06.報告
「――報告。討伐対象十三名の能力者は殲滅。こちらの被害状況は、死者四十三名、負傷者五名。被害総額は、街の修復も含めて総額およそ三千二百万。
殉職者は以下。一班三名、オクツ・ケイゴ、マニワ・ミヨリ、ヤガケ・カツタ。二班十五名、ニイミ・カヨラ、ヒサカ・コヨリ、コジマ・カイジ、タイナカ・ケイゴ、ツルガオカ・マサオミ、キシワダ・カナコ、スイタ・ヒキカズ、タカラズカ・ヤスナリ、ネコ・ヨミヨリ、フルタ・トモチカ、クメダ・ハナミ、シロノ・ヒロオミ、サトウ・タケシ、ソウマ・ナギ、ホンマ・カズンド。三班八名、タカイシ・モトチカ、マキ・ヒデカズ、イタミ・メアリ、クビヅカ・マサト、ツダ・トキヒト、ヒエダ・マサト、トヨノ・モモリ、イズミ・チエリ。四班二名、モモタ・ヒデヒト、カツラギ・タイチロウ。五班二名、サトミ・カナミ、クドウ・コウイチ。六班九名、モロオカ・ハチミ、アカシ・カエデ、クロダ・モトリ、タカガキ・シエリ、クワノ・ショウ、ヒメジ・アカノ、アマザキ・サガル、ミズコシ・チハヤ、アシヤ・オモリ。七班四名、アシザキ・ケイ、カジ・シンタロウ、モウリ・サリ、ワダ・ダイスケ。以上」
長々と、長々と、そして淡々と述べられていく殉職者の名を全て聞き終えたのは、この場の中で――否、この組織の中で最も高い階級に座することを示す徽章を胸に下げている男、つまりは総長である、北山・大地だ。彼は瞑目して聞いていたが、報告の終わりとともに頷き、目を開けた。
「――ご苦労だった。まずは作戦の成功を祝するとともに――殉職者の冥福を祈ろう」
重々しいその言葉に、報告者は黙礼で応じるが、しかし鼻を鳴らした者もいた。
総長のデスクから斜め向かいに配されたデスクにつく男だ。
「ふん……戦死者四十三名、被害総額三千二百万! 毎度のことながら、冗談じゃない数字だよ、総長。――いい加減、やめにしないか」
彼は副長、岸田・圭吾だ。
「このような細かな戦闘では、敵を殲滅できたところでこちらの被害も甚大だ。兵士が死ぬたびに補給したところで、新兵では次の作戦中にまた殉死する。悪循環だ。そうだろう? ――いい加減、決断するべきではないかね、総長」
岸田の言葉に、しかし北山は顔を顰めるだけで応じない――作戦が終わるたびに、何度も繰り返されてきたやり取りなのだ。
「いよいよもって、大規模な掃討作戦を決行するべきだ。この終わりの見えない戦争に終止符を打とうではないか。一度に畳みかけ、完全に殲滅すれば――」
「岸田君」
短く、しかし強い響きで北山は岸田の言葉を遮る。
「君の意見ももっともだ。私だって、いつもこれだけの被害が出てしまうことには心が痛む……しかし、君の言う掃討作戦は許可できん」
「なぜかね」
「いつも言っている通りだ」
ぎろり、と北山は岸田を睨みつけた。
「超能力者と一般人は、外見上区別できるものではない。だからこそ、綿密に調査を行った上で、対症療法的に処分していくしか我々には手がない――強引に君の言う掃討作戦を行おうものなら、全く無関係の一般人にまで被害を出してしまいかねないだろう」
「多少の犠牲は、やむを得ないことだ」
「そうやって看過できるのは我々の内部のみだ。我々は何だ、その一般人を守るための組織だぞ。一般人を守るために一般人の犠牲を許しては、それは全くの本末転倒だ。魔女狩りを行うわけにはいかないのだ、我々は、決して」
どちらも一歩も譲らない構えだ。平行線の議論。室内に剣呑な空気が満ちる――が、それを全く無視した声が上がった。
「――総長。実はもうひとつ報告が」
「何だ」
声に、一応は矛を収めて北山は椅子に直る。報告者は頷いて、
「実は先の作戦中、イレギュラー因子が紛れ込みました。一応、我々の手で『保護』しておりますが、いかがしましょう」
「ふん……イレギュラー因子? 結界は作動していたのだろう?」
「はい。結界の作動は正常でした。目下、原因を究明中です」
「原因の究明を急げ。二度とそんなことのないようにな」
「了解しました。イレギュラー因子については」
「それは……君たちが『保護』したのだろう。超能力者なら迅速に処分しろ。そうでないなら、君たちで好きにするといい。――ただし、外部にはもらすな」
「了解しました」
応じて、報告者は深く礼をした。ガチャ、と小さく腰から下がる長刀が鳴る。顔を上げると、迷いなく踵を返し、その部屋を後にした。
「好きに――ね」
部屋を離れ、長い廊下を歩いていく道すがら、報告者――少女は、独白する。
「さて、どうしたものか」