プロローグ
コミュ障×虐め×無関心な親×事なかれ主義な教師=この世での居場所無し
こんな数式が成立する人間なんて、世界中探しても滅多にいないかもしれない。
でも、私こと松本紗綾は、見事に成立してしまうのだ。
幼少期から人付き合いが極端に苦手だった。見た目のコンプレックスもあった。そんな弱い仔羊を、狼達が見逃すはずもなく……
高校に入ってから、殴る蹴るは日常茶飯事。黒板消しで髪が真っ白になるまで叩かれて「婆」と罵られたり、バスケットボールのような硬いボールを脳天に何百球もぶつけられて気絶させられたり……
昼食時も、弁当の中身をゴミ箱や流しに捨てられるか購買部へのパシリにされるかで、1日たりとも碌に食事に有り付けず。
休み時間にトイレに入れば、個室に閉じ込められて、時間が来るまで、上からホースで水を浴びせられる始末。
勿論、誰にも相談しなかった訳ではない。でも、世の中の大人は誰もが狡かった。
自らの保身に走り、誰一人として私の味方にはなってくれなかった。
女手一つで私を育ててくれたお母さんは、学校に相談する事で、近所や同級生の親からあらぬ噂を立てられるのを恐れて、一切ノータッチを決め込み、先生達に至っては、加害者であるはずのクラスメイトの味方に付き、寧ろ被害者の私の方が悪いという雰囲気を醸し出していた。査定に響くのが嫌なのだろう。
そんな完全アウェーで、私は修学旅行のバスの中にいる。周囲から白い目で見られているのを五感で感じながら………
外はすっかり陽も落ちて真っ暗だ。これから宿泊先のペンションへと向かうのだが、その途中の道の駅のような所でトイレ休憩となった。
私はバスの中で、あってはならない事を考えていた。
自殺する事だ。
ペンションに着いたら、どこかに置いてあるポリタンクをこっそり盗み、中の灯油をペンション中にぶちまけ、私自身にも浴びせ、火を放ってペンションと共に焼身自殺……
そんなに私の存在が迷惑なら、死ぬ時まで迷惑を掛けてやる。
そんな悍ましい事が頭に浮かんでいた。
なのに……まさか、あんな事になろうとは……
私を含めた誰も彼も、努々思っていなかった……