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浮上する新たなSinner

翌朝、太陽が昇る前に目が覚めた私は、いつもの露出の多い服を身に着け、情報屋及び流浪人を装う為にローブを羽織り、フードを深く被って、単身で宮殿を出る。

今日は少し遠出して、その道中で滅亡した星座くにの現状を視察して、魔物がいれば倒してダストを回収し、出来れば他のセレスチャルソルジャーの事を人から聞き出して、誰が何の一等星の力(プライム・アビリティ)を持っているのか把握したいと思っている。

力を付けるのも勿論重要だけど、必要な情報を大量に且つ正確に頭に叩き込むのも、これからの闘いに勝つには必要だ。


クラスメイトへの復讐を遂げて、誰よりもアルティメットポラリスを手に入れる……それを達成させるには、私自身が大きく変わらなければならない。

その為に、今私はこうして1人で歩いている……


途中で通り掛かった、滅亡した星座くには、何処も目も当てられない程朽ち果てていた。

建物も植物も、火も水も何もかも無い、正に魔物に食い荒らされてしまった印象を受ける。

そしてそういう所には、決まって魔物が蔓延はびこっていて、大挙して私に襲い掛かってくる。

しかし、厳しい環境下で三等星相当の魔物を全滅出来た私にとって、その魔物達は最早敵ではない。どれだけ束になって来ようとも、纏めてダストに戻す事は造作も無い。

出会った魔物は全て浄化し、ダストも残らず回収する。


そして遂に私は、目的地である、水瓶座アクエリアスの加護を受けるボンテーユ王国に着いた。

ここは水源が豊富で、至る所に川が流れていて、水車小屋やダムも多く点在している。

それに関する仕事をしている人も多くいるので、何かしらの情報は得られるはずだ。

私はフードを深く被り直し、意を決してボンテーユの地に足を踏み入れる。


「すみません……!」

話し掛けたのは、給水タンクのような大きな入れ物に新しい水を入れる作業をしている、中年くらいの男の人だ。

「うん? 何だい、嬢ちゃん」

「私、セレスチャルソルジャーの事を知ってる人に、いろいろと聞いて回っているんですけど……あなたはセレスチャルソルジャーの事を見たとか聞いたとか……そういった事はありませんか?」

「セレスチャルソルジャー? そんなのいたっけっかな~?」

「本当に些細な事でもいいんです。誰かから聞いたというのでも……」

「ちょっと待ってくれな。う~ん……」

男の人は腕組みをして、うなりながら考えている。

しばらくすると、男の人は何か思い出したのか、ふっと顔を上げて、そうだと言わんばかりに柏手を打つ。

「あぁ~、確かにいたっちゃあいたけど、どちらかと言えば、ソルジャーというよりは、ドクターといった感じの人だったなぁ」

「えっ……? ドクター……ですか?」

「隣のスポワスン王国とは、昔から家族同然の友好関係が結ばれていて、お互いに物資や人材のやり取りをしているんだ。ついこないだも、向こうから【フォーマルハウト】と名乗るセレスチャルソルジャーがこの国に来たんだ。そいつの腕はすごかったよ~。限られた道具や薬で、いろんな人の病気や怪我を治しちまうんだからな~、大したもんだよ」

「フォーマルハウト……」

私はその名前を知っている……

知る人ぞ知る、南の魚座ピスキス・アウストリヌスの一等星だ。

そして、ドクターというワードからして、その一等星の力(プライム・アビリティ)を授かったのはあの人しかいない。


医者志望だった――樋渡悠介だ。


彼は兎に角医者を目指して、ずっと勉強していた。

寧ろ、その印象しかない。

故に、彼は私を虐める事も遠目から見て薄ら笑いしてる事も一切無かった。

まぁ、単純に興味無かっただけだろうけど。

彼については、復讐の対象では無いから、別に無視しても構わなかったけれど……

「でもなぁ~……」

男の人は、少し落胆したような顔を見せる。

「ここ最近、全く姿を見せてくれなくなったんだよ。優秀だったから、別の所に引き抜かれちまったのかもなぁ~……」

「そうなんですね……」

「まぁでも、それからスポワスン王国がすごく栄えて、優秀なドクターが沢山育って、この国に定期的に来れるようになったから、全然困っちゃいないよ。でもやっぱりさ、出来る事ならもう一度お目に掛かりたいよぉ~……」

「えっ……?」

姿を見せなくなったら、国が栄えた……?

