最初で最後の姉妹喧嘩2
飛び散った血はたまずさのものではなく。
「……なにしてんのよっ」
リンゴの歯を片腕に噛ませたカリンのものだった。
「な、カリン、ちゃん」
ぼたぼたと血が落ち、床の色を変えていく。
「あたしは魔力を喰えって言ったのよ。何、人の姉様を食べようとしてんだ!このクソりんご!」
『暴食』のリンゴはかりんの腕にガジガジと歯を食い込ませる。
「ぐ、余計な事せず、従え!馬鹿野郎!!」
導きの杖を握った手で思い切りぶん殴る。
殴られたリンゴは、ミシミシと音を立てて、カリンの腕を噛みちぎらんと力を入れる。
「ぎぎぎぎぎ!やめろって!!言ってんだろうが!!!!」
杖が輝き、熱を持つ。
金色にも見える光がカリンの腕を覆う。
その光は形を成して、巫女の袖のような姿を作り出した。
「魔装?!巫女ちゃん?!」
たまずさは驚く。その姿は半身ながらかつて見た黄金の巫女によく似ていた。
カリンはその変化を意に介さず、『暴食』のリンゴをそのままぶん殴った。
「あたしの家族に手を出すなああああ!!」
『暴食』のリンゴは壁に叩きつけられた。リンゴはピクピクと痙攣して、動かなくなった
「タイザイの呪いを、ぶん殴った……」
目の前の光景が信じられなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、姉様、」
振り返り姉の無事を確認するとカリンはそのまま、意識を失い、倒れてしまった。
連邦の聖域での戦いはさらに激しさを増していた。獅子王を舞台に引きずり出したは良いが。配下の四神将が強すぎる。こちらも奮闘はしているが、すでに味方はボロボロ。そんな最中に巫女の覚醒を感じ取り、壱は舌打ちをした。
「……っ。枷がはずれた?『千変』は何をしてやがる。……まだ早すぎるだろうがよ」
「なんだ悪巧みか?」
戦いには参加しない癖に耳ざといやつめ。獅子王はどこから出したか豪華な玉座に座って、話しかける。
剣撃と打撃を躱して、魔法弾を打ち返しながら、叫ぶ。
「はっ!ライオンらしいな。ハーレムの女どもに戦い任せて自身は高みの見物か?臆病者め」
生き延びることに関しては俺様は一家言あるのだ。
「臆病者?それはどうも。臆病だから見るのだ。勝つために。お前のその剣は換装タイプで万能だが、お前が生前使ってた聖剣エクスカリバーに出力で劣っているな。お前勇者の資格を失ってるだろ。貴様の強みは口から出す特級の聖剣たちで戦う馬鹿みたいな火力だ。特に大戦の終盤に引き抜いたエクスカリバーによる高機動高出力の魔法剣は脅威だったのにな」
「……」
耳ざとい上に目ざとい。今の俺様は聖剣を使いこなせない。だから七星剣を培ってきた。
「獅子王よ。その分、特化した部分はピカイチだぜ。わざわざ転生して、魔力を得たんだ。一つ面白いもん見せてやるよ。時間もないしな」
剣を1度鞘に納め、四神将たちから距離をとる。
「この魔力量、魔装か?馬鹿め。『氷豹』の呪いが加速するぞ」
たしかに。ピキピキと氷が目に見えて侵食していく。この際だ魔王の呪いも利用させてもらおう。
「呪獣魔装……『七星大白熊』ガハハははは」
痛みを吹き飛ばすように笑い俺様は氷の侵食による激痛に耐える。この程度の痛み。あいつの苦しみにくらべたら屁でもねぇ!
「さあ!さあ!さあ!獅子に立ち向かうのは俺様、手負の白熊!!たとえ、この首一つになっても、食いちぎってやらあ!!さぁ、抜きな!獅子座の杖を!!じゃねぇとお前の女どもは肉片と化すぜ」
氷が全身を覆うまで3分もないだろう。この一瞬にかける。
♩
歌が聞こえる。
ゆったりとした懐かしいメロディ
体がゆっくりと揺れる感覚に
「……」
「あらあら、起きたのね」
どうやら、おぶられて運ばれているようだった。
「ごめんなさいね。魔力使いすぎちゃって、転移で運んであげられないの」
空のあかりを感じて、地下を出たのがわかった。
すると、がくんと体が下に落ち、たまずさはかりんを背負ったまま倒れてしまった。
「姉さまっ!大丈、夫、、、」
おびただしい量の出血。彼女の腕からだ。姉は地面に横たわる。
「え、え、」
「あらあら……さすがに、無理しすぎた、かしら。」
「なんで」
「あなたの傷を私に移しただけよ。」
「え」
「大丈夫、あのままだと、かりんちゃんが大変な事になりそえだったから、傷を半分移したのよ。これで、私たちは、血を分けた姉妹ってわけだわ、なんちゃってね」
その笑みは弱々しかった。
「半分って……」
明らかに半分っていう量ではない。たしかに腕は傷むが、姉の傷ほどではない。
「直ぐに治癒魔法を!」
杖を向けようとすると、たまずさはそれを制した。
「砲台の発射まで時間がないわ。早く行きなさい」
「でも、わたしのせいで、姉様が」
「あらあら、あなたのせいではないわ。……そうだ、これを」
たまずさはガラスの小瓶を取り出した。
「あなたの体にかかっていた『傲慢』の呪いをあの『暴食』に打ち込んだものよ。全てを移しきることは出来なかったけど、これでぞうさん砲を破壊しなさい。魔王の呪いを自身に受けて運ぶなんて、まったく無茶しすぎよ……」
小瓶の中には金色のリンゴが浮かんでいた。
「ねぇ、かりんちゃん……」
たまずさは話しかける。
「わたしは世界の平和なんてどうでもいいの、ただ、大切な人が笑顔でいてくれたら、それで、いいの。それだけなの」
「……」
「昔はそれが、巫女ちゃんや勇者くん、今はかりんちゃんやあの子……。ただそれだけ……みんなを守りたかった……」
姉の涙が頬を伝う。
「ごめんね、たよりない姉で、ごめんね、中途半端なわたしで」
涙を流すたまずさにカリンは袋から茶色の玉を取り出して口に押し込んだ。
「むぐっ?!」
口いっぱいに草の匂いが広がる。
「…これ、姉様に昔教えて貰った。姉様特製薬草魔力味噌玉です。すこしは回復すると思います。かりんもだいぶ上手に作れるようになったんです。…姉様、必ず生きていてください。聞きたいことが山ほどあります。」
たまずさの身体に防御魔法をかけ立ち上がる。
「姉さまは素敵です。完璧だから素敵というわけではありません。たまずさ姉様がたまずさ姉様だから素敵なんです。姉様の優しさは誰よりも知ってます。あなたの優しさが間違えじゃないって証明してきます」
夕日に照らされた砲身に魔力が集まっている箇所を感じ取る。不思議だ。目を覚ましてから魔力を強く感じれてる。
いまなら、わたしは自分の魔法をより強く使えそうな気がする。
「行ってきます姉様。」




