3rd泥棒
昨日借りたノートを返そうと木田くんに近づいた。
辿り着く手前で、クラスで一番美しくてお淑やかな学校一の美少女の内海美雨さんと目が合った。
イヤホンのスイッチをオンにしていたので、内海さんの考えが私の耳に入ってきた。
“林正子さん凄いな。私も木田くんに話しかけたいけど、勇気でないから無理だし。林さんは木田くんのこと好きなのかな?私も頑張らなくちゃね。負けませんよ”
イケメンなのに無口で消極的な木田くんなので恋をする女子はあまりいないと思っていたが、アイドル並みの可愛さを誇る内海さんが恋しているとは驚いた。
でも木田くんは、私がさっき考えを覗いたときには、私に女王様役をやらせて誰かを罵らせるという罰ゲーム案を考えていて、そんなヤバい奴だということを知ったら冷めるだろう。
私はそれでも友達として好きだ。
“海藤芽亜莉ちゃんが近づいてきた。僕は海藤芽亜莉ちゃんに対して連日連夜廉潔恋慕だよ。連日連夜廉潔恋慕だからね”
聞きなれない早口言葉みたいな木田くんの言葉は、普通の中学生の私に理解など出来ない。
「ノートありがとうね。本当に助かったよ」
現代文の授業中に、脳内どろぼうに夢中でノートをとり忘れるミスをした結果、それを利用して仲良くなるきっかけが作れたので良かった。
「はい。また言ってくださいね。いつでも貸しますので」
「うん」
また木田くんの考えが聞こえる。
“こっちから話題を振らないとだな。何が良いかな?『これは嘘なんですけど、嘘って付けなくなったらしいですよ』みたいなのは引かれるだろうしな”
「木田くんはアイスとか好き?」
「えっ?はい、好きです」
“ウソでしょ?もしかしてアイスを一緒に食べに行こう的なこと?でも海藤芽亜莉ちゃんの方から誘ってくるかな?『俺の歯の治療に付いて来い』みたいな胸キュンフレーズを言うことも考えていたけど、言わなくて良さそうだな”
「あの、小林さんの家の近くにアイスクリーム屋が出来たみたいで、小林さんと一緒に行こうと思うんだけど、行ったことある?」
「行ったことありますよ。僕の家の目の前なので」
“ヤバイ、これは誘われないかもしれないぞ。勘違いだったかな?今、起きてほしい現象を回文で表すなら『勘違いが鎮火』だな”
「木田くん?アイスクリーム屋に一緒に行ってくれる?」
「は、はい。いいんですか?」
「うん。案内してもらおうかな」
「あ、はい」
“笑顔が可愛すぎて、誘われたのが嬉しすぎて、普段よく読んでるオジサンのキュンキュンする言動を主とした恋愛小説、通称『オジキュン』よりもキュンキュンした~”
喜んでもらえて嬉しいが、木田くんに恋をしていて私を勝手にライバル的存在にしている内海さんが、チラチラこっちを見ていた。
“私も行きたいな。やっぱり凄いよ林さんの行動力は。恋のライバルではあるけれど尊敬しています”
ライバルではないし、美男美女同士なので、二人が一緒になることは嬉しいことだし応援したい。
でも、内海さんとあまり話したことがないし、アイスクリーム屋に誘うほど仲が良くもない。
「木田くんまたね」
「あっ、はい」
私は内海さんに近付き、話し掛ける。
「内海さんはアイスクリームに興味ある?気になっているように見えたから」
「ごめんなさい、盗み聞きしてしまって」
自然と聞こえてくる声を聞くのは何の問題もないことで、頭の中の考えを盗み聞きしている私とは、比べ物にならない。
木田くんを見てみたが、どうやらお出掛けの時の話題選びに夢中のようだ。
“『Q.明日は昨日の三日後の前日より前ですか?後ですか?(A.明日とその日は同じ日です)』というクイズで場を繋ごうかな?あと「よいぞっ」を流行語にしたいから多用してみようかな?”
“それと『なんやかんやで結局は肌触り説』について延々と喋ろうかな?そうだ『このTシャツ毎日着てます』っていうプリントが入ったTシャツ来ていけば話すきっかけになるかもしれないな。たぶん緊張して何も喋れないけどね”
相変わらず面白い木田くんから、内海さんに視線を戻す。
「本当にごめんなさい」
「盗み聞きではないよ、大丈夫だから。内海さんも一緒にアイスクリーム屋に行こうよ」
「私が行ってもいいのですか?」
「うん」
「行きます」
“林さんは、広くて澄んだあの青空のような優しい方で益々好きになりました。私が木田くんを好きなことを林さんは前から感づいていて、恋のライバルとして認めてくれたから誘ってくれたんですね。ありがとうございます”
内海さんはピュアすぎる。




