恋愛の神経
生き物とは、感覚を持って意識を誤魔化していく者である。
「……………」
嶋村が学校の休憩時間にスマホじゃなくて、本で読書をするのはこの本カバー同様に、自分の表情をちょっとでも隠すためだ。ついついニヤけた顔を晒したくない。
まさか、本を読んでいるのではなく。周囲の様子を探っているなどと……。
「よ、四葉くん。昨日のお菓子、どーだった?」
「美味しかったよ、川中さん」
「じゃ、じゃあ。また作ってもいい?バレンタインとか近いし、ね」
「いいのかい。バスケ部のみんなも喜ぶよ」
「え、えへへ」
クラス一の美少女と、クラス一のイケメンの恋愛的な会話。
気のあるような言葉を使いつつ、その言葉に気づいているようでその気がなさそうな。もどかしい感じ。
成立などしていないそうだが健全なお付き合いを見せてそうな、してなさそうな。
妬みなく、応援してあげたい。
「御子柴。この前貸した金を返せよ」
「あれ?そんなことあったっけ?」
「貸しただろうが」
「舟から金なんて借りないんだけどなぁ」
「どの口が言ってんだ!」
そして、窓際の方ではちょっと危なげな2人の関係。友達と割り切っている仲にしか思えない。
「じゃあ」
御子柴が舟の耳元で何かを呟いた。
「……ちっ」
嫌そうな反応を見せるも、さっき言っていたお金の件の事を話さなくなった。
こーいうところが踏込んでいて、友達感覚。
恋愛的な神経ではなく、お互いに良い事があるからの神経。
「ってなわけで、お金をまた貸して?」
「それは断る」
まぁ、御子柴の嫉妬しちゃうような胸とスタイル。性格がちとキツイが、悪くなかろう。男の神経がどーかしているのか聞きたいものだが、……ひとまず、巨乳はズルい。
そして、御子柴自身も舟とは話せる友達だし、金もくれる、酒も一緒に飲むし、タバコも吸うとくれば馬が合って当然か。金が少なくなっても多少の良心は見せそうな。
「坂倉くん。きょ、今日。ウチに来ない?」
「!お、おい……行くからさ。メールでいいだろ。迎」
こっちの方では公式的なお付き合い。
凸凹カップルと書けばしっくり来るほど、迎の身長は小学生並み。対して、坂倉は高身長。バスケ部のセンターだけある。
何も知らない人間がもし、学生服じゃない二人を見たら、怪しさしかない。ただ分かっているのは、坂倉は絶対ロリコンだ。自分が身長あるからって、それより下の子が好きって誤魔化しているのは、完全にそーいう癖を隠すための言い訳。ただ迎はそーいうところを怖がってないし、友達よりも彼女よりに付き合えるのはそーいう神経を持っているからだろう。
パタンッ
嶋村は本を閉じて、机の引き出し棚に入れる。もうすぐ授業というわけで、お昼寝の時間になる。家に帰ったら、明け方までアニメや漫画を読み漁らないといけない。病的に日常。
自分の神経は、異性によく反応するものだが。大当たりって言っていいのかな、絶頂って言葉が正しいか分からないけれど。そこまでといけない。推せる人はいるのだが、すぐに入れ替わっていくほどの世の中だ。
「すーっ……すーっ……」
眠たい授業は、そーさせるんだから仕方ない。顔に跡つかないよう眠って、充電するもの。
「こらー、嶋村ー!」
授業中静かにしてるんだからいいじゃないって……。思えるが、普段五月蠅い、相場と御子柴達まで寝ているせいで静か過ぎたか。
先生の神経も叱りやすく、聞き分けが良さそうな子を選んで注意。
「起きろー」
叩くと体罰だって言うから、机を揺するのさ。そんな小さな揺れで落ちたのは、休憩中に読んでいた本。こりゃイカン、没収されちゃうかも。しかし、知らずに眠りについている私。
先生は手にとった時、本の厚みから違和感がしたのは身近で知っている気がしたくらいだろう。後で、先生のところに来なさいと言うべき、プライバシーを守ったお説教をせず。
「早く起きないと大変だぞー」
優しく、本のカバーを外して、眠る私の横に本を置いてあげるのだ。
自分が知らずに晒されること
【男と男の真剣恋愛!】
隠していたエロ本が親に発見されるように、神経はもどかしく狼狽する。自分の好物を劇物と、口で嘘をつけるものかな。
起きた時、この神経の混乱は体にどー動かすかな。
とりあえず、舟や坂倉みたいな男友達から嫌われちゃうね。