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星界のアーティファクター

 「愛してるよ、リン」


 「え、うん、ありがとう兄貴」


 「どうすれば、この想いが伝わるかな」


 「とりあえず、毎朝、私の寝顔を見る変な癖やめよう?」


 「無理。リンの寝顔は天使だ。じっくり鑑賞できるのは俺のとっけんブボアァ!?」


 リンが覆いかぶさってきていたケイの腹に膝蹴りを叩き込む。思わぬ衝撃にベットからもんどり転げ落ちるケイ。


 「毎朝、うざい!!! もうちょい普通に起こせない?」


 「ちょ、朝食の用意が出来たよリンちゃん」


 「最初から普通にそう言えばいいでしょ」


 怒鳴りながらリンは寝間着を脱ぎ捨てる。贅肉が一切ない、引き締まった筋肉美が露わになる。小麦色の肌には細かい傷が無数に刻まれていたが、造形美を損なうよりも際立させていた。漆黒のバトルスーツに袖を通すと引き締まった曲線美がさらに強調される。


 悶絶しているケイを引き釣りながら寝室ルームを出て食堂へと向かう。


 「それで、今日の遺跡(えもの)の難易度は?」


 「A…級…かな。未盗掘っぽいから、遺跡の規模からの推測だけど」


 ケイは空中へ遺跡の画像を投影させた。遺跡と言っても、石造りの古めかしい造りではない。銀の光沢に包まれた塔が何本も建ち、過去に栄華を誇ったであろう華美な装飾の名残りがところどころにある建物だ。リンは切り替わる遺跡の外観を観察しつつ、侵入経路を探す。


 「迎撃装置は無さそうね。難易度高くてもS級かなぁ。SSS級ってことはないと願いたいわね」


 「そんな危ない仕事は引き受けないよ。SSS級遺跡を単独攻略できる遺跡発掘者(アーティファクター)は銀河共和国でも数えるほどだし」


 リンが攻略可能なのはS級までだ。観察を続けながら食堂へ入ったリンは、スパイシーな肉の香ばしさに気づき画像を閉じる。テーブルの上にはステーキにサラダ,コンソメスープにライスが用意されていた。リンの朝食は必ず肉類である。肉はエネルギーの源、いつかは銀河中の肉を食べつくすのがリンの夢だ。


 「美味しそう、何の肉かしら?」


 --モモンガ星の竜脚類クイダオーレの肉です。


 航宙船ガンドゥムの統括AI(ルリ)が回答する。ルリはガンドゥムの炊事・洗濯から操縦・医療メンテナンスなどまでこなす万能型AIである。


 ステーキを口の中に入れると、リンは空中を見つめ頬をだらしく緩める。


 「うんまーい。柔らかい歯ごたえ。噛めば噛むほど肉汁があふれて、肉を優しく溶かしていく。鼻を通る上品な香りが旨さを更に引き立たせるわね。相変わらずいい仕事するじゃないルリ」


 ーーお褒めいただき光栄です。


 瞬く間に料理を平らげ、豪快に食後の麦酒を飲み干す。いつも見慣れている光景とは言え、リンの豪快っぷりにケイは一応ながら忠告する。


 「あのね、リンちゃん、一応これからお仕事って時に麦酒を飲むのはどうかと思うんだ」


 「食後の余韻をぶち壊すこと言わないでよね。麦酒一杯なんて水と同じよ」


 椅子を軽快に立ち上がり、さっさと廊下へ出る。向かう先はダイビングルーム。歩きながらルリから提供される遺跡探索用の道具を装着していく。ゴーグルを着用した時にはダイニングルームの扉が目の前にあった。扉の前にあるスカイスーツを引っ掴みマントを羽織るよう広げると、スカイスーツが自動的にリンの体を覆っていく。ルームに入り、監視カメラに向かって告げる。


 「船の現在位置は?」


 コックピットにいるケイが応答する。


 「遺跡の上空三千メートルで停泊中だよ」


 「分かった。じゃ、行ってくる」


 スカイルームの床が開く。


 リンが高度三千メートルの空へと放り出された。


 空中で回転し頭を下に向け、一気に落下スピードを上げる。


 衣服が波打ち、耳元で轟音が鳴り響く。猛烈なスピードで落ちながらも、ゴーグルの倍率を上げ周辺状況を確認する。高度五十メートルまで落下したところで、スカイスーツの羽を開く。一瞬、身体が浮く錯覚に陥る。落ちる方向を操り遺跡の周辺を三周する。用心深く周辺を観察し、遺跡の頂上へと降り立った。スカイスーツを収納しつつ、ロープを取り出す。足元にロープの端を放ると、自動的に端が固定された。


 「さて、行きますか」


 ロープを掴み遺跡の外へと身を躍らす。円弧を描くように落下しながら、ロープを握る強さで降下位置を調整する。画像と上空から観察した時に定めた穴へと飛び込む。バランスをとりながら着地し、即座に腰の短銃を引き抜く。用心深く穴の中、否、部屋の中を観察する。部屋の中には埃をかぶった古びた椅子や机が転がっていた。


 「ルリ、解析開始(アナライズ)


