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転生仲介神の転生事情

 「貴方にスキル【真似事】を贈呈します」


 そう神が告げると、喜びを全身で表現をして男性は踊っていた。しかし、何かを疑問に感じたのか、踊り出す身体を停止させて険しい表情で神に振り返る。


 「ちなみにそれは、相手の技術とか必殺技をコピーできるって事ですか?」

 「左様です」

 「もしかしてそれは、魔王とかの技もコピーできるのですか?」

 「勿論です」


 質問を終えると、表情はまた一変。満面の笑みを浮かべて、再び踊りだした。


 「塚橋 尚人様 貴方はこれより【真似事】のスキルを持って異世界へと転生します。不慮な事故で30歳という若さで亡くなってしまった事は、ご愁傷様でした」

 「いえ、ただ酒に溺れ、妻には逃げられ……ロクな人生では無かったですからね」


 そう嘆いているが、塚橋は路上に飛び出した子供の身代わりとなり、交通事故で亡くなってしまったのだ。その功績は転生するに値する。


 「貴方は、これから異世界へと転生し、貴方が望む新しい人生を歩んでください。人を助けるも、人を貶めるも、世界を救うも、世界を壊すのも、貴方の自由です」


 その言葉に、塚橋は涙を流し深々な一礼をした。そこで神は転生の詠唱を呟く。

 すると、塚橋の足元には大きな転生陣が光の輝きと共に現れ、空へ消えていく無数の小さな光に溶け込むように、消えていった。


 「貴方に、幸あれ」


 神は空に消えていった光を目で追いながら胸に手を当てて、幸運を祈った。


 ******


 「おっす、フィナ終わった?」


 真っ白な部屋に聞き覚えのある声が響く。

 ふと背後から聞こえる声に振り返ると、僕の一つ上の先輩、ウルズさんが片手を上げて歩いてくる。


 「今日はこれで終わり?」

 「えぇ。スケジュールだとこの人が最後でしたね」


 そう伝えると、先輩はニカッと笑った。

 小さな顔に出来上がる笑窪は、その笑顔をより一層可愛らしく飾る。


 「んじゃ、飲み行きますか!」

 僕は先輩連れられ、行きつけの飲み屋へと連れ去られた。


 ----アトランティス12区。


 12区は所謂飲み屋街だ。

 昼間は静かなシャッター街。しかし、夜になれば店の灯りで街は輝きを得る。オープンしたばかりの早い時間にも関わらず、人で溢れかえっていた。

 飲み屋街の路地を入った、角から四番目のお店「アラタバ」

 偶然空いた席に、僕と先輩は腰を落とす。


 「フィナは何飲む?」

 「サナーで良いです」


 サナーとは、甘酸っぱい果物の果汁100ジュースだ。疲れている身体に、ラガーは厳しいところがある。そのためサナーを頼もうとしたのだが、先輩がそれを許さなかった。


 「駄目よ! あなたラガーを飲むのよ」

 「……これが俗に言うパワハラですか」

 「ねぇ、フィナぁ。のもうよぉ~」


 駄々を捏ねる先輩の可愛さに、思わず「はい」と返事をしてしまった。押しに弱いなぁ僕は。


 「よしゃ、すいませーん。ラガー二つで」


 キッチンに目を向けると、店主がこちらに向けて親指を立てていた。流石、適当で有名な店主だ。


「聞いてよフィナ。今日私が担当した男性がいたんだけど、転生先間違えちゃってさ」


 突然の告白に思わず水を吹き出してしまう。

 何故なら「転生先を間違えた」だなんて、軽く言って終われる問題じゃない。もし、上級神に知られれば首はおろか、神の職すら降ろされてしまう。


「だ、大丈夫なんですかそれ!?」

「大丈夫大丈夫、書類改ざんしといたから」

「信用問題!!」


 僕の反応をけらけらと笑う先輩に、呆れて深い溜め息が漏れる。相変わらず仕事が適当過ぎるーーーーーが、先輩は上級神からも一目置かれる優秀な神だった。


 それに比べて僕は………


「聞いたよ、フィナ。最近調子が悪いみたいね、転生先が相手の意見の一致していなかったりとか」

「………さすが先輩。情報が早いですね」

「まだあの子の事、気にしてるの?」


 先輩に図星をつかれ、僕は俯いて黙り込む。

 昔、それも数十年前の話だが僕は一度大きな過ちを犯した。


 ある日、交通事故で亡くなった男性が最上級神の審査の結果、転生の資格を取得。

 その男性の担当が僕だった。


 その男性は病を抱えていた。

 死んでもなお、記憶がある限り抱え続ける心の病だ。目が虚ろで、細みの身体にボサボサな髪。

 一目見て、彼は普通じゃないと悟った。


 早く終わらせよう、そう思った僕は彼に制度の選択をお願いした。この転生制度はいくつか希望選択ができて、それを選んで転生が出来る。


