俺のケツ! 1
少女の背中を送り出して。その背中に、彼女を重ねた。もう、逝ってしまった。二度と会えない。
俺は地獄に行くのだから。
「……………………」
上手くはいかなかったが、悔いは無い。悔いは無いが。
せめて、最後にアイツらに遺してやれるものはないか。
俺の夢はここで終わるが、せめて。
胸に手を当てる。血が流れ、鼓動が小さくなっていく。
……未だ体内で暴れ回る100人の魔法少女たちの魔力に語りかける。
「……おれは、……勇者だ。勇者だったものだ。俺が居なくなったあと、この世界を守ってくれてる、100人の魔法少女たちに、感謝と、願いをこめて、話をしたい。聞いてくれ」
瓦礫の中、言葉を紡ぐ。
感謝と謝罪を。
「…………手前勝手なことは、わかっている、、いまも戦っている、今を生きてる子どもたちに力を、、、貸して、、くれ、、、」
あぁ、これは自己満足だ。
こんなことをしても何もならないのに。
「……………………」
空に手を伸ばす。
魔王の封じられていた扉がまだなお口を開いている。
「金星(Jupiter)!火星(MARS)!豪炎斧!」
炎を纏って、燃え上がる金斧が、数本空を舞う。数は少ないが、魔力がかなり込められている。切り上げ、突き上げる。うなる熱は蛇のように絡みつく。
「っあつ!!!」
「いい加減、退け」
ぞわりとした感覚。右肩から鳩尾にかけて、嫌な感覚が残る。すると、まさにその辺りに攻撃がきた。
「これは……」
魔力を感知し、体をそらして、ぎりぎりよける。
魔王の精神に乗っ取られていた影響か。
奴の狙っている方向が何となくわかる上に、今まで鍛え上げた魔力感知によって、なんとか生き延びている。
魔王と対峙して10分。
「まだ、数分しか経ってないのか」
「…いや、十分だろう…認めようか、お前を俺様の敵と」
これは、魔王と敵対した人間の中で、勇者を除いた記録で最長である。時間が経つに連れ、魔王が思考を切り替えなくなってきた。巫女の体をものにし始めたのだ。
「まだ、俺様の力を味わい尽くしてないようだ」
「はぁ、はぁ、はぁ、もう、腹いっぱいだよ、馬鹿野郎」
天上の杖のない今、魔装をしてはすぐにバテてしまう。俺がいまできるのは、尻の光をつかって、魔王の攻撃をしのぐこと。
かつての敵のために時間を稼ぐことで別れが告げれるように。情けをかける相手かは分からなかったが。それに対峙しているこいつに対しても想いがないわけではない。
「敵じゃなくて、お友達にはなれないもんかな」
「は?……頭が回ってないのか?敵対即ち、死刑だ。」
「もうちょい長生きしたかったな……」
奴の手足に魔力が宿る。こりゃ、俺の負けだな。
「なーに情けないこと考えてんのよ、あんたは!勝つわよ!!光の妖精さん、力を……!!……いや!私の魔法で!!はぁあああつ!!」
光の玉を魔王に発射するも、避けられることも無く、ぶちあたる。光は砕けるが、魔王は顔色ひとつ変えなかった。カリンの方を見向きもしない。
「あり?」
いそいそとカリンが駆け寄ってくる。
「なぁ、かりん、あいつは話せたか?神様と」
「まぁ、話せたみたいよ。私は、妖精さんに身体を貸したからよく分からないけど。あんたもお節介というか、なんというか。」
呆れながらカリンは言った。
「そうか、なら良かった。」
「勝ち筋はありそうなの?」
「さてね。あの空にある門に帰そうかと思ったんだけど、かりん、俺さぁ、あっこから杖引っこ抜いてくるから、魔王の足止めお願いできるか?」
「バカ言わないでよ!0.1秒も保つわけないじゃない」
「だよな」
どうにかして、杖を取り戻さないと2人仲良く一瞬で終わる。
「ガッハッハッ!辛気臭い顔すんじゃねーよ!!笑え!笑え!!」
「そうっすよ!まだ、終わりじゃないっすよ!」
振り向くと、2人の魔法少女が腕組みしてそこに立っていたのだ。