらい」
黒犬は窓際でタバコに火をつける。
「まったくわからねーもんだな『裏切りのカラスウリ』なんて言われていたおまえが、誰かを信じるような物言いをするなんてな。」
「あらあら。わたしこそ驚いているわよ黒犬」
「……あ?」
「あんなに可愛かったあなたが、泣く子も黙る情報屋の元締めなんて」
「……るせぃっ」
「あらあら、顔真っ赤にしちゃって」
「はぁ、おい、ドアの前で立ち聞きしてる奴がいるんだ。やめろ。おい、入れ」
ドアをノックする音がし、猫耳の女の子が1人入ってきた。
「…ごめんにゃ立ち聞きするつもりはなかったにゃ…具合はどうにゃ……?」
そういう彼女も、全身に手当の跡があり、生傷が痛々しかった。申し訳なさそうに耳もしっぽも垂れていた。
「今回の件、ほんとにごめんなさいにゃ」
「あらあら、仕方ないわよ。利用されてしまっただけよ。あなたも傷は大丈夫?」
「……ありがとうにゃ」
「ったく。今回は悪かったな。うちのもんが迷惑かけた。情報屋が利用されるなんて、あっちゃならねぇ」
黒犬が頭を下げた。その様子を驚いた顔をして見た黒猫もあわてて頭を下げた。
「杖のボーズには、ああ言ったが、金は取らねーし。治療は、十分とはいえねーけど、できることはするつもりだ。ほかにも、必要なことがあれば、言ってくれ」
「あの杖も天上の杖の1本…。一体何本の杖が世の中に出回ってるのかしら。それも悪意を持つ者ばかり」
「ただでさえ異世界人と杖と聞くと嫌な思い出が思い出されるのにな。杖にとっちゃあ、強い想いがあれば、そこに善意も悪意も関係ないのさ。1000本の杖の中の封印されし12本の杖…か」
「なんですかにゃ、それ」
「数年前、勇者を名乗る異世界人の一行に金髪の少女がいてな。たくさんの杖を使いこなす魔法少女だった。彼女はスカートの中から千差万別様々な杖を使い捨てながら戦ったらしい」
「杖を使い捨てる?」
「魔法には、低級から中級、上級までランクがあるが、それ以上の魔法もある。杖が崩壊しちまうくらいの魔法、滅級さ。杖の限界を超えちまうから、魔法の杖が貴重になった今のこの時代にゃ、そぐわないがな。噂じゃ、氷豹の学者連中が研究してるらしいが。他の情報屋がそれ調べようとして消された。」
「際限なく、魔法の杖を出せるから、使い捨てても問題ないの。滅級魔法がうち放題。勇者の一行はデタラメな力の持ち主ばかりだけど、金髪の魔法少女は神の魔法少女っていわれるくらい特に有名だったわね。今名のあるNo.持ちの魔法少女達が使っている杖は彼女の使い捨てた杖の中で運良く壊れなかった杖を使ってるケースも多いわ。滅級に耐えると杖は格をひとつ上げる。その中でも、強力で、彼女が好んで使った異世界の星座の名前を冠する杖、それが天上の杖」
「あのボーズが、神の魔法少女の再来となるか。世界中が注目してるぜ。下手すりゃ魔法大戦がまた始まってしまう。赤鷲が飛び回るわけだ」
「……黒犬、あなた、さちよと仲直りするつもりはない?」
「……ねぇな。それが望みか?」
黒犬は静かに言った。たまずさは静かに首を振った
「そう、あの子はいつも言葉が足りないから。分かったわ。だたら、良かったら、わたしの妹と弟を助けてあげて」
「…妹はともかく…弟?」
「あらあら、あの杖の男の子はもう私の家族ですもの。この世界のことをまったく知らない異世界の男の子。まだこの世界の仕組みをしらない無知な男の子。彼を助けてあげて」
「…まったく、お前は変わったな」
「あらあら、あなただって」
「分かった。情報屋として、中立という立場は崩せないが、あいつらが必要な時には我々が力を貸そう」
「ありがとう」
彼女は窓の外に視線を移す。
「2人とも無事帰ってきてね」




