第4話 じゃんけん(4)
「ところで第一試練はどうやって突破するんですか? 適当にじゃんけんする相手を見つけて運任せですか?」
小説で朱華が第一試練を突破したのは偶然で、じゃんけんをしなくても生き残れることに気付いていなかった。死ぬ気で何もせずに座っていたら制限時間が過ぎてしまっていたのである。
「いや、運任せでは―――」
「もしそうなら私とじゃんけんしてください! わざと負けるので!」
言葉を遮って朱華が話しかけてくる。本当に心からそう思っているようで、綺麗で真っ直ぐな瞳を向けて来た。死ぬことに対する恐怖心がないのか。小説ではこんなに異常なキャラではなかったと思う。本性は内に秘めていたということなのか。
「私のために死んでなんていきなり言わないから。第一試練の攻略はもうできてるから心配しないで」
「えっ……? このじゃんけんに必勝法なんてあるんですか?」
やはり気付いていないようだ。第一試練は何もしないというのが正解だということを説明すると、朱華は感激した表情を浮かべた。
「よくこんなこと気付きましたね! 可愛くてスタイル良くて頭も良いって、天は二物も三物も与えてしまったのですね!」
小説ではこんなに明るく、キャラがたつような特徴的なセリフは言わなかった。こういう路線ならこのヒロインも人気でたのになぁと思う。
「第一試練はこれで大丈夫だけど、第二試練からはこんな単純じゃないと思うんだ。この時点で私達以外にも仲間を作らないと、かなり厳しい戦いになると思う」
「なるほど……私は莉依奈様の言うことに従います」
相変わらず朱華はニコニコとした表情をしている。
「頼りになりそうな人がいないか探すからちょっと着いてきてもらっていい?」
「もちろんです!」
朱華と話している間にも死体は増えており、人口密度は減っていっている。そろそろ玖山修斗と栗並昴に会えてもおかしくないと思うんだけど……。
「おっ、君ら可愛いね。どう? 俺らのグループに来る?」
周りを見渡している時に、スーツ姿の20代後半くらいの男と目が合ってしまった。無駄に爽やかな笑顔でこちらへと近付いてきて話しかけられた。
こんなキャラクターいただろうか。忘れているだけということもなくはないが、どちらにしても覚えてないということは特に名前もないモブキャラなのだろう。
「いや、遠慮しておきます」
「え、もしかして芸能人の星咲莉依奈? まじで!? やば!!」
見た目は真面目な営業マン風な男なのに、やたら発言のノリが軽い。こういう男は正直好きではない。
「俺らと来なよ。とりあえず第一試練の生き残り方は教えてあげるから」
「私達も知ってるので結構です」
こんなところで時間を無駄にしたくない。モブキャラには興味はなし。
「へー、もしかして気付いたの? 結構頭良いんだ」
感心した様子でこちらを見てくる。
「朱華、行こう」
「はい。すいません、失礼します」
朱華が男に対して軽く頭を下げている。
「まあ、今後何か困ったことがあったら言ってよ。力になれることがあれば特別に助けてあげるから」
男はそう言いながら笑顔で手を振っている。いちいち上から目線の応答がとても気になる。絶対信用ならないタイプだ。
「なんであんな変なやつに頭下げたの?」
小説内でもたしかに礼儀正しい描写は多々あったが、あんなやつにまでそうする意味がわからない。
「変なやつだったので! 無駄に敵対して後々何かやられたら嫌じゃないですか!」
……すごい。この子はとても冷静だ。そんなところまで頭が回らなかった。ただのモブキャラに構ってる時間はないということしか頭になかった。
「莉依奈様を呼び捨てにした時は怒鳴りそうになりましたけどね。なんとか堪えました」
冗談っぽく笑いながら朱華は言った。この子に声をかけておいて本当に良かったと思った。
そんな話をしていると、少し遠くで、立ち話しをしている高校生くらいの男2人組を見つけた。
雰囲気的にはかなり主人公達っぽい。自分が最初にいた位置から逆の端だったので、それは少し探し回ったくらいで道理で見つからないわけだ。やっと出会えた喜びに急ぎ足で彼らの下へと歩き出す。
そして近付くと、確信した。まさに思っていた通り、イメージ通りの2人がこの状況で焦る様子なく何かを話していた。
「どうしたんですか? あそこの2人が何かあったんですか?」
突然急ぎ足になってしまい朱華も慌てて着いてくる。そして彼女も視線の先の2人組に気付いた。
「あの2人は……何か周りと雰囲気が違う気がする」
「なるほど……そうなんですね……」
朱華に本当の理由は言えるわけがない、というか言っても意味がわからないと思うので適当に誤魔化した。
小説内では、最初にいかがわしい行為をしていたのを見られていたせいで、悪い印象を持たれてその後も警戒されてしまうが、今は違う。苦労せずに仲間にいれてくれるに違いない。
それでも頭のキレる昴だけは注意しないといけない。下手なことを言って誤魔化そうとすれば怪しまれる可能性がある。