これって、クキエレーやシュトーロルと同じ……

まさか……そんな……

「そろそろ仕事に戻っていいか?」

「あっ……は、はい。有難う御座います」

深々と頭を下げてお礼を述べると、男の人は近くの建物の中へ消えていった。

その後も、私は暫くその場に佇んで考察する。

私の予想が正しければ、フォーマルハウト改め樋渡悠介は、既に星に還ってしまった事になる。

だとしたら、一体誰がそんな事を……


その時背後から、誰かが私に近付いて、肩を掴もうと手を伸ばす気配を感じた。

「……!」

透かさず振り向き、その勢いのまま右脚で回し蹴りを繰り出す。

鍛錬のお陰で、かなり早く強い回し蹴りが出来ていたはずなのに、いとも簡単に避けられてしまった。

回し蹴りの勢いが強過ぎたのか、フードが外れて素顔を晒してしまっているが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

相手は、私と同じようにローブを羽織った背の高い人だ。袖から見える手や指の感じから男の人だ。

「誰なの、あなたっ!?」

鋭い目で睨み付けて身構える。


……ん? ……あれ?

この人の着ているローブ、私のと柄が似てる……

それに、フードから見える顔の下半分、何か見た事ある気がする……

すると男の人は、フードを外して素顔を晒す。

「いきなり何すんだよ、レグルス!」

「デ……デネボラさん!?」

その男の人は、デネボラさんだった。

「ど、どうしてここに……!?」

「それはこっちの台詞だよ! 今朝突然いなくなってたから、何処行ったのかと思って門番に聞いたら、暗い内に1人で出て行ったって言うから、探知サーチ能力で君の足取りを辿って、ここまで来たんだ! 君の身に何かあったのかと思って、本当に心配したんだぞ!」

いつも温和で優しいデネボラさんが、本気で怒っている。勿論、それは私を思っての事だ。

「御免なさい……すみませんでした……」

私は頭を下げて、消え入りそうな声で謝罪する。

「はぁ~、全く……どうして俺に黙って出て行ったんだ? 当然訳があるんだろ? 話してみろ」

「はい……この天球界が、今どんな感じになっているのか、自分の目で確かめて、自分の口でいろんな人に聞いてみたかったんです……確かに私は他人とコミュニケーションを図るのが苦手ですけど、だからと言ってずっとデネボラさんに頼ってたら、いつまで経っても成長出来ないと思って……だから、今日私はこういう行動に出たんです……」

私は自分の考えを素直に伝える。するとデネボラさんは、呆れているとも感心しているとも取れる溜息を吐く。

「君のそういう面で自立したいという気持ちは偉いと思う。でもな、全部自分1人だけで背負おうと思って勝手に追い込むと、あらゆる事がストレスになって、いずれは自滅し兼ねない。だから、たまにでいいから、頼ってほしい時は、とことん甘えてもいいんじゃないか? 君には頼れる人が沢山いるんだから、焦らず少しずつ変わっていこう。俺も出来る事は協力するからさ。大丈夫、君は1人じゃない……!」

