第5話 じゃんけん(5)
外見の印象から恐らく昴だろうと思われる方が、近付いてくる私達2人に気付いた様子だ。話しをやめて修斗とともに視線をこちらへ向けた。警戒しているようだ。
変に媚びを売ったり演技をしたりするのはあまり良くないと思われるので、普通に話しかけることにした。
「突然すいません。お二人ともこの状況で焦る様子がなかったので声掛けさせてもらいました」
「どうも。それを言ったら、君ら二人もやけに落ち着いているけど」
「第一試練の突破方法はわかっているので」
「なるほどね」
セリフからして、やはりこちらの人物は主人公の修斗ではなく昴の方で間違いないようだ。見定めるような目つきでこちらを見てくる。
「もしかして星咲莉依奈さんですか?」
その横で修斗が表情を明るくさせて声をかけてきた。今までの人生において、話しかけただけでこんな反応されたことなどないので、有名人且つ美人というのは凄いなと改めて思う。
「私の事ご存知なんですね。ありがとうございます」
「ん? 有名な方?」
昴が修斗の方を向く。
「現役女子高生にしてモデル、そして星咲財閥のご令嬢だよ」
「へー、その辺の情報は疎くてね」
小説の主人公である修斗の方に取り入るのは簡単そうだが、やはり昴は一筋縄ではいかない。
「で、なんで俺らに声をかけてきたの? ザっと見た感じ、俺ら以外にも、じゃんけんをしないのが正解ということに気付いているっぽい人はちらほらいるようだけど」
たしかにそれはそうだ。先程の軽い男のグループもそうだった。
少し見渡しただけで、余裕の表情で壁にもたれて寝ているような人。この状況において同じく数人で何かを話し合っているグループ。女子だけで結束しているグループなどなど。
大多数はじゃんけんをやるのに覚悟を決めれないでウロウロしているといった感じだが、そうではないような人も見受けられる。
「えぇと、結束する人数は多すぎても弊害がありそうだし、年齢が離れていても何か企んでいそうで怖いし。少人数で同年代くらいが一番良さそうっていう、この子の意見なんだ」
そう言いながら朱華の方を見て軽くウインクをした。自分だけがひたすら話すと、朱華の立場が下に見られてしまうかもしれないので、ここは話しを合わせてほしいという合図を送る。
「はい、あとは信用できそうかっていう直感です。死ぬ気で、ただふさぎ込んでいた私にも莉依奈様は優しく声をかけてくれました。私に声をかけても何も得することがないのに。私は莉依奈様に着いていくだけです」
うん、まあ……話しを合わせてくれたかは微妙だ。それでも包み隠さず言っていることに違いはないのでよしとする。
「理由はわからんけど君の方は、この星咲さんを崇拝してるってことか。まあいいや。怪しいやつらじゃないみたいだし、今後は協力できるところはしていこうぜ。よろしくな」
やっと少し昴が表情を緩めた。一応信用してくれたらしい。
一緒に行動できるのは嬉しいが、しかし懸念もある。私が最初から一緒に行動することで、小説と展開が変わってしまい、それが悪い方へ転んでしまうのではないかということだ。
私含めた4人は、通常は最終戦近くまで生き残るはずだが、早くから手を組んでしまったせいで、もっと手前で離脱してしまう可能性がなくもない。それを気にし過ぎたら何も行動はできないわけだが。
電光板は『0.05.27』を表示している。第一試練は間もなく終了だ。
時間ギリギリでじゃんけん勝負をする人達のラストスパートにより室内に一層叫び声が響き渡るが、それもすぐに終わった。
終了のブザーが鳴る。電光板は『0.00.00』で停止していた。
「ほう、結構生き残りましたね。いま生きている人は、じゃんけんをしないという生存ルートに気付いた優秀な方々ということになります。では第二試練会場へご案内しますのでどうぞこちらへ」
司会者の男が生存者をステージ横のドアへと促した。皆死体を踏まないように気を付けながら続々と歩き出す。司会者の男の言う通り、じゃんけんをせずに生存した参加者はどこか優秀な雰囲気が漂っている、気がした。
他と同じように死体を避けて歩くが、血の海は靴の底を覆う程度には溜まっており、静かに歩いてもぴちゃぴちゃと音が鳴ってしまい気持ちが悪い。
「第二試練は何をするのか……」
修斗が独り言のように小さく呟いた。
「組んだことが仇となるような内容の可能性もあるから、全員覚悟はしておいて」
昴が皆に視線を配りながら静かに言う。
ステージ横のドアを通り、長い廊下を歩くとまた広い空間が現れた。
【残り 1168人】