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第3話 じゃんけん(3)

 しばしの間、時間を忘れて思いを巡らせていたが、ふと我に返り慌ててカウントを確認すると『0.29.58』になっていた。スタートから30分程過ぎていた。気が付けばこの空間もだいぶ余裕が出て来た気がする。


 余裕が出た代わりに、床にはじゃんけんに敗れた人が何百人と血まみれで倒れている。


 血の海は気持ち悪いが、爆発とかで内臓や脳みそがぐちゃぐちゃな状態になるような死に方でないことに本当に良かったと思う。何百人がその状態の中で一時間同じ空間にいるのは気が滅入るなんてものではない。




 よし、そろそろ動き出しますか。


 まずはその場から全体を見渡すがまだ特にそれっぽい二人組は見当たらない。数は減ったと言っても、やっと1000人を切ったぐらいだろうか。簡単に見つけられる数ではない。


 人々が密集しているあたりを避けて歩いていると、端の方で壁にもたれながら体育座りをしている人がいることに気付いた。


 顔を伏せているので年齢等はわからないが、髪型や服装からするに若めの女子と思われる。何かでこういうシーンがあったような、と既視感を覚えた。


 少し考えるがすぐにその既視感の正体を思い出し、「あっ、そうだった」と思わず言葉が出てしまった。


 キャラクターとしてあまり好きではなく、受け身な性格で描写されていたので印象は薄いが、第一試練を終えた後に主人公達と知り合うヒロイン的ポジションの子がいたことを思い出した。名前はたしか倉間朱華(くらましゅか)だったはず。


 その出会いのシーンが、第一試練を無事に突破した主人公達が体育座りをしている彼女に気付き声をかけたというものだった。



 主人公達よりもまさか先に自分が気付いてしまうとは。

 ここで声をかけてしまうと、今後の展開が変わってくるのではないかと思うので、一旦無視をするのが得策だろうか。この子と仲良くなっても生き残れるかどうかの可能性は変わらない気がするし。


 いやまてよ……小説通りに進むと、ヒロイン的ポジションは朱華になってしまうのではないか。悪役のポジションをやめるとするならば、今の私である莉依奈がヒロインにならないといけないのではないか。


 ということは、ここは声をかけて先に知り合いとなり、その状態で主人公達へこちらから話しかければどうだろうか。



 ということで少し緊張するが、できるだけ怪しまれないような優しい笑顔を作るとゆっくりと近付き話しかけた。


「あのー……どうしましたかぁ?」


 無理に優しくしようと試みたら、少しあざとく可愛い子ぶってるような言い方になってしまい失敗したと思った。


 朱華は顔を上げなかった。小説では主人公が声をかけたらすぐに顔を上げた描写があったが、同じようにはいかないものだ。


「気分でも悪いんですか?」

「……いえ、ほっといてください」


 顔を上げずに彼女は答えた。女だから警戒されているのだろうか。頼りにならないと思われているのかもしれない。


「一人で心細いので、これから協力して行動しませんか?」

「……私は死ぬつもりなので。それに最終的に生き残れるのは一人ですよね。協力になんの意味があるんですか」


 あー、そうだ。このヒロイン、最初は主人公達に対してもこういう面倒くさい系だった。一緒に行動するにつれて心を開いていくタイプだ。


「まあそう言わずに。私は星咲莉依奈。名前教えて?」

「えっ……!? あの、莉依奈様!?」


 突然朱華の声のトーンが変わり、顔を勢いよく上げた。


「なんでこんなところに!? あの……私……! とてもファンなんです!!」

「え、え……?」


 なんで。こんな設定なかった。小説内で一緒に行動する時もあったけど、こんなことを言う描写はない。ファンブックとかの裏設定で書いてあるのだろうか。


「可愛くてスタイル良くて……その神秘的な雰囲気。同じ人間とは思えないです……!」


 朱華は目をキラキラと輝かせている。


「応援してくれてどうもありがとう。じゃあ一緒に行動してくれる?」

「もちろんです! 私が守ります! 私の命、莉依奈様のためなら捨てる覚悟です!」


 朱華の様子を見て、思いつくことが一つある。小説では主人公達と同じく、いかがわしい行為をしている場面を彼女も見ているはずだ。崇拝している人が、この場面で簡単にこんなことをしているという部分を目の当たりにして幻滅してしまった。だから小説内で崇拝している描写は一度もなかったのではないか。考えられるとすればそれぐらいしかない。


「あ、自己紹介が遅れました。高校1年で倉間朱華と申します。よろしくお願いします」


 朱華は背も低く小柄な体付きでセミロングの黒髪。普通に中学生に間違われてもおかしくない外見である、下手したら小学生とも間違われるかも。服のセンスも少し幼なめでそれが拍車をかけているように思う。


「そんな丁寧じゃなくていいよ。莉依奈様じゃなくて莉依奈って呼んでくれていいから」

「そんなわけにはいきません! 私にとっては神様みたいなものです!」


 なんでここまで崇拝されているのかわからないが、何はともあれ、まずは仲間が一人増えた。これで怪しまれずに主人公達の仲間に加われる可能性が高くなった、と思いたい。




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