いざ成敗 vs Rigil Toliman
【お断り】
グロテスクな描写があります。
閲覧の際はご注意ください。
「く、くそっ……! この俺が……不覚を取られて……! 女の癖に……女の癖にいぃー!!」
私に上空まで蹴り上げられた挙げ句、落下の衝撃で満身創痍となった、セレスチャルソルジャーのリギル・トリマンこと園山慎也は怒り狂っている。
「女の癖に? そんな大きい身体をしておきながら、この小柄な女の私に、遥か上空に蹴り上げられたあんたが言える台詞?」
「うるせぇ!! 俺をキレさせた事がどれほど罪深いか、その身を以て思い知れ!!」
そう叫んだ直後、慎也の身体が、血管が浮き出る程筋骨隆々なものに変化した。
言い方は悪いが、ただの肥満体にしか見えなかった先程とは、まるで別人だ。
「俺の一等星の力で潰れやがれ!!」
なるほど、あいつの一等星の力は【馬に変身出来る】と【筋力強化】といったところか。
「うぉりゃあぁー!」
そう考えている内に、あいつの太い右腕が私に襲い掛かる。私はそれを、自身の一等星の力である【瞬発力強化】でひらりと躱す。
その後も、幾度となくあいつのパンチやキックが繰り出されるが、殆どは難なく躱し、何発かは腕や脚で攻撃を払ってやった。
「えぇい、ちょこまかとおぉー!!」
「あんたの攻撃、全部止まって見えるから、すごく楽に回避出来るのよねぇ~」
私のせせら笑いに、あいつは顔を真っ赤にして怒っている。いいよいいよ、その茹で蛸みたいな顔。尤も、もうすぐ怒る事も出来なくなるけどね♪
「なら、これでどうだ!?」
すると、あいつの手元に十字型の物体が現れる。
虹色に光るそれは、見栄えがいい反面毒々しい雰囲気を帯びている。
「絶対零度四枚翼!」
その十字型の物体を投げ付けてきたのだが、私がいる所とはまるで見当違いの方向へと飛んでいく。
「どこ投げてんのよ?」
そう言って馬鹿にしたような笑みを浮かべたのだが、何かがおかしい事に気付く。
物体の軌道に沿って氷が造られているのだ。そして、私を囲い込む感じで氷の壁が造られると、白くて眩い光を放ち出した。
「……っ!」
危険を察知し、私は高く跳躍する。
その瞬間、真下の氷の壁が、一斉に激しい爆発を起こした。
間一髪のところで回避出来たから良かったものの、一瞬でも反応が遅れれば、危うく爆破の餌食になっていたところだ。
着地した後も、あいつは何度も氷の壁を造ってくる。しかし私はそれを全て、左右に大きく回避したり高く跳躍したりして難無く躱す。
それにしても、さっきからこいつの攻撃が全然効いてないし当たらない。やっぱりさっきの落下による損傷で、攻撃力もコントロールも格段に衰えているのだろう。
「何でだ……! 何で攻撃が当たらない……!?」
「攻撃が単調過ぎるからねぃ、これだったら誰にだって読まれるし、簡単に避けられるわよ」
そう言ってやると、あいつは持っていた十字型の物体を消滅させ、私を睨み付けてくる。
「くそぉ……! こうなったら、お前を超新星前にするしか無さそうだな」
「転生前の名前の情報なんて何も得られてないのに、どうやって超新星前に出来るっていうのよ?」
するとあいつは、ニヤッと笑みを浮かべる。
「お前のこれまでの発言の仕方、そして戦闘中の動きの癖から、俺が知っている情報を元に、お前のプロファイリングをさせてもらった」
「えぇっ……!?」
こいつにそんな能力が備わってたの……!? まさか想像の力が……!? 闘ってる最中に、ずっと働いてたって事……!?
「残念だが、転生して姿形が劇的に変わっていようと、声・話し方・動きの癖等から、お前の転生前の姿と名前がはっきりと浮かび上がってくるんだ」
「あんたまさか……その為に態と私が回避しやすい攻撃ばかり仕掛けてたの……!?」
だしたら、私は知らず識らずの内に、こいつの手助けをしてたって事じゃない……!
失敗した……! 超新星前状態にされて、尚且つ馬の姿で追い回されたら、この世界で5分経つまで逃げ切るなんて出来るはずが無い……!
