おれのケツは100人の魔法少女に狙われている①
「お前も早く逃げろ。お姉さんが待ってるぞ」
かりんの顔がほっと安堵の表情に変わった。
「姉様!姉様!ありがとう!!ありがとう!!…逃げろってあんたはどうすんのよ」
「あいつから杖を取り上げる」
「あんな気持ち悪い見た目してるけど、めちゃくちゃよ。あなた魔力が分からないからって」
「でも、あの杖、昔俺のケツから出たものなんだ。」
「そんな…あいつ、うんこ持ってんだ」
「違うっての!」
「自分から出したものの後始末はきちんとやらねーと」
「アクエリアスだけに水に流すのね!」
「…そうだな」
ちくしょう。ちょっと上手いと思ってしまった。
「…協力するわ!」
「おま、危ないの分かってんだろ?お姉さん助けたんだ。あとは脱出するだけだろ」
「わたしの願いはね、家にかえることなの」
「ああ!だったら尚更!」
「あったかい暖炉があって、村のみんながいて、大好きな姉様がいて、わたしがいて… そして、あんたがいるの」
「なっ…」
「たしかに姉様にくっつき過ぎたら、消し炭にしようと思わなくもなくはなくないけど」
だいぶ、こいつとの関係も旅を通じて、変わってきた。いや、ないな!消し炭にされるやん。
「だけどね、あんたはわたしの家族よ」
まっすぐ彼女は俺を見て言った。毛嫌いするわけではない。敵意がある訳でも、蔑みがあるわけでもなく。1人の人間として見てくれてる。
「姉様がいて、あんたがいて、わたしがいる、そんな家にわたしが帰るの。誰1人欠けてはダメ。あんたが、異世界人で帰るとこないんなら、わたしたちがあんたの帰る場所よ!」
胸のうちに熱いものが込み上げてくるのを感じる。
おれは1人だった。ここでも、日本でも、だけど、俺。この世界にいてもいいのかな。
「?…あんた泣いてるの?」
ちがうわい、ちょっと汗がしみただけじゃい。
「…泣いてない。…あぁ、帰るぞ」
扉の向こうで領主の雄叫びが聞こえる。不意に声がして振り返る。
「よぉ、お前ら、借り作っちまったな」
「もしかしていい雰囲気だったっすか?」
「さちよさん、ガブこ!体は大丈夫なのか?ほかの人たちは」
「本調子じゃねーが。あたしの魔法で回復力を底上げした」
「あーしも、まだ少しなら戦えるっすよ。話の通じる部下たちに任せてきたっす!」
「あの領主から杖奪うんなら協力するぜ。あたしは召喚をさせたくないからな」
「あーしも退職金が、あんな火の玉なんは嫌っす。けつ毛までむしり取ってやるっす」
2人の後ろにもう1人いた。
「…かりん」
「姉様あ!姉様あ!」
「良かった…無事で」
「姉様の、姉様の、」
「…カラスウリ、お前、杖ないだろ。」
「ええ、さちよ。あなたに心配されるまでもないわ。杖がなくても、できることはあるもの。今まで騙してくれたお礼をしないとね。あのハゲデブだるま!」
「で?えろ助。いや、大将。どうすんだ」
「耳を貸して」
最後の戦いだ。
「くそぅ!魔法少女どもが逃げてやがる。」
どいつもこいつもこけにしやがって。
「お~~~い領主さま~~~!」
「貴様は魔道砲で粉々になったはず」
「踏み潰しちゃうぞ!」
巨大な姿になったカリンが領主に挑発をかける。
かりんは作戦を思い出す。
「いくら、魔力が大量だとしても、無限ってわけではないんだろ?」
「ああ、どんな化け物でも使えば減っていく」
「かりんの魔法で相手にできるだけ、魔道砲を撃たせよう。あとは異世界人召喚の儀式をさせる」
「できるだけ魔力を使わせて、意識を割いて、その隙を魔力のない俺が杖を奪う。」
「さて、師匠!あーしたちも負けては居られないっす」
「任せろ、生憎、魔瓶は使い切っちまったからな。お前との合わせ技だ」
ガブコの肩にさちよが手を当てて魔力を込める。
「『赫』× 『赫』『四獣奏』!!」
さちよの魔力が流れ込み、ガブコの髪色と氷の刃が赤く染まる。
「『氷牙赫刃』!!行くっすよ!!」
「ガブコの氷牙の性能と、ガブコの動体視力を2倍にした。行ってきな、我が弟子…」
さちよはばたりと倒れた。魔力を使い果たしたのだ。
「あっしにまかせるっす。師匠!!優秀な金づる、いや、部下の落とし前つけさせてやるっす」
彼女は魔力を四肢に集中させた。戦闘中、魔力を全身に纏い、ダメージを軽減するのが定石だ。だが、彼女は師匠の残してくれた眼を信じ、機動力と攻撃力に全てを振ったのだ。
氷の爪が生え、さちよの赤いオーラをまとい、魔力がとぎすまされる。
「らああああああっす!!!」
彼女の赤き氷爪は魔力をも凍らせる。魔法陣の各所に赤い氷の爪痕を残す。
「なんだ?!衛兵長?なんのつもりだ」
領主が気づいた頃には魔法陣への仕込みは完了していた。
「領主!あんたみたいなケチんぼさんなんか、こちらから願い下げっす!あたしは、この魔法陣を使って異世界人を召喚するっす!」