 1【転生前の記憶を残すか、残さないか】

 2【どこへ転生したいか】

 3【どんなスキルが欲しいか(転生先によって希望通りにならないこともある)】


 そして、彼は言った。


「どこでもいい、なんでもいい。ただ、この記憶を消してくれれば」


 虚ろな目をした彼は、僕にそう訴えてきた。

 だから彼の記憶を消して、転生先はゆったりできる場所を選んだ。

 彼は最後、涙を流しながら何度も「ありがとう、ありがとう」と言葉を残して転生された。

 不幸な人生を歩んだからこそ、幸せになって欲しい。僕はそう心から望んだ。



 ーーーーしかし、そこで僕は重大なミスを犯してしまった。


 早く終わらせようと注意が散漫していた結果だろう、彼の転生先の書類と犯罪を犯した人の転生先の書類を間違えて手続きしてしまったのだ。


 ゆったりできる転生先に犯罪者が。

 地獄で悪夢のような場所に彼が。


 犯罪者は、その転生先で【全知全能】のスキルを使い悪事を働いた。

 彼は、生前の記憶を持ちながら地獄を彷徨い続け………数日後、自殺した。


 一度転生してしまったものは、取り消し変更は不可能であり、対象者が死亡しない限りその世界からは出られない。


「あの事件はね、上級神が犯罪者の転生書類と彼の転生書類を一緒に渡したのも原因なのよ。貴方のせいって訳じゃないわ」

「…………」


 そう先輩は励ましてくれるが、僕の口からは何も言葉が出てこなかった。


「ねぇ、フィナ。あくまで私達は転生の仲介人なのよ。転生後も多少サポートはするけども、気に病むまで感情移入してはフィナの心体が保たないわ」

「分かってるんですけど……生前の書類見ちゃうと、どうしてもこの人には幸せになってほしいって思っちゃいますよ」


 先輩に笑顔でそう答えるが、今の僕はきっと引き攣った笑顔をしているだろう。上手く笑えていない、そんな気がした。


「……フィナ」


 心配そうに見つめる先輩に、思わず視線を逸してしまう。店のざわめきが、僕らに流れる沈黙を和らいでくれる。


「大丈夫ですよ先輩! どこかの神のように転生者に連れて行かれたり、武器に変えられたりしないので」

「あれこそ例外よ、前なんてね………」


 先輩はまた笑顔に戻り、話を続けた。

 楽しそうに話す先輩の事を僕は大好きだった。

 神の僕が言うのもあれだが、先輩とは天地の差ほど釣り合わない。

 そんな先輩は、地の存在の僕をよく飲みに誘ってくれる。それが僕の心をどれだけ癒やしてくれているか。


 数分後、ラガーがテーブルに届き、乾杯をして飲もうとしたーーーーーその瞬間。



 ピピピピピピピピピ



 店内に鳴り響く通知音。

 紛れもない、それは僕から鳴っているものだった。

 宙に浮かぶ画面をタッチして、僕はその通知文章に目を通す。


「「転生者の対応について」……これから!?」

「なんで!! フィナ今日の分は終わった筈よね!?」


 確かにスケジュールだと、本日は終わった筈……。

 先輩は、僕の代わりに素早く上級神に連絡を入れて確認してくれた。その様子を隣でジッと待つ。

 連絡を終えた先輩は、ゆっくりと振り返り僕に告げる。


「緊急転生者……らしいよ」

「緊急転生者!?」


 緊急転生者とは、最上級神が審査無しに突然転生を許可した者の事。

 それは何百年に一回、あるか無いかなのだが。


「なんでフィナが……」


 それは僕自身も抱いている疑問だ。

 そんな重要な依頼をなぜ僕が……?


 ピピピピピピピピピピ


 再び鳴り響く通知音。

 次は催促の通知だった。


「もう準備しろって……先輩すみません、行ってきます」

「フィナ待って!」

「ラガー、今度ご馳走しますからお会計お願いします!」


 そう言って僕は店を飛び出した。

「気を付けてね」という先輩の言葉を糧に、僕は飲み屋街を駆け出す。


 *****


緊急転生者の少女は、洋服はボロボロに破れ、髪は地面に到達するくらい伸びている。細身の体に、どこかで見たことのある虚ろな目。「何も要らないから、記憶を消して」と願う。

それはあの男性と同じ台詞だった。


フィナは少女を転生させるが、記憶を消すことはしなかった。


これは一人の少女を転生仲介神のフィナがサポートする物語。


何故、彼女が緊急転生者として現れたのか。

何故、フィナが担当に選ばれたのか。


それを知るのはまた少し、先の話。

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