エピローグ
帝都のぞうさん砲の発射スイッチを握りしめ、第三王女は固まっていた。
「す、すごいですね。爺やさえ寄せ付けなかったあの化け物を」
「はぁ、はぁ、ま、まぁね」
やべぇ、ノリと勢いで魔力込めてぶっぱなしちまったけど、死んでないわよね。しゃがみこんで杖で勇者をつんつんとつつく。反応がない。カリンは冷や汗をながす。
「わたしも、撃てるようになるでしょうか。爺やが目を覚ましたら、早速教えて貰いましょう」
第三王女は爺やの応急処置をしていた。
「ねぇ、第三王女様。まだ、王都にぞうさん砲とやらをうちこむつもり?」
恐る恐る聞いた。包帯を巻いていた彼女の手が止まる。
「……」
「たくさんの人が死ぬかもしれないのよ」
「…そうですね。たくさんの人が死ぬかもしれません。ですが、我が国は魔王の寵愛を受け、未来永劫栄えるのです。」
「じ、自分たちさえ助かればいいの?」
「はい」
「はいってあんた。そんな」
「あなたは人類が滅びていいのですか?最終的に魔族と人間が協力しても倒せなかった魔王。それに対抗しようとしても勝ち目はないですよ。」
彼女は立ち上がり、懐からボタンを取り出す。恐らく発射装置。
「そこに転がっている勇者もどき様は弱く、魔王を封印する役目の巫女様はいない。あなた方王都の魔法少女たちはご存知ないかもしれませんが、すでに魔王復活は近づいています。もう抵抗は無意味。抵抗したらどんな非道が待っているか知らないあなたではないでしょう。」
彼女はおもむろに自身のドレスを破く。若い彼女の腹にはいくつもの火傷や刀傷があった。
「獅子王が来なければ、私たちは死よりも恐ろしいめにあっていた。1部の強者の庇護の元でか細く生きるしかないのです。」
魔王がいた時代の恐怖。
「…だからと言って、希望を捨てて、媚びていきるなんて」
「今更、止まれないのですよ。白仮面の方々に各領地は掌握されつつある。さきほど、最強の魔道士である獅子王、父が負けましたわ。勇者はおらず強者もいない。頼りになるはずの2代目の勇者は暴走する始末。どう希望を持てと?」
彼女は仮面を取り出し、身につける。『漆』の文字が浮かび上がる。
「待っ…」
「…ぞうさん砲発射!!!」
彼女はボタンを押した。
地を揺らす轟音とともに砲身が伸びる。
「くっ!!」
ぱすん
気の抜けた音がして、黒い煙が立ち上る。
「なっ…なにごとですか?」
何度もボタンを押すも反応は無かった。
「なっはははは!!無駄だよ!無駄さ!魔力は全て吸わせてもらったからな!俺様の手の中さ」
現れた白い仮面の男。片腕の氷は既に半身を飲み込みつつあったが、彼は意に返さない。黒いマントをたなびかせ、背中に背負った大剣を1振り。
ぞうさん砲は根元から切断された。
「ふぁ、壱様!これはいったい!わたくしは貴方様の命に従って」
「あー、まさかほんとにぶっ飛ばそうとするバカがいるとはな」
壱は嘲笑うかのように言った。
「ば、ばか?!」
「指令は頭の軽そうな馬鹿どもに出したさ。お前だけじゃない。ある程度の権力と創造力、魔力があるやつにそれぞれに声を掛けていた。俺様のプランのひとつ。まさかほんとに実行するマジモンの馬鹿がいるとはな。各地の信者どもが貯めた魔力を少しずつ頂くつもりだったが、1国で足りるとは。それに、天上の杖のおまけ付きだ。『転移』だ。ばーか!」
壱が杖を振るうと第三王女の手から杖が消える。
彼の手には、天秤座と山羊座の杖が握られていた。
