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勇者の孫ですが、この度嫁探しを始めることにしました。

「今日からよろしくお願いします。名はアレンと言います」


 ――冒険者たちで賑わう冒険者ギルド。そしてその奥にある、許可無く立入禁止という札の掲げられた個室の中、頭を下げる僕。――頭を下げたその先には、二人の少女。

 ハッとさせるほど美しいその子たちは、どちらも長い髪をしていたが――魔導師職の子はプラチナブロンドで少し気が強そうで、シルバーのような薄いブルーの髪をしたヒーラー職の静かなそうな子という、どちらかと言えば両極に近い二人だった。


 …………と、もう一人。その二人の肩に手を回しながら、僕のことを胡散臭げに見てくる黒髪で少し線の細い男。


「お前、本当にこのパーティに入れると思ってるのか?」


 頭を下げたままの僕は答えない。否、答えたくないだけなのだが。

 ……そんな僕を見て埒が明かないと思ったのか、僕を連れてきた〝騎士〟に語りかける。


「なあ、レオンハルト。正直言ってオレは新しいメンバーを募集するつもりなんてなかったし、かなり無理な条件を揃えていたはずだが? ……それなのになぜコイツはオレの前で自己紹介しているんだ?」

「こちらは巷でもかなり有名な冒険者のアレンと云う者です。実績、実力共に条件にも適合しておりましたゆえ――」



「……そんなわけないだろう! 十中八九嘘八百を並べ立ててるに決まってる!」


 と、僕に大声で叫ぶ男。奥とはいえ声が漏れたのだろう、あれだけ騒がしかったギルドが一瞬静まり返る。……すぐにいつもの騒がしさを取り戻したものの、このパーティに入るということは目立つということと同じなんだろうな、と諦めるしかなかった。


 それにはいくつかの理由があるが――最も大きい理由として挙げられるのは、目の前のいけ好かない黒髪が今代の〝勇者〟であり――

 ――――今、僕が入ろうとしているのが〝勇者パーティ〟だ、ということだろう。


 デカイ声で喚き散らす今代の〝勇者〟――名前はユウキというらしいが――威張り散らすヤツに頭を下げるのは、僕に勇者パーティに入るよう拝み込んできた張本人の騎士、レオンハルトだ。


「今の勇者様の戦い方では少し危うい場面が御座います。このまま進まれると幹部クラスに苦戦する可能性がありますので――」

 と、レオンハルトがフォローに入るが〝幹部クラスに苦戦〟という部分がかえって仇となる。


「……お前はオレが幹部ごときに負けると言うのか? オレは今代の〝勇者〟だぞ?」


 レオンハルトと僕を低い声で威圧し、睨みつけながら、テーブルの上に足を乗せる勇者。

 ……その腰には勇者しか扱えず、一太刀で大地を割ったという言い伝えがあるほど強力な武器である〝聖剣〟が刺さっている。――使う者を選ぶという伝説の剣。その使用者は代々異世界から召喚された者と決まっている。


 ……そんな強力な武器を持ち、約百年ぶりに存在が確認された〝魔王〟への唯一の切り札となるはずの男はレオンハルトに吐き捨てる。


「オレには〝聖剣〟がある。……それになによりアリスやシスティが側に居る。彼女たちが居れば万一にも幹部ごときに負けるわけがない」


 名前を呼ばれた二人はそれぞれ両脇から熱のこもった視線を勇者へと向ける。その様子を見る限り、どうやら目の前の美少女二人が異世界から召喚された勇者にご執心だ、というのは噂だけではないらしい。……〝賢者〟のアリス、〝聖女〟のシスティといえば勇者パーティの要とも言える存在で――そして勇者の〝ハーレム〟要員だ。


 この勇者、正直言って強さは歴代でも下から数えるほうが早い。が、顔だけは良いので称号も相まってやたらとモテる。……羨ましい限りだ。



「ですが、勇者様はあまり戦いに慣れておられない様子。この者は冒険者としてあらゆる難度の討伐などを成功させており、その能力は一流であることに間違いは……」

 とレオンハルトは食い下がる。が、


「要らんといったら要らん! どうせハッタリで替えの効く〝ただの冒険者〟だろう? このオレみたいに替えの利かない〝唯一〟なんかじゃない!」


 勇者はそう言って一蹴し、テーブルの上に用意された酒を飲み干した。

 ……威張り散らす上に癇癪持ち。その上昼間から仕事(魔王討伐)もせずに酒飲みかよ、最悪だなあ。と、第三者の目線で目の前の勇者についてどこか冷めた目で見ながら、僕は口を開く。