デネボラさんは、そう言って微笑み掛けてくれた。

そうだ……もう私は、誰も頼る人がいない松本紗綾じゃない。多くの人と持ちつ持たれつの関係を築けているセレスチャルソルジャー・レグルスなんだ。

「分かりました。今後はそうします」

「うん。俺もここまで来たからには、君の手伝いをしないと帰れないしな」

「お手数をお掛けします」

お礼を述べた後、私達はフードを被り直し、新たな情報を求めて歩き出す。


「そういえばさ……」

歩いている途中、デネボラさんが何かを思い出したように話し掛けてきた。

「何ですか?」

「今朝国王様から聞いたけど、君は鍛錬の間で、前人未踏の967体を倒したそうだな。すごいじゃないか、900の大台に乗るなんて」

「はい。でも私は完全制覇したかったので、すごく悔やまれます。あと33体だったのに……それにさっき、デネボラさんは私の回し蹴りを軽々とかわしてましたよね。それってつまり、私にはまだまだ修行が足りないって事じゃないですか」

かなり本気で繰り出したのに、あんな簡単に避けられたら、自信喪失になりそう。

「君の蹴りのリーチが短かったから、偶々(たまたま)避けられたんだよ。油断してたら間違いなく吹っ飛ばされてた。初めて会った時よりも、格段にキレが良くなってたからさ」

デネボラさんは褒めてるつもりだろうけど、私は最初の「リーチが短い」という言葉が引っ掛かる。

要するに、私の背が低いって事だよね。確かに私の身長は転生前よりも20cmくらい小さくなってるし、180cmはあると思われるデネボラさんと比べれば、尚更その差は歴然だ。

とはいえ、こればかりは仕方ない。身長はもうこれ以上伸びないだろうし、その短所を一等星の力(プライム・アビリティ)でカバーするしかない。


「あっ、そうそう」

デネボラさんは、また何かを思い出したようだ。

「俺がこんな事言ったら変なのは重々承知の上で聞くけど……」

「はい?」

「王妃様がこっそり教えてくれたんだけど……」

言葉にするのを躊躇しているデネボラさんは、何故か頬をあからめている。何でそんなに恥ずかしがってるんだろう。

「君……鍛錬の後、部屋で裸になって修行してたって……本当なのか……?」

「うえぇっ!?」

まさかの発言に、瞬間湯沸かし器のように、私は一瞬で顔を真っ赤にして、身体全体が熱くなる。

「な……何で王妃様が……そんな事……」

完全に気が動転してしまい、言葉に詰まる。

「儀の間に向かう途中、君の部屋から掛け声が聞こえたそうなんだ。それでこっそり覗いてみたら、その……君が裸になって、真剣な顔をして、汗塗れになりながら、武術のような動きをして修行していたって……」

全然気付かなかった……まさかあの時王妃様に、生まれたままの姿で鍛錬の復習をしていたのを見られてたなんて……

ゔぅ~……2人で湯浴みをして、お互いに一糸纏わない姿を見せたとはいえ、それは流石に恥ずかし過ぎる……穴があったら今すぐにでも入りたいよ~……

「百歩譲って、部屋で修行するのは分かるけど……何で裸になんかなったんだ……?」

罰が悪そうにデネボラさんが聞いてくる。

「それは……い、戒めです……!」

「戒め……?」

「そうです……! 自分自身への戒めです……! 鍛錬の間で完全制覇出来なかったから、その罰として、一糸纏わない姿で敵と戦う感じで、もう一度同じ事を実践してみろと、自分に言い聞かせてやったまでです……!」

私はデネボラさんが納得いくような、その場を取り繕う為の姑息な嘘を吐く。


本当の事を言うと、ツィーナフさんの為だ。

私の生まれたままの姿を、ツィーナフさんにもっと見てもらいたい、もっと見せてあげたい……そうする事でツィーナフさんから、より多くの加護を受けられると私は思っている。

だから最近の私は、湯浴みをした後は基本的に服は着ないようにしている。

私のこの行為を、理解してくれなかったり誤解したりする人が多くいるのは間違いない。でも私は復讐出来るのなら、ツィーナフさんの力も味方に付けたいと思っている。その為なら、代償として生まれたままの姿を見せる事だって厭わない。

