100人の魔法少女にケツを狙われている(2人目)
アナホリーダ大陸は、森林地帯、砂漠地帯、火山地帯、寒冷地帯があり、その中をいくつかの国が点在している。ケモミーミ共和国、メイドジッコ帝国、そして、物語の舞台となっているフェチスーゲ王国である。現在、主人公たちがいるのは、フェチスーゲ大陸の森林地帯で、大陸の東の端っこにいる。ほかにも国は点在しているが、アナホリーダの三大国として名高いのはこの三国である。
3年前の異世界人による戦争によって、当時あった国の80パーセントが滅びた中、フェチスーゲ王国の王都は無傷で生き残り、戦争が終わるやいなや勢力を一気に拡大した。国王である、ム=ネヨリ=シリハ5世は早くより魔道士に目をつけ、当時世界に散らばっていた魔法少女100人のうち50人近くを抱え、勇者が異世界に帰ったあと、直ぐに魔法によって、いくつかの街をつくり、領主を任につかせ、支配させた。その領主たちのうち優秀なものを起用し、王都で起用しているのが、区長と呼ばれる役職である。
「どない思われますか?」
スーツ姿の長身の女性が問いかける。艶やかな黒髪は長く伸ばし、腰の辺りまである。ギザギザとした笑みを口に浮かべ飄々と語るその口ぶりは、この場では異質だった。王都の臨時の区長会。議事堂の中央には、高さ3メートルほどの魔鏡が置いてある。魔鏡に映るのは、先日現れた謎の男。領主の処分もそうだが、領主を圧倒的な強さで倒した男に話題が集まっていた。
「どうもこうも、脅威じゃないか。あれだけの杖を操る魔道士は見たことがない」
「やつはどこの国に所属している。この国はこれから攻撃されるのか」
「仲間はいるのか?いたとしたらどのくらい居るのだ。騎士隊は対応できるのか」
区長たちは口々に不安げに話し始める。だが女区長はちがった。ニヒルに笑いながら、議事堂の中央に歩みを進める。
「いやいや、チャンスですよ。みなさん」
まったく、この爺さんたちはまるでわかってない。
「あれはただ魔力を飛ばしとるだけですわ。だけど、成長するん待ってたら、」
口を大きくあけて、
「ガブリ!!っちゅうわけですわ!」
がたっと最前列の中年太りの区長が椅子から転げた。
「すません。すません。せやさかい、対抗するために…」
少しもったいぶってから、胸に手を当てる。
「魔法少女の指揮権をわたしにください」
その後の反応は予定通りだった。非難する声が飛び交う。
「な、馬鹿なことをぬかすな!」
「きさま、今までなにをしてきたかわかっているのか」
「貴様は既にひとり魔法少女を抱えてる!さらに何をもとめるのか!!」
そう、変化を嫌い、バランスが崩れることを恐れる。分かりやすい。優秀な者が区長になれる。だが、あくまでそれは領主としてだ。
「だったら、3年前の悲劇をまちますか?」
「ぐっ」
「私は3年前前線で戦っていた経験がありまっせ。オタクらはどうや?」
区長の中でも、そういった連中がいない。あの謎の男が現れて、王と話をしている今がチャンス。
「ぬぅ、いいだろう」
「おおきに!ほんじゃあ!みんなであの男の子の杖引き抜きにいきましょか!」
区長会はお開きになった。王都議事堂を後にした女区長は自分の腰あたりの高さにいる姉と話をする。陶器でできてるかのような艶やかな肌、白い髪。特徴的な瞳は吸い込まれるように透明で淡い青色をしていた。
「……どう?」
「まぁ、及第点やな。魔法少女5人に魔道士30人。じいさんたちにしては奮発したほうやな」
「…きれいな、心の子がいいな」
2人は魔法少女たちのいる寮へと向かう。
ネコミーミ共和国 貧困街。ネコミーミ共和国はフェチスーゲ王国とは反対に異世界人の戦争に大きく巻き込まれた国である。アナホリーダ大陸の砂漠地帯の入口にある獣人の国だ。魔法よりも格闘を得意としている。そのため、傭兵として雇われることも多く、世界各地で彼ら獣人を見かける。特に3年前の戦いでは、多くの戦士たちが戦いに向い、その影響でたくさんの戦争孤児や戦火の爪痕が各地に残っている。
特に貧困街は治安が悪く、現地の人間でさえ近寄らないのだ。
そこの爆撃を受けた元BAR『BLACKWolf』の店内。割れた窓から中が見える。ソファーに1人若い女が寝そべり、カウンターでは2人の少女が言い争っていた。
「ねーねー『黒犬』さーん、あの男の子狩りにいきましょーよー」
甘えるような声でネコミミの少女が喋りかけると
「馬鹿がっあんっなもん『黒犬さん』にゃっ、いらねっての、んだ、その声気持ちわりぃ」
パーカーを着たチロチロと舌をだす少女が噛み付くように言った。
「あー?」
「あっ?」
2人争う声が響く。
「……やめろ。『黒猫』『黒蜥蜴』。狩るのはいまじゃねぇ。王都に来てからだ。わたしはあのガキより、『赤鷲』に興味がある。……早く来い『赤鷲』…叩きのめす」
メイドジッコ帝国。帝王サトウトシオ=マチガーエタ女王が統べる。小国を次々に侵略し併合している。
「今月はふたつの国が我が属国に」
「まだじゃ、欲しい!欲しい!まだたりぬ!国はもうよい、次は杖じゃ、将軍を呼べ!わらわにふさわしい杖じゃ。あの杖が、ほしい」
「仰せのままに、陛下」
「おい、道化!何か面白い話を聞かせるのじゃ」
「はい、女王陛下、でしたら、『ピノキオ』と言う話をお聞かせいたしましょう」
折り重なった人の山の上。返り血に染まった男がほくそ笑む。
「……てめぇ、はぁ、はぁ、何もんだ」
「あ?見てわかるだろ?勇者だよ。ギルドも堕ちたな。この程度でBランク。たかが山賊100人ちょっと。来てもらうぞ」
街に戻り、ギルドに山賊の頭に報告をする。
「……はぁ、はぁ、」
「よくやった!旅のもの!だが、申し訳ない金は払えない」
「あ~ギルド長さんよぉ……嘘ぉ。ついたのか?」
「いや、こんなに簡単にいくとは、約束の額の半分は」
「……そういやぁ、あんたらも懸賞金掛けられてるのは知ってるか?」
「……皆!やつをころせ」
「さぁ、ヒーロー、おまえは天上の杖をどう使う?誰に渡す?何本壊す?俺が魔剣を取り戻す前に、死んでくれるなよ?」
月光の下、壊滅したギルドを後に男はつぶやく
大陸中が動き出す
しばらくプロローグを伸ばしていきます