第三王女の詰将棋
この状況はまずい。
「人質と戦力を突きつけて降伏勧告ですか」
「さすが勇者様、お察しがよろしいことで。」
第三王女はやり手というのは、間違いないようだ。
「白仮面にかけられた呪いも教えるつもりはないですよね」
「あぁ、そのことでしたら、第二王女のお姉様が調べられていましたわ。私はお答えできません。」
「いいんですか、そんなこと言って。いまから、攫いに行くかもしれないですよ」
「無理ですわ。だって勇者様はここからでられませんから」
彼女は片手をあげる。彼女の周りとドアを衛兵が固める。
「……磐石ですね」
「仮にも1国を率いていますので、この程度は。」
「そのようですね。さきほどの暗殺者たちもいるようですし、なにより」
彼女の傍らに佇む初老の男性に視線を移す。
「あなたは何者ですか」
「ほっほっほ。私はただの、爺やです。」
彼は穏やかに笑う。
どうだか。赤牛のお姉さんから得た杖の経験値、第一王女から渡されたお姉さんの魔力により、今まで以上に魔力を追う力が高まっている。隠れている外敵はもちろん相対する敵の力量を測ることもできる。衛兵も周りを囲んでいる奴らも、強い。意図的に隠している場合は正確には測れないが、それでもあのおじいさんが周り以上に只者ではないのは分かる。戦力差がありすぎる。
「……あら、爺や。あなたそんなに強いのですか?」
「私は、まだまだですね」
人質もいる。下手なことはできない。かといって捕まれば最後。あのガラスケースに入れられてしまえば、終わりだ。さちよさんたちが入れられてどのくらい経つか分からないが、魔法少女たちが出られてないところをみると脱出は困難だろう。
「となると」
第三王女様を人質にとって、この場を切り抜ける。
「さぁ、どうされますか?」
「こうするよ!」
ズボンを一気にずり下ろす。
「きゃあ!!」
いや、きゃあ、って言いながらガン見じゃないですか王女様。手を突っ込んでケツをさらに光らせる。魔力探知不可。これも呪いの一種かもな。おれの尊厳を生贄に意表をつくことに成功!
「貴様、王女様に!なんてものを」
衛兵の意見は真っ当だ。ひるんでくれれば、それで結構!!
「射手座!!」
放てた矢は10数本。
ガラスケースは破壊されない。
隠れていた暗殺者たちのうち、2人撃墜。
衛兵は盾が硬いな。王女に全く届かない。
「っ水瓶座!!」
咄嗟に球体の水のバリアを張る。三つの刃が自分の喉元に突き出される。暗殺部隊の質は高い様だ。ゴムのように弾き、彼らの腹に射手座の矢を打ち込む。
「せい!!」
槍を構えた衛兵が迫り来る。王女の守護を任されるだけあって強い。
「赤角!!」
両腕に魔力を流し、槍の猛追をさばく。
その他もろもろに構っていたら、負ける。
くそ。さすがに国のトップレベル。混乱することはなく。すぐに体勢がととのう。
「なら、足場を崩して」
赤角の魔力を足にながし、思いっきり踏み抜く。
「?!」
轟音を立てるも、穴が空くことはなかった。
「硬ぇ」
「さきほど言ったでしょ?特殊な鉱石を使っていると」
第三王女がゆっくりと近づいてきた。詰将棋のようにじわじわと追い込まれていく。
「残念です。人類の希望がこの程度とは。爺。やりなさい。我々はやはり白仮面、魔王側につきましょう」
「承知しました」
彼は白手袋を深くはめる。あぁ、なるほど。値踏みされてた訳か。だから生かしてここまで連れてきたのか。
「おもてなし呪法『テーブルクロス』」
彼は空中を掴み、テーブルクロス引きのように引っ張る動作をする。
「?ん、なにを、」
グイッと引っ張られる。身体が老執事に引き寄せられる。
「は?」
「『コルク抜き』」
みぞおちに吸い込まれるように正確に打ち込まれた拳の衝撃が内蔵に響く。
「かはっ」
「『剪定』」
老体からは想像出来ないほどのキレイなかかと落とし。
ふざけた技名からは想像できない一撃。
魔装する余裕がない。
いや、これは
「魔力が、ない」
「そうですわ。爺やは単純に強いだけ。攻撃自体はあなたの黒い杖ではふせぐことのできない素の実力ですわ」
「くっ、よく研究してるんだな、光栄だよ」
「私ごときが考えられること、たいしたことありませんわ」
「ふっ」
まずいまずいまずい。やべーよ手詰まりだよ。
俺これ詰んだんじゃね!?
つかつかと執事がやってくる。
彼の手が俺へと伸びる。
「『転移』」
「あら、」
少年の姿が消えた。
「おやおや、これは」
「あの時逃がした、ゴミですわね。逃げたなら逃げたで、王都を殲滅すればいいだけ」
「ほんとにやるのですな」
「えぇ、実績をあげておかないと」