 ゴーグルの小型通信機でルリに指示しつつ、腰のポーチから黒い筒を取り出し床に置く。筒の先端から緑光が放たれる。光は建物全体を透過し、十秒後、解析結果がゴーグルに映し出された。


 ーー解析終わりました。大半の物は既に発見されている遺物と同じです。ただ、複数の部屋でデータと一致しない形状の遺物あり。オーパーツの可能性があります。また、最下層に透視不能な部屋があります。


 「ほうほう、そこが一番怪しいわね。まずはソコから頂きますか。最下層への移動手段は?」


 ーー部屋を出て右手に最下層への直通路があります。


 「ガーディアンは?」


 ーー反応はありません。


 「不気味ねぇ。どの遺跡にも複数体いるのに。兄貴、どう考える?」


 警戒は解かずに短銃を構えながら部屋を出る。時折、外から吹き付ける風がわずかに空気を揺らすが、廊下に積もった埃を舞い上げるほどではない。廊下にリンの足跡が点々と残る。


 「三つほど考えられるね」


 「聞かせて」


 「一つ目は既に発掘済み。でも、遺跡が発掘されたという報告はない。二つ目は盗掘だけど、裏ルートで盗掘でない事を確認済み」


 「三つ目は?」


 「一番最悪かな。その遺跡にはラスボス的なガーディアンがいる。しかも、通常のガーディアンを全滅させるほどの実力者たちを返り討ちにするほど強力なね」


 「全滅だという根拠は?」


 「仕入れた情報は未盗掘。つまり、情報的には誰も手を付けていない」


 その言葉に思わず足元に目を凝らす。気づけば、埃にはわずかな濃淡があった。規則正しい濃淡。複数人の足跡だ。自分に自信のあるものほど、怪しい部屋から真っ先に調べる。そこに一番価値あるお宝が眠っているからだ。この遺跡で言えば最下層。


 果たして、足跡はリンの向かう先と一致していた。


 つまり、先客はリンと同じものを狙って全滅した。


 そこに思いっ立った時、リンの全身に鳥肌が立ち震えが走る。だが、リンの顔には笑みが浮かんでいた。最下層に続く直通路へ一気に駆け出し、直通路の扉を開ける。


 猛烈な風が吹きつけてきた。


 直通路は底が見えない漆黒の穴。


 気のせいか風が大型獣の唸り声の様だ。


 「ルリ、この穴の深さは?」


 --およそ五百メートルです。

 

 「ロープの長さが足りないわね。しょうがない、フリークライミングで降りるか」


 リンが手袋を嵌め直した時、風の音に微かに機械音の様なものが混じり始めた。音に気づいたリンの顔が引き締まる。


 「ルリ、何の音か分かる?」


 ーー穴の壁に複数の熱源を確認。おそらく侵入防止用のレーザーが稼働し始めた模様。


 「つまり、遺跡に気づかれか」


 言うなりリンは穴に身を躍らせる。命綱もスカイスーツもつけていない。暗闇の中にリンの姿が呑まれていく。落下しながらゴーグルの暗視装置を付け周りを観察する。


 上を見上げれば赤い線が無数に走っている。もたついてたら、直通路からの侵入は断念せざる得なかった。


 下を覗き込めばうっすらと床の様なものが見える。だが、猛スピードの落下では正確な距離が把握できない。このままでは激突必至である。


 「ルリ! 高度カウントよろしく!!!」


 ゴーグルからの映像をルリに解析させ、耳元に高度を報告させる。次々と告げられる高度を聞きながら、タイミングを計る。


 ーー残り距離百メートルです。


 リンは壁に向かってロープの片端を投げつける。片端が壁に吸着しロープが張られる。ロープを掴む力を強め徐々に減速を試みる。急激な摩擦により手袋とロープの間から煙が発生する。なんとか減速は出来たが、完全には勢いを殺せず派手な音とともに着地した。


 「ふぅ、ギリギリセーフね。てか、あっつ、もう数秒落ちてたらグローブが焼きちぎれてたわ」


 手の平を振りつつ、ゴーグルのライトで回りを照らす。


 複数の白骨化した遺体が転がっていた。


 その周りには遺体の倍の数の壊されたガーディアンの残骸。


 目を凝らせば床や壁に銃弾や斬撃の痕跡がそこかしこに刻まれていた。


 「兄貴の予想的中っぽい展開」


 目を引いたのは遺体と残骸の形状である。上半身と下半身、左半身と右半身などが綺麗な断面で斬られている。残骸には先客たちが撃ち込んだ銃弾の跡などもあったが。その断面を確認したリンが改めてケイの言葉を思い出す。


 「ラスボスか」


 背筋に走った悪寒に従い思わず身を伏せた。リンの上半身のあった位置を水平に何かが薙いで行った。即座に天井へ閃光弾を放つ。


 二つの大鎌を構えた漆黒のドレス姿の無表情な少女が立っていた。


 「ルリ、あれは?」


 ーー五千年前の大戦を終結させた失われた最終兵器の一つ「死神少女」です。


 「マジか。つまり、この遺跡の難易度って」


 --SSS級です。


 「逃げろ、リン!」


 ケイの悲痛な声が響く中、死神少女が床を蹴った。

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