「よっぽどショックだったか?杖を簡単に奪われるなんて。はっははー!あとは」
茫然自失してる第三王女にいてこちらを敵視している小娘。たしか『千変』の妹か。巫女の才能を少し持っているようだが黄金の巫女ほどじゃあない。
ほっておいていいだろう。
「…なんなのよあいつは」
カリンは震えが止まらなかった。壱の魔力の巨大さと禍々しさが以前あった時の比ではなかった。
「よぁ、英雄、お目覚めの時間だぜ!」
うつ伏せで倒れ込む勇者を片手で持ち上げる。
「ぐっ、」
「俺はずっとお前のケツに興味があった。」
「えっかわいいお尻だって?」
頬を赤らめるカリン。
「ちがうわい!そんな意味じゃねーよ!?」
勇者のケツの光に手を突っ込む。弱弱しい光になったその場所に無理やりねじり込む。
「ぐっ」
「来い!!天上の杖共!!!」
彼が手を引き抜いたあと、その手には今まで集めた杖が握られていた。勇者をそこに捨ておき、さらに、彼はマントの下から赤い杖や青い杖を取り出す。
「さちよたちの杖も手に入ったのは幸運だったぜ。まさかアイツまで捕まってたなんてな。第三王女君は意外に有能か?」
「…あの約束はどうなるのですか?」
「どの約束だ」
「魔王復活後も我が国を残すという約束は!!」
「ある訳ねーだろ。ばーか!!」
上空から、女が1人現れて、彼女を蹴り飛ばす。仮面を付けたその女は『弐』の文字が刻まれていた。
「よぉっ!来たか!弐」
「ほらよ、王都の杖だぜ。」
杖を放り投げる。
「私は『漆』あなた方の仲間ではないのですか!」
「仲間?ちげーよ。七星仮面騎士団はあくまで俺様の目的のために集めた駒に過ぎねーよ。それに7番目は自由枠だ。各地にばら蒔いた白い仮面には、漆が浮かび上がる。ただの捨て駒さ」
「そんな…」
「そんなに証が大事なら」
彼女が手をかざすと、王女の面の漆の文字が消え、仮面が崩れる。
「あ、あ、あなたは何者なんですか!」
「『色欲』?『弐』?『武器倉庫』?『姫巫女』?まぁ、通り名こそ色々あるが、まぁ、『名無魔女』とでも言っておこうか。同郷のよしみで手伝ってやるんだ。儀式やるならやっちまえよ、桜」
彼女はケラケラと様々な声色で笑う。しゃべるごとに、変わっていく。
「その名は愛する奴すら守れなかった腑抜けの名前さ。いまの俺は壱だ。足止め頼むぜ」
彼がパンと手を叩くと天上の杖たちが空中に浮かび回転し始めた。
仮面を起動し、七星剣に力を流す。仮面に蓄積された魔力やデータが剣に流れ込む。
七星剣を空にかざすと剣から12本の光がのびていき、杖と繋がる。すると空には巨大な12の魔法陣が現れた。
「杖に選ばれた適合者なんて、探す必要なかったぜ。100人の魔法少女の魔力は俺様の手にあるんだ」
さらにその魔法陣の背後には巨大な金色の扉が現れ、空を黒く覆う。
「あの扉の先には、魔王がいる。リベンジマッチだぜ」
大剣を構える壱の仮面に小石が当たる
「……………………させねーよ!!」
膝が笑い、焦点も定まらない。気を失っていた俺を叩き起すためカリンのビンタによって顔はパンパンに腫れ上がっていた。
今立ち上がらなきゃ、取り返しがつかなくなる。
黒蛇を抜き、無理やり体を引っ張りあげて、壱を見据える。
2代目勇者なんて柄じゃないが、ここで俺は動かなきゃならない。
「は、英雄お前に構ってる暇は俺様には無いんだが?」
「俺にはあるんだよ!!」
魔王復活を食い止める最後の戦いだ。