「そうか……」

デネボラさんは、納得したようなしてないような、微妙な表情で返事をする。

「と、兎に角……! 今はやるべき事をやりましょう……! ねっ?」

「そ、それもそうだなっ……!」

ほぼ強制的に話題を切って、情報収集を再開する。


「すみません、少し宜しいですか?」

話し掛けたのは、水車小屋が併設されている民家の庭にある立派な椅子に座っているおばあさんだ。

「何じゃ? 若造2人が私に何の用だ?」

「お休み中のところ申し訳ございません。僕達、この街でセレスチャルソルジャーの事を知っている人から、何か知っている事をいろいろと聞いて回っているんです。どんな小さな事でも構いません、何か知っていませんか?」

「セレスチャルソルジャー……? フォーマルハウト殿の事かな……?」

「お、おばあさん……! フォ、フォーマルハウトの事……ご存じなんですか……!?」

「私の命の恩人の事を知らない訳が無かろう……だが今の私ぁ、フォーマルハウト殿の事で、大変心を痛めている……」

「心を痛めてるとは、何かあったんですか?」

「実は先日……フォーマルハウト殿が星に還ってしまう光景を……この目で見てしまったんだ……」

「「えぇっ……!?」」

何と私の予想通り、フォーマルハウト――悠介は星に還ってしまっていた。しかも、その様子を目の当たりにしてしまった人がいたなんて……命の恩人が殺されるのを目撃してしまったら、下手したらトラウマになり兼ねない。

何の罪も無く、ただ純粋に人の為になる事をしていたのに、そんな優しい人を平然と殺せるなんて……

悠介には何の思い入れも無いけど、それでもやっぱり心無い行為は断じて許せない……!

「そ、それってどんな奴だったんですか……!?」

私はおばあさんにズイッと近付いて、そのろくでも無い人物の為人ひととなりを聞き出そうとする。

「男と女がいたから……恐らくカップルという者達なのかもしれないなぁ……全く、とんでもない人でなしだ……!」

「男女のカップル……?」

という事は、翔と夏美である可能性が高い。ツィーナフさんが、2人で行動している(ペア)がいると言っていたから、その可能性はより濃厚だ。

私は一等星を絞る為にもう1つ聞いてみた。

「その2人って、どんな色の雰囲気でしたか?」

ベテルギウスは赤色、リゲルとアクルックスとミモザは青白い一等星だ。だから、もし赤と青ならオリオン座(オリオン)、青同士なら南十字座クラックスで間違いない。

おばあさんの回答は……

「確か……女は青っぽい色で、男はオレンジっぽい色だったねぇ……」


……えっ? ……男はオレンジ?

4つのどれにも当てはまらない……

悠介を星に還したのは翔と夏美じゃないって事?

男女の(ペア)は、その2人以外いないはずなのに……

だったら、その2人って一体誰なの……?

私は一等星の事には詳しいはずなのに、何を見落としてるの……?

「そろそろ帰ってくれないか……? もうすぐ新しいドクターが来る頃だからねぇ……」

「あっ……すみません。お邪魔しました」

私達は急いでその場を後にする。


オリオン座(オリオン)でも南十字座クラックスでもない……でも男女のペア……一体どういう事……? 他にどんなペアが存在するっていうの……?」

知っているはずなのに思い出せない……そのもどかしさが、私の心に焦りを生む。

「レグルス、少しは落ち着いたらどうだ? 焦れば焦るほど、正しい判断が出来なくなるぞ」

「すみません……」

「それに、君にはリギル・トリマンの件があるだろ? こっちの事は、それが片付いてからでも遅くないと、俺は思うよ」

「そういえばそうでしたね。でも、もう少しだけ聞き込みをしていきましょう」

「君がそうしたいなら、俺は反対しないよ」

私達はもう暫く情報収集を続ける事にした。

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