女神・ツィーナフがくれたClue
意識を取り戻して目を開けると、転生前の時にいた宇宙空間みたいな景色の場所にいた。
転生前とは違い、私の容姿はセレスチャルソルジャー・レグルスのままだった。しかし、何故か一糸纏わぬ生まれたままの姿になっており、身体から青白い光を発している状態で宙に浮いていた。
「何で私、ここに……? それに、この姿……」
「セレスチャルソルジャー・レグルス」
名前を呼ばれ、声のした方を向くと……
「フフッ、またお会いしましたね」
フワッとした長い銀髪にエメラルド色の瞳をした天女のような白一色の衣装を纏った美人な女性と、熊にも犬にも見える大きな生き物がそこにいた。
「ツィーナフさん……プラウ……あの、何で私は裸になって光ってるんですか? 何で私はここにいるんですか?」
「この空間では、転生者は私と会話出来る代償として、一糸纏わず星のように発光した姿になるのです。そして、あなたがここに来た理由は2つあります。1つは、あなたが同じ転生者を殺したから。もう1つは、一部の転生者の動きとアルティメットポラリスの情報をあなたに伝える為です」
転生者を殺した……確かに私は、カペラ改め中川玲央を殺した。彼をメッタ刺しにしたり、一等星を破壊したりした感触が、今でも身体に残っている。
でも、それでこの空間に呼ばれるってどういう事だろう?
「レグルス、右手をご覧なさい」
ツィーナフさんにそう言われて、いつの間にか握られていた右手を見ると、指の隙間から黄色い光が漏れていた。更に指を開くと、黄色く光る球がそこにあった。
「これって若しかして……カペラ?」
「そうです。殺された者に宿っていた一等星は、殺した者に託されて私の許に現れるようになっているのです。レグルス、カペラを私に」
「ちょ、ちょっと待ってください」
無論私は、素直にツィーナフさんにカペラを託すつもりでいた。しかし、どうしても気になる事があったので一旦保留する。
「1つだけ聞きたい事があります」
「何でしょうか?」
「リオーネの国王様から、魔物の素が星の核であると教えられました。という事は、一等星も何れはその標的にされてしまうんですよね? もしそうなったら、取り返しの付かない事態になり兼ねないんじゃ……」
一等星の核が狙われたら、これまでとは比べものにならないほど巨大且つ強力な魔物が作り出されてしまう……そうなれば、私を含めた転生者ですら敵わないのでは……そういった懸念が、私の中でずっと燻っていた。
この懸念に対するツィーナフさんの回答は……
「そう考える方が現れても不思議ではないと思っていました。しかし、その心配は全くありませんよ」
「えっ……? ほ、本当ですか……?」
「はい。全ての一等星は、私の加護を受けていて、あらゆる邪な存在をも撥ね除けられます。あなた達セレスチャルソルジャーが不死身でいられるのも、私の加護のお陰なのですよ」
「そ……そうなんですね……有難う御座います」
ある意味、ツィーナフさんがずっと助けてくれているんだ。女神様ってやっぱりすごいんだなぁ……
私は、心の奥底から感謝の意を伝える。
「その加護がある以上、一等星が魔物の餌にされる事は決してありません。私自身が保証します」
「そうですか。それを聞いて安心しました」
ホッとして微笑んだ私は、改めてカペラをツィーナフさんに託した。
目の前で浮遊するカペラを見詰めて、ツィーナフさんは両腕を広げ、呪文を唱える。
「カペラよ……馭者座の加護を受け、あるべき姿を取り戻し、天球に再び輝きを与えん……!」
唱え終わると、カペラは眩い光を発しながら、凄まじい速さで高く飛んでいった。
「これでカペラは、本当に星として還りました」
「カペラだった玲央も、ここに来てアルデバランを星に還したんですね」
「実は……還った一等星は、その2つだけではないんです。それが、あなたがここに来たもう1つの理由です」
「えっ……?」
確か、一部の転生者の動きとアルティメットポラリスの情報を伝える為だったよね。
でも、還った一等星が2つじゃないって……少し嫌な予感がする。
「ここからの話は、21人の中で最も多くの想像の力を語ってくれた、あなただけに教える情報です。あなたの事は一目置いていますので特別ですよ♪」
あの時のように可愛らしくウインクをするツィーナフさん。やはり、ほんの僅かにドキッとする魅力がある。
「まず一等星の中には、1つの星座に2つ存在する物があります。何であるかは、興味のあったあなたなら、当然分かりますよね?」
「はい。オリオン座のベテルギウスとリゲル、ケンタウルス座のリギルとハダル、そして南十字座のアクルックスとミモザです」
「ご名答。では、初めてここに来て転生の儀を行った際、3組のペアがいました。その方達が先程挙げた一等星の力を授かったというのは……」
「何となくですが、そうだろうなとは思ってました」
「その3組6名の動向なのですが、星座と一等星は詳しく申し上げられませんが、1組は常に2人で行動し、1組はアルティメットポラリスを早く見つける為にバラバラに行動し、1組は……裏切りによって片方が星に還ってしまいました」
「……っ!?」
ある程度予想していたとはいえ、やはり驚きは隠せない。私が転生する前に危惧していた事が現実化してしまったのだから。
「やっぱり……裏切り行為があったんですね……」
「えぇ、残念ですが」
「でも、それが私のクラスメイトなんです……」
まともなクラスメイトなんていないんだ。改めて強くそう感じてしまった。
「あ、あとアルティメットポラリスの情報ですが……」
「あっ……は、はいっ……!」
そうだ、こんな所で悲観している場合じゃない。真の目的はアルティメットポラリスなんだから。
「アルティメットポラリスは、その場に滞留せず、常に動き回っているようです。更に、一等星に無い色で輝いているようですよ」
常に動き回っているとなると、獲るのはかなり困難を極めそうだ。
一等星に無い色というと、緑とか紫とかかな……?
