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5th泥棒

アイスクリーム屋に突然来られなくなった小林杏奈ちゃんには忙しいから連絡して来ないでと言われていた。


でも二人の脳内を覗くことが一段落したので、杏奈ちゃんに電話をかけてみた。


繋がらない。


私はチャラい有川快斗くんから逃げるように店内に戻り、木田良男くんと内海美雨ちゃんがいる席に戻る。


“自分で考えた言葉と意味を広辞苑に載せるのが目標なんだけど、今日ドアにぶつけてしまった肘が疼くな。花粉症も酷いし、肘の花粉症ボタンを押してしまったのだろうか”


“勇気を出せませんでした。無理でした。仲良くならないことには告白も出来ませんし、私のことを知ってもらえませんよね。もっと知ってほしいんですけどね。あっ、尊敬する林正子さんが帰ってきました”


「ごめんね。杏奈ちゃん忙しいみたい」


「あっ、そうですか」


今から私は二人をくっ付けるためのキューピッド作戦を開始する。


「なんか、木田くんと内海さんって似合ってるよね?戻ってきたときもカップルに見えたし」


「ブァッ」


内海さんと木田くんは落ち着いた表情をしていたが後ろから変な声がした。


気になったが振り向かずに内海さんの心の声を聞いた。


“あっ、もしかして私たちを付き合わせようとしてくれているのですか。なんて優しいのですか。ありがとうございます。林さんは木田くんを諦めたということなのでしょうか”


「カップルですか?そう見えているなんて嬉しいです」


“海藤芽亜莉ちゃんが僕のことを好きじゃないことは知ってたけど。茂庭みつはちゃんは僕のことが好きなのか?将来の大物歌手の茂庭みつはちゃんは僕のことが好きなのか?あとで似顔絵ジグソーパズルをプレゼントしてみようかな?”


後ろが気になったので振り向くと典型的な変装をした人がアイスクリームを一人で食べていた。


興味があったので、ついその人を見つめて、考えを聞いてしまった。


“マサちゃん、何してるのよ。せっかく急用で行けないって嘘ついてマサちゃんと木田くんを仲良くさせようとしたのに。マサちゃんの気持ちをライクからラブに変えようとしたのに”


“何で内海さんが一緒にいるの。聞いてないよ。私とマサちゃんと木田くんの三人でアイスクリーム屋に行くって言ってたのに。しかも、二人をくっ付けるってどういうこと?”


変装していたのは、杏奈ちゃんだった。いったい何を考えているんだろう。とりあえず、アシストして二人をくっ付けることだけを考えることにする。


「内海さんは、何か好きなものある?」


「はい。女性アイドルが好きです」


「木田くんもアイドル好きだったよね」


「はい。少しだけ」


「二人相性も合うんじゃない。もっと話してみなよ」


「はい。木田くん!私と仲良くしてくださいね」


“嬉しいけど、右から左に大量の説明文がとてつもない早さで流れるだけのCMくらい理解が出来ないまま進んでいる気がする”


これで良かったんだ。二人とも大好きだから、二人が仲良くなってくれると私も嬉しい。恋人になりたいとかは全く思ってなかったから、これで良かったんだ。


「本当に、これで良かったって思ってる?マサちゃん」


私の頭の中と会話しているかのような声は後ろにいた杏奈ちゃんだった。


杏奈ちゃんが私と同じイヤホンを持っているかもしれないという説が真実味を帯びてきた。


「杏奈ちゃん、いたの?」


「いたの?じゃないよ。木田くんのことが好きなのに無理しちゃって。せっかく私が空気読んだのにさ」


「えっ?」


私はイヤホンのスイッチをそっと切った。考えを聞くことに頼っていちゃダメになる。


「林さんは木田くんのことが好きなのですか?」


「うん、友達として大好きだよ。内海さんも木田くんも杏奈ちゃんもみんな大好きだから」


「ありがとう」


考えを覗いて、それに合わせてても幸せにはなれないのだと気付いた。


考えは分からない方が面白いのだ。


「私ね、マサちゃんの思ってることがだいたい分かるんだ。友達の勘みたいなやつでね」


「そうなんですか。いいですね」


「美味しかったね。アイス」


「はい」


「また4人で来よっか?今度は最初からいてよ杏奈ちゃんも」


「私は他のところに行きたいけど」


「僕もです」


友達っていいなと思っていたら脳内をどろぼう出来るイヤホンのスイッチが間違って入ってしまった。


そこへ、さっき私に告白したチャラい有川快斗くんが勢いよく登場した。


「有川くん、どうしたの?」


有川くんが息を切らしている間に切りそびれたイヤホンから考えが耳に届く。


“林正子ちゃんのこと一度は諦めたけど、気持ちが抑えきれないよ。まだいるかと思って走ってきたらいた。本当に良かった。俺は林正子ちゃんと結婚したいんだよ”


今までのデータ通りだと、思ったことをそのまま何でも口に出してしまうので、これは空気が悪くなる。


そんなことを有川くんが言ったら楽しい雰囲気や笑顔が凍る。


喋る前にどうにかしなくちゃダメだ。


そう思っている間に有川くんは脳内通りに喋り出してしまう。


「林正子ちゃんのこと一度は……」


「あっ、私これから用事があるから帰るね」


有川くんは苦手だ。

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