「必ずお役に立ちますので、どうかパーティへの加入を認めていただけませんか。勇者様」


 〝ただの冒険者〟とコケにされても、僕はあくまでもこの勇者パーティへの参加を望んだ。……それがたとえ勇者とこのパーティに虐げられる生活の始まりだったとしても。



 * * *


 ……僕は今まで、色々なパーティに参加してきた。あるときはドラゴンスレイヤーを目指すパーティ。あるときは古代遺跡に残る古文書を探すパーティ。そしてあるときは……と、そうやって生きていくうちにいつの間にか〝最強の便利屋〟と呼ばれるようになっていった。

 前衛である剣士も、後衛である魔導師も回復役であるヒーラーも、戦闘職だろうと非戦闘職だろうと難なくこなしてしまう――それが冒険者達に〝便利屋〟と言われる所以だった。……まあ、それだけでもないのだけれど。


 そんな風に色々な職で色々なパーティを転々としていたある日、どこからか噂を聞きつけた男が僕の前にやってきた。

 その男は「貴方しか出来ない仕事をしてくれませんか」と土下座までして僕に頼み込んできた。……それが、レオンハルトとの最初の出会いだった。


 ――自由に自分のしたいことを決めそれに向けて努力してきた自分にとって、他人に強制されるような生き方は息苦しいし、向いていない。少なくとも、頼まれた最初の頃はそう思っていたし、そう言って何度も断った。

 だが、何度断っても拝み倒してでも僕を仲間にしたい、という熱意に負ける形でその頼みを受け入れることになった。


 しかし、それは表面上の話。

 ……僕は単に、ずっと目標にしていたことがもしかしたら達成できるのでは、と。そんな打算からだった。


 ――勇者パーティのメンバーなら。〝便利屋〟と呼ばれ、冒険者たちのトップクラスにまで上り詰めた自分でも達成できなかったことが。



 …………超絶美少女で尽くしてくれる嫁を見つける、という超高難易度な人生の目標を遂に達成できるのではないか、と。




 ……ただ、そう思ったのだ。



 * * *



「必ずお役に立ちますぅ……? そんな言葉が信用できるわけ無いだろ!」

 と勇者にバッサリと切り捨てられる。昼間っから酒飲んでるお前に言われたかないよ、という言葉を寸前で飲み込み、笑う。……少し引き攣っていたかもしれないが。


「紹介に与った通り、勇者様ほどではありませんが強力な魔物を退治してきた経験があります。……もちろん、その知識や対処法なども全てお教えすることが出来ます」


「……だからなんだ? お前をオレのパーティに入れて欲しいと? ……そんなヤツはごまんと居るんだ。なんやらの魔物への攻略法を知ってるだの薬草がどうだのってな!」


 ……そう言って撥ね除ける勇者。最初から僕を受け入れる気なんか更々ないしその予定も無いんだろ、と思いつつも、参加を承諾してしまった手前、こちらから辞退したいとは言えないし――なによりまだ見ぬ嫁のためだ――と思い、ぐっと我慢する。

 隣にいる男(レオンハルト)は僕の実力をある程度調べているようなので、あまり下手なことはしてこなかったのだが……と思いつつ、この勇者は情報というモノの価値の重さを理解していないのだと十分に分かった。

 ……だから〝わざわざ〟言ってやった。この男と関わらないようにするために。


「しかし、情報は時に勝負を左右します。知っているのと知っていないのでは天地の差があるのです。特に魔王などという恐ろしい敵に対しては」

「――だから『ボクをパーティに入れてください』ってか? んなことオレが認めるかよ。……ってかずっと思ってたんだけど」


 飲みかけのジョッキをごん、と机に置く。


「……レオンハルト。お前もいい加減ウザいわ。『幹部クラスを追う準備として――』とか言ってよく分からねえ冒険者を連れてくるしさ。お前がこのパーティで一番の〝お荷物〟だって気づかねえのか?」


 そんな勇者の言葉に、そうよ、そうですわと周りのハーレム要員たちもここぞとばかりに責め立てる。

 ずっと僕に向いていたはずの非難の矛先がいきなり向いてきたレオンハルトは、突然の展開についていけないのかただ固まるだけだ。


 そんなレオンハルトの様子に、勇者は畳み掛ける。



「なァ、そいつは〝役に立つ〟んだよな? 戦い方も知らねえ勇者のオレよりよォ……?」


 レオンハルトは答えられない。





「…………だからさ、自称〝役に立つ〟冒険者のソイツ連れてこのパーティ抜けてくんね?」


 そう吐き捨てて、酒で赤くなった頬を隠そうともしない勇者は仲間である二人の美少女を連れてその場を後にする。



 ……残されたのは、勇者たちに〝お荷物〟だと罵られ、絶望するお堅い騎士団長サマと――



 ――〝便利屋〟と呼ばれたただの冒険者(勇者の孫)だった。


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