第三王女の魔法
「天秤座、私の杖ですわ」
「天上の杖、ですか。」
「えぇ!さすが勇者様」
「私の杖は、1つの条件を釣り合わすことが出来れば、何かを入れ替えることができる魔法ですわ。さきほどは、砲台の『硬さ』を客室のベッドの『柔らかさ』と入れ替えました。『人1人分の広さ』分ほど釣り合わせて。『重さ』が釣り合っていれば、人間をパンにすることも可能。扱いが難しいですが、わたしも修練を積みながら、できることが少しずつ増えていますわ。勇者様が魔法を感知されて避けられてしまわれたら、勇者様は壁にぶつかり、ぺっちゃんこでしたわ」
表現は可愛らしいが、え、ぺっちゃんこ?!
「そ、そうならなくて良かったです。えーと、このちん、いや、この白い建物が砲台ですか?」
「ぞうさん砲ですわ。今は砲台兼王宮になっております。帝都は昔は3つの玉のような形をしていたのですが、ぞうさん砲の威力を求めていくうちに、硬く!!そして、太く!!していったのですわ。王宮の上に砲台を設置したため、このような形に。反動に耐えるため、かなりの硬さの希少金属を使っておりますので、今度わが国に来られる際は下からおいでませ。わたしがいつもいるとは限らないので」
魔法を感知する余裕が無かったことが逆に良かったのか。胸を撫で下ろした。でもなぜ、自分を救う真似をした。バックアップチームは捕らえられていたはず。
「爺や」
彼女が手を叩くと初老の男性が現れた。執事服に身を包んだ彼には翼があった。
「はい王女様」
「ちょうど新鮮な魔力も手に入ったことですし」
「はい、準備はできております」
「よろしい。いきましょう」
「へ」
王女と俺はその執事に抱えられ、空を飛ぶ。砲身にはバルコニーのようなスペースがあり、そこに降り立った。景色がよく見える。色とりどりの雲がまばらに点在し、正面には山があった。
「勇者様は、王都からいらっしゃったと聞いております。」
「え、えぇ」
「見せてさしあげますわ、爺や」
彼女が手を叩くと。爺やは杖を喉にあてて、声を響かせる。
「ぞうさん砲発射用意、魔力注入準備良し。虹雲取り入れ完了。水量50パーセント注入。角度、距離、問題なし。王女様、いつでも」
スっと彼が持ち出した。おっきな赤いボタン。
「いきますわよ!!ぞうさん砲!!!」
国中から膨大な魔力がこの塔に集められていくのを感じる。執事服の爺やも片膝をつく。彼の腕にも金の腕輪。そこから、魔力が塔に送られている。送られている魔力は様々だったが、中には自分の知っている魔力もあった。
「おいちょっとまて、これって」
「ポチッとな」
彼女が指先でボタンを押す。
塔の先端から、大量の魔力が込められた水弾が発射された。激しい振動と音が響く。放物線を描いたそれは、まるで、おしっこのよう。
「勇者様?何か失礼なことをお考えで」
「まっさかー!」
笑顔に影がさした。怖いよ。
だが、俺はもっと恐ろしいものを見ることになる。
「山が……消し飛んだ……」
「魔力を含んだ大量の水。着弾時にはその水圧と、閉じ込められた魔力が暴走することで、辺り一面に魔法をぶちまける。我が国の戦略兵器、ぞうさん砲。」
くり抜かれた山の先には、何重にも壁のある国が見えた。
「あれは、王都、」
「えぇ!さすが、勇者様!あの壁をどう攻略するかが、悩みでしたが、どうです?この威力。あなたのお仲間が直してくださったのですよ?」
「なんだと」
「人質を使いましたら、すぐに。少しの拷問をチラつかせたら、大人しく従ってくれましたよ。」
「俺がここに現れることを」
彼女は指を指した。
「あのシャボン玉は外敵を報せる役目も担っています。我々王族の魔力なら突き破っても問題はありませんが、王族以外がふれると直ぐに、兵たちに囲まれます。1つ目のシャボン玉を破られた時には、わたしに知らせがありました。私はてっきり姉が帰ってきたのだと思ったのですが。」
「第一王女は千虹雲海にいます。仲間の安否が心配で俺だけ先にきました。仲間はどこです?」
「先の勇者様方はすでにお待ちですよ。いきましょうか」
彼女はにこりと笑った。
「さぁ、ぞうさん砲のなかへ」
「じゃあ、辺りにいる人たちの武装をといて貰えますか?」
見渡す限り人気はない。
だが、壁の裏に、柱の影に、微かな魔力と殺気を感じる。
「何を仰っているのやら。ご覧の通り私たち以外に人は」
「13人。」
「お見事。勇者様は中々に鋭くなりましたね。気づかなければ殺してました。」
事も無げに言った。
「私たち三姉妹はこの帝都が白仮面側か勇者様側どちらに着くべきか考えている最中、なのです」
帝宮の中に入っていきながら彼女は言った。
「大陸を安定させるはずの魔法少女はこの3年一定の成果は上げました。ですが、魔王封印以後、産まれてくる子たちは、みな少量の魔力しかもたない。おそらく、次魔王が復活したら、人間は勝てません。この100人体制ももちませんでしょう。綻びはすでに出始めている。白仮面たちが、うまく立ち回っているせいですが」
階段をのぼりながら彼女は話し続ける。
「でしたら、魔王様に取り入っておくことも必要じゃありませんか?」
広間につく。
白い空間。
異様な光景に慄く。
「おいおいおい、ちょっとまて、これは、」
「はい、電池、ですわ」
ガラスケースがずらりと並ぶ、中に入っているのは、魔法少女たち、眠らされているのか、意識はないが、顔色がわるい。彼女たちはおそらく帝都の魔法少女たち。ほかにも、魔族と思われるものや、村娘、貴族の格好をしたもの、様々な人間がショーケースのようにならんでいた。
「あれは!さちよさん!!」
ガブコやアンさんもいる。
「彼女らは優良な燃料です。わざわざ、千虹雲海の雲に変えなくてもそのまま、使用できそうです」
「は、何を言って」
「優良なものはぞうさん砲の動力として、できの悪いものは、雲に変えて浮かべておく。穀潰しにやる食料はありませんので」
彼女は優しく微笑んだ。
「勇者様、貴方は雲と電池どちらになりたいですか?」