45.邀撃する銃士
その衝撃波は、あらぬ方向から飛び込み、着弾し、爆発した。その進路上にいた新派の兵士は、運悪く中核に触れたものは一瞬で蒸発し、そうでないものも爆風で周囲の瓦礫ごと粉砕された。咄嗟に身を伏せた相葉のところにまで衝撃波が走る。衝撃が収まるのをまたずに耐衝撃姿勢を解き、見る。
久坂は。
そこに、久坂の姿はなかった。爆心地に立つのはただひとり、逆立った髪の男。
「ひゃっはは、何だ何だ、騒がしいと思ったら仲間割れかい? いいねえ、俺も混ぜてくれよ」
その男を、相葉は知らない。目にするのは当然初めてだ。
だが、天城に教えてもらわずとも、何者なのかはすぐにわかった。
機関七課本部を爆砕した張本人。
光爆の能力者。
「ったく、あの野郎、思いっきり邪魔しくさりやがって。痛えなあ、おい」
男の言葉が誰を指しているのかは、これもそれとなく知れた。飄々としているため一目では気付かなかったが、男の半身は既に壊れていた。右腕はだらりと下がり、関節は逆さに、関節でないところも好き勝手に折れ曲がり、捩じれていた。
『氣境さん……!』
小さく、天城の声が響く。男に追随するものはない。負傷してはいるものの男は生きており、氣境は現れない。その意味するところは、相葉にだって悟られた。
そして、久坂は。
久坂の姿はない。最後に見た久坂の場所は、確かたった今光爆の能力者が着弾した地点に近かったはずだ。ならば、まさか、
……久坂。
しかし、身を起こした相葉は気付く。
地面に落ちる影がある。
見上げれば、そこにいた。
痩身が宙に躍る。
男が着弾したとき、久坂は確かにその間近にいた。だが直前で、咄嗟に後ろ上方へ全力の跳躍を入れたのだ。さらには身を畳み、衝撃にも備えて。何が来るか悟っていたわけではない。長い戦いの経験から来る直感だ。
その直感は正しかった。
ダメージはありつつも、身を粉砕されることなく衝撃をいなし、さらに爆風に逆らうことなく吹き飛ばされることによって軽減する。結果、進んだ距離をほとんど無に帰されるも、久坂は五体満足に着地する。
地に足を着ければ、再び全身に風を巻く。
スタートダッシュをより速く。たった数秒で男に迫る。
「あ?」
己のもたらした惨事に浸り、油断していた男は、振り返ってあまりに間抜けな声をもらす。
「――邪魔」
走る速度を一切落とすことなく、久坂は跳ぶ。角度は鋭く、高く。かち上げた膝が、男の顔面を穿った。
が、と喉から音をもらしながら、男は威力に耐えられず仰け反る。わずかに空いた距離に銃口を向け、連射する。体幹を狙った銃弾は、しかしぎりぎりで身を捻られ手足を浅く貫くにとどまる。
「何だこの――女ァ!」
怒鳴るも、男は能力を発動することができない。ただでさえ脳を揺らされている上に、久坂の膝は男の片目を潰していた。状況の理解が追いついておらず、男はまだ反応ができない。そこに畳みかけ、今度こそとどめを刺すために転げ崩れていく銃口を向け、引き金を、
久坂の身が揺れた。
跳び膝蹴りの勢いのまま宙にいた久坂は、あらぬ方向からの射撃に為すすべなく、熱が己の身を抜けていったことを自覚する。
久坂はまだ、引き金を引いていない。
とどめを刺されなかった光爆の能力者は、ただ膝蹴りの勢いで受け身も取れずに地面を転げていき、しかし生きている。
引き金を、引いたのは。
久坂を撃ったのは、岸田だった。
久坂を恐れ、偶然物陰に隠れていた岸田は能力者着弾の衝撃からの復帰も早く、身を潜め機を窺っていたのだ。そして訪れたその瞬間に、引き金を引いた。
不倶戴天の敵を討つためではなく。
反乱因子を処分するために。
……冗談じゃ、ない。
こんな奴に、殺されるのか。
一瞬、力の抜けた両の手に、再び気を込める。振り上げた銃口が定めるは二点。それが標的をポイントすると同時に、撃つ。
弾丸が、岸田の肩を。
弾丸が、能力者の腹を。
貫いたことを確認する前に、とうとう完全に力が抜けた。そして、
「この――クソがァ!」
目を潰され、腹を穿たれた男が、口端から血を散らしながら吠えた。来る、と思うも思うように身体が動かない。
……ダメ、かな。
再度の光爆が炸裂する。