「なるほど……貴重な情報を有難う御座います」
私はお礼を述べて微笑む。
するとツィーナフさんは、とても興味深そうに私の顔を覗き込んでくる。
「な、何ですか……?」
「レグルス……今のあなた、随分と素敵な顔をされていますよ?」
「えっ……!? そ、そうです……かね……?」
「えぇ。初めてここに来た時と比べて、かなり変わりました」
「まぁ、見た目もすごく可愛くなってますしね……」
「気持ちも心做しか晴れやかになっているように感じます」
そう言われた私は、自分の胸に手を当てる。私には信じられる仲間がリオーネに沢山いる……そう感じるだけで、心の重荷が無くなっていってる。こんなスッキリとした気持ちは、転生前では一生感じる事は無かっただろう。
同時に、玲央に対して復讐してやったという達成感も心の奥底から沸き上がってきた。
「私、これからも天球界を魔物から全力で守り、そして誰よりも早くアルティメットポラリスを手に入れます。それと勿論、クラスメイトへの復讐も果たします」
ツィーナフさんを強い眼差しで見詰め、その決意を表す。その時の私の表情は、穏やかに微笑んでいた。
「あなたにはこれからも期待してますよ。では、意識を現世に戻します……プラウ」
「グヮゥッ!」
プラウが吠えると、私の身体から発せられている青白い光がその明るさを強くしていく。
「どうか最後まで生き残り、天球界を救ってくださいね」
そう言われた直後、一瞬にして視界が真っ白になり、私は意識を失った。
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再び意識を取り戻して目を開けると、私はデネボラさんに抱きかかえられて仰向けに倒れていた。国王様と王妃様も心配そうに覗き込んでいた。
「レグルス……!」
「意識を取り戻したようですね……!」
「心配したんだぞ……!」
私は、大丈夫ですと言わんばかりに身体を起こす。
「すみません、ご心配をお掛けして……今し方までツィーナフさんに会っていたんです」
「ツィーナフさん? あぁ、女神様の事か」
「はい。私がカペラを殺したから、星を還す為に呼ばれて……あと、アルティメットポラリスの情報も少しだけ教えてくれました」
「女神様は何と仰っていました?」
「アルティメットポラリスは、常に動き回っていて、一等星には無い色の光を発しているそうです……何色かまでは分からないみたいですが、私は緑か紫ではないかと踏んでます……」
「ふむ……動き回れるとなると、少なくともアルティメットポラリスには意思があるという事になるな。誰にも獲られまいという意思が……」
「しかし、一等星に無い色であるというのは、かなり重要な手掛かりですよ、国王様。レグルス、出来したぞ……!」
デネボラさんに褒められて、若干気恥ずかしくなってしまう。
「これで暫くは、リオーネへ侵入を試みる者はおらぬだろう。皆の者、よくやってくれた。今日はゆっくりと休息を取るが良い。後日、皆に褒美を与えるとしよう!」
「有難き幸せであります!」
その場にいる誰もが、国王様に敬意と感謝を表した。
そして、全員がゾロゾロと宮殿内へと帰って行く中、私はふと後ろを振り向く。
そこには、元々玲央だったと思われる灰か砂のような物が、地面に人型を作っていた。
誰からも弔われる事無く放置された亡骸……
程なくして、肌を優しく刺激する風が吹き、それは形を崩して遥か彼方へと飛ばされていった。
私はそれに向けて軽く手を振り微笑む。
「バイバイ……ゲスブリーダー……」
見えなくなるまで見届けて、宮殿内へと帰った。