08.訓練
銃声はイヤーマフに遮られて遠い。
反動は最近ようやく制御できるようになった。
しかし的には当たらない。
「――六発中命中弾は二発。ただし致命弾はなし」
相葉のブースの後ろで観察していた久坂が、手に持ったボードに記録を書き込みながら言う。
「ま、一か月でまともに撃てるようになったっていうのは訓練として上々だよね。命中精度は訓練だよ」
イヤーマフを外すと、一気に周囲の音が流れ込んできて一瞬だけ気が遠くなる。だが、それにも慣れた。ごついヘッドフォンのようなイヤーマフの感覚にも。
「訓練、か。普通、どれくらい訓練してから戦闘に出るんだ?」
「んー?」
何事かを書き込みながら、久坂は応じる。
「人によるね。一週間だったり、三か月くらいだったり。ただ、任務のたびにたくさん戦死者が出るから、あんまり長く訓練もしていられないんだよね。運の悪い人は銃もろくに扱えないまま駆り出されて、即行で死ぬよ」
よし、と書き上げたらしい久坂は顔を上げた。それから、空になった弾倉を抜いた短銃を受け取る。代わりに相葉に水の入ったペットボトルを渡しながら、
「未成熟な兵士から真っ先に死んで、その不足を補うためにまた未成熟な兵士が送り込まれ、また真っ先に死んでいく。素晴らしい悪循環だね」
「……素晴らしいのか、それ」
「任務が発令されるのは、大体数か月に一回。情報部が対象者について綿密に調べ上げたうえで、ようやく討伐になる。そのあたりのことは、コヒメちゃんから聞いているんでしょ?」
久坂の言葉に、ああ、とやや沈んだトーンで相葉が応じる。その様子を見て、あは、と久坂は笑った。
「やっぱり、絞られてるんだね」
コヒメちゃんは厳しいからねえ、と久坂は気楽に言うが、しかし厳しいというレベルではない。典型的に禁欲的な、武士のような人間だった。
筧・小姫。相葉が所属することになった七課七班の班長。
己を知り敵を知れば。
そう言って、相葉は自分たちの組織と、討伐対象である敵についてをみっちりと教え込まれた。