49.青天下の静寂
岸田はすぐに見つかった。逃げているとしてもそう遠くへは行っていないだろう、天城に訊けばほどなくわかることだ、と天城に頼り切りな現状に少なくない情けなさを感じつつ、とりあえず最後に岸田を見たところまで歩いたところで、そこに転がる岸田を見つけた。
逃げようがなかった。岸田は、両の脚、その膝から下を、綺麗に喪失していた。
「――ふん、君か」
肩を久坂に撃ち抜かれ、両足を金木に焼き切られ、それでも岸田は尊大な態度を崩さなかった。
「思わぬ伏兵がいたものだ。恐るべきはせいぜい、筧と久坂だけだと思っていたのだがね」
「……別に、俺は恐れられるような人間じゃない」
ただ、生き延びようとして、生き残って来ただけだ。筧や久坂と同じように。
だが、それでも、と岸田は首を振った。
「これだけの戦場で生き延びるということが、既に異能とも言える才能なのだよ。ここに至って、無事でいる人間など、調べるまでもなく君だけだ」
久坂は死んだ。筧は、安否はまだ確認のしようもないが、既に戦闘の音は聞こえていない。
「七課は壊滅した。超能力者どもにも相応の打撃を与えたと、私は信じている。そうとも、私は決して、自分の信念を曲げるつもりはない。超能力者をひとり残らず排除し、我々の平和を守る。それが私の信念であり、大義だ。そのための芽も、既に世界中に撒いてある」
「……世界中に」
そうとも、と岸田は頷いた。
「超能力者にまつわる極秘資料。その多くは既に世界中の、我々七課と志を同じくする組織へ渡してある。この日本国内にもまた、機関七課の下部組織のみならず、同じような組織は山とある。七課だけが特別だったわけではない――超能力者との戦争は、こんなところでは決して終わらないのだ。奴らをこの地上から駆逐するその日までな!」
カ、と目を見開いて岸田は言う。対して相葉は、初めこそ驚いたようにわずかに表情を変えたものの、またもとのそれに戻ってしまっている。
冷たく、冷え切った表情。
「そうか」
岸田の言葉に対して、相葉の反応は短かった。ふん、と岸田は鼻を鳴らす。
「惜しかったな。君もこちら側へついていれば、遠からずの安寧が約束されたというのに」
「そんな約束は、いらない」
即答だった。
「俺にはもう、もっと優先する約束が、ある」
それがなくとも、岸田の側につくことはなかっただろうが。
「……そうかね。本当に残念だよ」
言葉ほど残念さの感じられない、蔑むような顔で岸田は言う。
「道は分かたれたというわけだ。そうなれば、することはひとつだ」
ああ、と相葉は頷いた。そして再び、銃口を持ち上げる。
「あんたの道はここで行き止まりだ。だが俺は、俺の道を行く」
歩き続ける。
合図はなかった。
それまで完全に脱力していた岸田の腕が跳ね上がり、隠していた拳銃が相葉へ向けられようとする。
けれど、絶対的に相葉の方が早かった。
銃声は一発。ごとり、と今度こそ力を失った岸田の腕が落ち、握られていた銃が滑り出る。
「――――」
数拍、相葉は銃を構えたまま動かずにいた。だが、やがてそれも下ろす。
ふ、と吐息した。短く吸って、吐く。
見上げる。
空は、憎たらしいほどに澄んで、晴れ渡っていた。
虚空に響く音は、ない。耳に痛いほどの、静寂。
ただ、緩やかな風だけが、動くもののなくなった戦場を撫でていた。