「お前はもう終わりだ……!」
そう宣告して、クククと嫌らしい笑いを零す慎也。
ここは一気に距離を詰めて肉弾戦を仕掛けて、唱えるのを中断させるべき?
それとも、こっちが先に名前を唱えて超新星前にしてしまった方がいいの?
「お前の名前は……!」
悩んでいる内に、あいつが名前を唱え出す。
ダメだっ……! もう間に合わないっ……!
――――――――――――――――――
「アオヤマハルナだ!」
……はい? ……はっ? ……えっ?
聞いた事の無い名前に、私は一瞬混乱してしまう。
誰それ……? 教師? それとも、親戚?
「はあぁー!? 超新星前に出来ねぇだと!?」
当たり前でしょ、私の名前じゃないんだから。
「ならお前は……イケハタモモエだ!」
いやいや、どうしてそうなるのよ?
それは生徒会長の名前でしょうが。
「これも違うのかよ!?」
彼のプロファイリングのいい加減さには呆れる。
更に私は、こいつがあれをやらかすんじゃないかと期待してしまい、少しばかり笑みが零れる。
「じゃあ……エモリマユカだ!」
距離的には近付いてるけど大ハズレだよ。
それは隣のクラスの学級委員の名前ね。
「何でどれも違うんだよぉ!?」
あぁ、完全にパニックだよ。
これはあれをやらかす可能性が高まったなと思い、私の笑みに侮りが帯びる。
「今度こそ決めてやる! お前は……!」
誰の名前が出るかな?
私は何故かワクワクしてしまっていた。
「スズキサヤカだ!」
あぁ……やっとクラスメイトの名前が出たよ。
出たけどね、私とは似ても似つかない別人だよ。
でも、セレスチャルソルジャーには選ばれずに、そのまま死んじゃったんだよね。
バレーをやってた彼女の方が、私なんかよりも遥かに素質はあったと思うけど。
それにしても、こうも私の名前が出ないのは、嬉しい反面かなり複雑だ。
やっぱり、何回も名前を間違えられたり、全く名前を覚えてなかったりするのは、女としては――虐めの被害者としてはショック以外の何物でも無い。
まぁ、兎にも角にも、こいつはとうとうあれをやらかしてしまった。
そう思った瞬間、リギル・トリマン――もとい慎也の胸元から這い出るようにして黄色い光の球が現れ、彼の頭上で浮遊する。
「えっ……? な……な、何で……? 何で一等星が……!?」
驚いた様子で、その光の球を見詰めている慎也。体格も元の巨漢レスラーみたいなものに戻った。
そう……彼はもう1つのルールによって、超新星前状態になってしまったのだ。
それに気付いたのか、彼はハッとして私を見る。
「まさかっ……!」
「あ~らら、やらかしちゃった。4回連続で名前を間違えて超新星前状態、言わば自滅……フフッ、あんたって人は、最後の最後まで笑わせてくれるね♪ 私を掌の上で転がしてたつもりだろうけど、実際転がされてたのは、あんたの方だったみたいね♪」
「ちょっ……ちょっと待ってくれ……!」
「名前を言い当てられたら、すぐに唱え返してやろうと思ったけど……どうやら、その手順を踏む必要も無さそうね……園山慎也」
「……っ!? う……嘘だろ……? お、お前……最初から俺の名前を……!?」
「えぇ、とっくに調査済み。いつでも超新星前状態にする用意は出来てたからねぃ、おかげで楽しく遊ばせてもらったわ」
「ぐ……ぐぅぬぅ……! 貴様あぁ……!」
「いい遊び相手がいるって、こんなに気分がいいのね。転生前に知りたかったなぁ~、ねぇ慎也♪」
私はこれまでに無い最高の笑顔を見せる。それに対して慎也は、恐怖に慄いたのか、何も言えずに目を見開き、身体が硬直している。どうやら本気で怖じ気付いているようだ。
さぁ、今からリギル・トリマンを成敗して慎也に復讐を遂げる時間だ……
「三つ子の銀河!」
私は両手を突き出し、3つの青白い光の渦巻を放つ。
それ等が慎也の身体に直撃すると、聞いた事も無いような凄まじい音が、私の鼓膜を刺激する。
「あ゙がぁぁー!! 骨があ゙ぁー!! 骨が砕げぢま゙ゔよ゙お゙ぉー!!」
