異世界に来た俺は魔法少女100人からケツを狙われている!5
「双剣黒蛇!」
咄嗟に剣を両手で構える。うっすらと蛇が浮かび上がり、四肢と剣に巻き付く。
間一髪。
纏わせた黒蛇でなんとか攻撃を消したが、背面の大地が大きく抉れていた。
「なぁ、小僧。見えたか?俺様の攻撃が?」
「見えたさ」
「強がるなよ」
魔王の爪には血がついていた。
「ぐ」
全身に痛みが走る。天上の外套を着ていなければ、バラバラになっていただろう。
痛みが遅れてやってくる。どんな速さで切り付けられたんだ。魔法を使ったわけではない。これがやつの素の力。
「……かっちょいい爪と角しやがって」
憎まれ口を叩くのが精一杯だった。
「おっ!このセンスが分かるか!小僧!俺様の周りの奴らはその辺りが分かってねぇ!ウガウガ、フガフガ言うだけだ。どうだ!ほれ!」
角をひけらかす魔王。ポーズを色々取り出した。女体ゆえに幾分かセクシーポーズに見えなくはないが。
「どうだ?ギンガって言ったか?お前。お前が望むなら、お前も魔王軍に入らねーか?」
「は?」
その提案は予想外だった。
「か、からかうのも大概にしろ」
「からかう?何故だ。俺様は優秀な者への門戸は広いぞ?かつての魔王軍は様々な種族、性別、年齢。ごちゃまぜだったぜ。お前は強い。それだけで十分だ。たとえケツが輝いてようが。」
「うっさいわ。統率がとれないだろ。そんなんじゃ」
「ばーか。統率をとる必要がねーんだよ。俺様は」
魔王は、けたけた笑う。
「自由にすればいい。他種族を攻撃する理由なんざいくらでもあるだろう?姿形、性別、文化、価値観、所有物、生存本能、恨み。腐るほどある。お前ら人間は正義だと語るが、お前らが、こちらの世界にやって来たから、この世界は荒れたんだぜ?被害者ヅラはやめてほしーぜ」
「は……この世界、アナホリーダには、昔から人間はいたんだろ?」
「あ?知らなかったか?俺様が自警団作ったのも異世界から来たお前ら人間から仲間を守るためだったぜ。あの勇者は世界の真実とやらで頭がいっぱいだったようだが?そのシステムとやらも、人間が、我々魔力を持つものから、魔力を奪うためのもんさ。エルフもドアーフもいまじゃ細々と暮らしているようだが、昔は違った。お前ら人間がやつらの生活を奪ったんだよ」
じゃあなんだ。人間は。害悪でしかないのか。
「どうなんだ?おい。仲間になるなら、これ以上の戦闘は無意味だぞ」
「俺だって知ってるお前らがやったことを。天上の間でさまざまな種族からお前らのやったことを聞いた。あの時代は多数の種族がいた時代だった。互いに攻撃し合ったって」
「みんなやってるから、自分達も良いってか?おめでたい奴だな」
「違う。少なくとも、天上の間の魔法少女たちは、いがみあってたわけじゃない。共存共栄の道もあったはずだ。」
「共存共栄?互いに我慢するってか?嫌だね。俺様は俺様の好きにする。」
「あんただってはじめは違ったはずだ」
「…平行線になりそうだ。もったいないが、切り捨てよう」
大剣をくるくると放り投げキャッチするのを繰り返す。不気味な魔力を放っている。
「俺様の魔装は俺の魔力つまり、呪いを吸って貯める力がある。そして、この大剣は、巫女の力である星の力を宿してる。」
「だったらなんだよ」
「俺様が大地にこの剣を突き立てれば、呪いが、星中に広まり、この地は使い物にならなくなるだろうよ」
「な、」
「ほれ、ほれ、地面に刺さっちゃうぞ」
「くっ!!」
あの大剣を弾かねーと!!
「黒弓射手!!」
弓を錬成し、放つ。大剣を!
おかしい。弓を放った後に気づく。なぜ、そんな回りくどいことをする?
「はっ!」
大剣に意識を取られ過ぎた。こちらを観察するような静かな視線。先程までの、軽薄な態度はなりを潜めていた。やられた。
「ばーかっ!嘘だぜ!」
腹に蹴りが突き刺さる。
「がは」
「防御力、攻撃力、剣技、魔法、射程距離、思考傾向。ある程度、底が見えてきたなぁ。小僧、たしかに強いが、俺様相手に時間を掛けすぎだ。俺様の強みは、魔力でも、暴力でもねぇ。対応する力だ。狩った勇者の数は、10や20じゃねーんだよ」