4th泥棒
アイスクリーム屋に誘ってくれた小林杏奈ちゃんが何故だか突然来られなくなった。
だから、休日のアイスクリーム屋に私と私のことが好きな木田良男くんと木田くんのことが好きで私をライバルだと思っている内海美雨さんと来ている。
開店直後だというのに店内が見えない位置までのびた行列。
そこの最後尾に並びだしたときに木田くんと目が合った。
“目が合っちゃった、ヤバイ!海藤芽亜莉ちゃんって猫っぽいところもあって可愛いよな。ペットで飼ってる猫のリリアが海藤芽亜莉ちゃんに変身したらいいのにな”
私は変態の木田くんに話し掛ける。
「ジェラートとかソフトクリームとか種類色々あるみたいだよ」
「はい。そうみたいですね」
「私はアイスだと抹茶が好きかな。木田くんは何が好き?」
“相手の服を脱がせて下着姿にした方が勝ちのスポーツが見てみたいなみたいなことが浮かんできたから、質問を聞いてなかった。どうしよう”
すると内海さんが口を開く。
「私はチョコレート味が好きです。木田くんは、抹茶とチョコレートだったらどっちが好きですか?」
内海さんが『私と林さんどっちが好き?』と聞いている気がして怖くなった。
“好きなアイスの味を聞いてたのか。海藤芽亜莉ちゃん聞いてなくてごめんなさい。あと海藤芽亜莉ちゃんに靴を左右入れ換えるドッキリがしたいなとか思ってごめんなさい”
「僕はチョコレートが好きですね」
内海さんを見る。
“『時間があれば何でも出来る』という座右の銘を胸に林さんと恋の戦いをしていきたいと思います。林さんは尊敬していますけど木田くんは渡しませんよ”
30分ほど待ち、私は抹茶アイスを、内海さんはチョコレートアイスを、木田くんはバニラアイスを頼んだ。
椅子に座り、アイスを口に運ぶ。
「美味しい」
「すごく美味しいです。木田くんのはどうですか?」
「はい。美味しいですよ」
「杏奈ちゃんが来られないのは残念だけど来て良かったね」
「はい、林さん。機会がありましたらまた私たち四人で来ませんか?」
「うん、私はいいけど」
「はい。僕も」
“内海美雨さんも可愛いな。美雨ちゃんには『苦手すぎて逆に好き』みたいなこと言われたいな。美雨ちゃんも僕と同じピンクの靴だ。僕、ピンク大好きなんだよな。気が合いそうだな”
私は木田くんが好きだけど付き合いたくはないので、木田くんが内海さんに好意を持っていることに少しだけ安心した。
恋のライバルではなく二人をくっつけるキューピーになりたい。
私は物凄いスピードでアイスを食べ終えた。
「私、外で杏奈ちゃんに電話してくるからね」
「あっ、はい。分かりました」
“どうしよう、海藤芽亜莉ちゃんは積極的に喋りかけてくれるけど美雨ちゃんは、僕と同じくらい大人しいからな。『週刊このスーパーにはこれがある』という雑誌を作ってほしいくらいスーパーマーケットが好きだけど、そんな話をしてもな”
私は店の外に出たが、電話はかけずにかけている振りをしてドア越しから二人の頭の中を覗く。
内海さんの方を見る。
“私、勇気を出してください。積極的にならないと何も変わりませんから。命が刮げる覚悟で行くしかありません”
中学生とは思えない言動の数々に理解出来ずにいる私は怪しまれないように、ふと後ろを振り返ったが、そこには同じクラスの有川快斗くんがいた。
特に仲がよくもないし、仲良くなりたい訳でもないので電話をかける振りを続けた。
“あっ、林正子ちゃんだ。マジで可愛いじゃん。最近めっちゃ好きなんだよな。こんなところで会うなんて運命じゃね?”
チャラい男子に好かれてしまうという、あまり嬉しくない出来事に背を向けて木田くんに視線を向ける。
「あっ、林正子ちゃんじゃん。お前マジで可愛いな。最近お前のこと大好きになっちゃってさ。こんなところで会うなんて運命じゃね?」
「運命じゃないよ」
この、考えを聞くことが出来るイヤホンが役に立たない出来事が起きた。
ほぼ思っていることと喋っていることが一緒で電池の無駄遣いだ。
でも全く別のことを直前まで考えていて、発言するときにパッと切り替えられる方がおかしいのかもしれない。
“俳句が思いついたぞ。『窓凍る トイレで放つ あたたかみ』。うん、なかなか良い句だな。もうひとつ思いついたぞ。『早起きを 乞う母の敵 冬将軍』。これも傑作だ”
“私、勇気を出してください。何で勇気を出さないんですか。はやく勇気を出しましょうよ。はやく木田くんに話しかけるのです。このままでは林さんに差をつけられてしまいます”
相変わらずの二人は会話した様子がなく、相変わらずアイスを口に運んでいるだけだった。
「誰かとアイス食べに来てるの?俺と一緒に食べない?」
有川くんが私を誘ってきてしつこいので振り向いた。
「一緒には食べないよ。電話してるから静かにして」
“林正子ちゃん俺と付き合ってくれないかな。すごい好きなんだよな正子ちゃんのことが。誰か好きな人とかいるのかな?”
「林正子ちゃん俺と付き合ってくれないか?すごい好きなんだよな、正子ちゃんのことが。誰か好きな人とかいるのか?」
痛くない頭痛がするというか、のたうち回りたい気分というか、無頼派みたいな感じか気に食わない。
「好きな人はいるよ」
有川くんは苦手だ。