私の技は、魔物をバラバラにして浄化するもの。故に、今慎也は肉体がバラバラになりそうな状態に陥っているのだろう。
しかし、そんな悲鳴を上げられたからと言って、私が許すはずも無く……
「分厚い肉体持ってるのに、そんな簡単に砕ける訳無いでしょっ♪ は~い、次いくよ~」
「い゙や゙だあ゙ぁー!! や゙め゙ろ゙お゙ぉー!! や゙め゙でぐれ゙え゙ぇー!!」
「三つ子の銀河!」
突き出した両手から、再び青白い光の渦巻を放つ。
また慎也の身体に直撃し、さっきと似たような鈍い音が、荒野中に木霊する。
「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁー!! 千切れ゙る゙ゔぅー!! 肉が千切れ゙ぢま゙ゔっでぇー!! 頼む゙がら゙、もゔや゙め゙でぐれ゙え゙ぇー!! 助げでぐれ゙え゙ぇー!! 死に゙だぐね゙ぇよ゙お゙ぉー!!」
そうそう……あんたのその泣き叫ぶ声を聞きたかったんだよ。その為に生きてきたんだよ、私は。
『お願いだからもうやめてぇー!!』
『助けてぇー!!』
『死にたくないよぉー!!』
転生前、こいつに関節技や寝技を掛けられた時に私が死に物狂いで叫んだ言葉を、転生後にこいつ自身が言う事になるなんて、なかなかの見物だよ。
でも、こんなんじゃ全然足りない……あんたには、もっともっと悲痛な叫び声を上げてもらわないと。
いつの間にか――こいつに何度も殺されかけた記憶が脳内でフラッシュバックされていたせいか――私の目からは大粒の涙が次々と溢れてくる。
そんな私は、絶えず青白い光の渦巻を放ち続ける。
渦巻は1つも欠ける事無く、彼の身体に直撃する。
その度に肉が抉れ、筋や腱が切れ、骨が砕ける音が聞こえる。それはまるで、復讐を成し遂げつつある私への讃歌のようだ。
「アハッ♪ アハハ♪ アハハハハハハハハ!!」
涙を流しながらも、私はもう笑い声を止められなくなっていた。
泣き笑いをしながら、私は何度も青白い光の渦巻を放ち続ける。
どれほど技を繰り出し続けただろうか……
「……ぅ……ぅぅ……」
慎也は全身傷だらけ且つ血塗れで倒れ込み、声も出せなくなって、息も絶え絶えになっているが、頭上ではまだ黄色い光の球が浮遊している。
そんな彼に、私は透かさず馬乗りになる。
「慎也……さっきあんたが星に還したいって言ってた人って……若しかして紗綾の事じゃない……? ま・つ・も・と・さ・あ・や」
「す……すぉぅ……さぁ……やゃ……」
「実はね、その紗綾って……私なんだよねぃ♪」
私は口を三日月の形にして告白する。
慎也は真実を告げられて、絶望に打ち拉がれたように目を見開く。
その希望の光を失った眼……最高だよ♪
「あぁ……あぅぉ……」
私の名前を唱えて超新星前状態にしようとしているんだろうけど、最早虫の息で母音すらまともに発音出来てない。
そんな彼に、私はダメ押しで喉輪を喰らわす。
「がっ……! ぐぶっ……!」
「慎也……私綺麗になったでしょ……? 私可愛くなったでしょ……? 私強くなったでしょ……?」
あの時のこいつの発言に対する皮肉とも呪詛とも取れる言葉を浴びせて、止め処なく流れる涙と共に禍々しい笑みを浮かべる。
「星に還したい相手に、星に還されるなんてさ……あんたはやっぱりお笑い者だったよ……それを貫いたんだから、ある意味羨ましいよ……でも慎也……これでもう終わりだね……」
「あ゙ぅ……あ゙ぁ……」
「あんたを星に還す……そして、あの世でハダルに……明信に平謝りして、奴隷みたいにずっと扱き使われてよ……そうすれば、夜空も一層綺麗に彩れるからさ……」
そう言って私は、右の拳を目一杯引いて……
「じゃあね、リギル・トリマン……バイバイ、園山慎也……」
力の限り一等星を殴り付ける。
パリーンというガラスが割れるような音と同時に、一等星が破壊された。
「あ゙ぁ……」
力の無い呻き声が発せられると、慎也の身体は一瞬で真っ黒に染められていく。
そして、彼の身体から眩い黄色い光が発せられると、私の身体はその光に包まれていった……